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3.#捜索 #発見 #マーキング

 レイド様はそれから1週間待っても来なかった。

 いや、怪我はない方が良いのだけれど。

 でも私は癒し(イケメン)を全力で求めていた。


「いつもよく来る騎士団の方々は白い服なのですね」


 そう言うと職場のお姉さんから白騎士団と黒騎士団があり、白騎士団の方が顔も良くて貴族の子弟が多いのでおススメとの情報を得た。


 ふむふむ。


 ということは私にとっては黒騎士団が本丸(狩場)ということですね?と(子豚)は目を光らせた。



 私は黒が好き。

 前世のアイドルとかも白い服より黒い服を着ていて欲しい派である。そういう意味でもレイド様は完璧だった。黒い服の騎士さま。じゅるり。


 職場のお姉さんが言うには騎士団の演習は公開日もあるけど、我々治癒師は職業柄、非公開日でも行っても全然大丈夫、との事だ。


「ノアちゃんにはまだ早いけど、私達みんなお昼休憩の時は騎士団の所へ行ってるのよ? お目当ての人がいる子はお弁当を持って行ったり、ね」


「なるほどー! それで皆さん休憩時間になるといなくなっていたのですね」


「ふふふ。そうなのよー。ノアちゃんも気になる人でもできた?」


「この前来てくれた男の子と仲良くなりたいな、って思ってます!」


 そう言うとお姉様方が一斉に眉を下げた。


「ノアちゃんはまだ同世代の男の子とそんなに会ってないから分からないかもしれないけど…ノアちゃんにはもっと良い人がいると思うわ」


「そうそう。ノアちゃんなら超すっごい玉の輿狙えるわよ?」


「あの子も貴族だけど…」


「ふふっ。ありがとうございます! 私も早くお姉様達みたいに綺麗になって素敵な恋がしたいな♡」


『きゃん♡かわいい♡』


 ふっふっふ。今の美幼女な私には大人を転がすなんて赤子の手をひねるより簡単なのだよ。


 その日、私は休憩時間になった瞬間に話に聞いた黒騎士団の訓練所へ向かった。近くになってくると剣の打ち合う音が聞こえてくる。



 演習場に着くと黒のピタッとしたカットソーと黒のパンツを履いた、肉体美の素晴らしいイケメン達がひしめいていた。私はあまりの光景にくらりとした。


 ちょっと――!!なにこれ!!なにここ!!

 天国だあ―――!!!


 完全に痴女な美幼女である。


 

 き、き、きんにくーっ!

 イケメンの汗ってなんで光って見えるんだろう。尊い。あ、涙が。


 これですよ。 こういうのですよ!

 私が求めていた騎士様は!

 ラブコメファンタジーさん覚えておいてちょうだい!


 フラフラと観覧席の一番前に来る。

 ああん!この世界不細工ばっかりだと思ってたけど、ここに集められていたのね!


 私の目は直ぐに極上の美少年を見つけた。


「レイド様だあ」


 レイド様は自分よりも一回り以上大きい相手と打ち合っていた。最小限の動きでかわし、カウンターを狙う。相手に受け止められ押し切られそうになったかと思えば軽やかに受け流し、相手の背を取って一撃を決めた。

 遠くから相手の人のくぐもった声が聞こえる。痛いんだろうな。きっと青あざだ。


 レイド様、カッコよくて強いとかもうっ……!もうっ……!ほんとありがとうございますごちそうさまです。


 そのままレイド様は次の人と剣を交え始めた。次の人は40代くらいの団長と呼ぶに相応しい逞しいおじさまだった。いやん、素敵。渋い。悪そうな顔から滲み出る男の色気がやばい。好き。

 団長様(仮)は格段に強かった。レイド様も受けるので必死だ。時々バシバシ足や脇に入っている。最後に思い切りお腹を蹴られて2、3メートルくらい文字通り飛んだ。地面に着く前に猫みたいに身を翻して着地はとったけど、すぐペシャっと潰れてしまった。


「レイド様っ!」


 折角出会えた美少年騎士様が……!!

 半泣きになって思わず叫んだ。みんな一斉にこっちを見る。

 あっ。しまった……?

 レイド様も驚いた顔でこちらを振り返った。

 あ、よかった……生きてた。汗で前髪がおでこに張り付いていた。カッコいい。

 レイド様がなんとか起き上がると、さっきの団長ぽい人が何事かをレイド様に言う。レイド様がお腹を抑えながらやってきた。

 もしかして騒いだから注意されたりした? 静かにしなさい、的な?


「……何か用事があった?」


 頬を染めていらっしゃる!

 レイド様のこの反応は、トロール系幼女な私の見た目はありという事ですよね。うふふ。

 


 私がふるふると首を横に振って応えると、レイド様が怪訝そうに眉をひそめた。

 私はレイド様の近くによって、お腹を触ってヒールを唱える。

 あらヤダ腹筋バキバキ(シックスパック)だわ。うへへへ。


「……ありがとう」


「まだです。他にもたくさん……」


 まだ12歳かそこらの男の子がこんなボロボロになってるのに……。


「どうして……、こんなにいっぱい傷もあるのにどうして来てくれないの?」


 もしかして私には会いたくなかったのだろうか。

 体に精神が引っ張られてるのか、涙が込み上げてくる。


「会いたかったのに……」


 ポロポロと涙が溢れた。


「えっ、あ、いや、ごめん! 俺が悪かったから泣くな!」


 私は泣きながらあちこちの患部を触ってヒールを唱えた。レイド様はおずおずと不器用ながらに頭を撫でてくれる。優しい。美少年騎士様は女性に優しい。しゅてき……。

 あらかた見える所を治し終わるとレイド様を見上げた。


「今日はレイド様の訓練の様子を見にきたんです。思ってた通り、すごーくカッコよかったです!」


「……そうかよ」


 そう素っ気なく言ったレイド様の頬は赤くなっていた。照れ隠しか。超可愛い。ちょっと意地っ張りな感じも好きです。間近で見る極上の美少年のツンに私は悶えた。


 レイド様が急にびくっとなり、バッと背後を振り返った。


「? どうかしましたか?」


「ごめん、そろそろ戻らなきゃ!」


「呼び止めてしまってごめんなさい。頑張ってくださいね!」


 レイド様がフッと少し釣った目元を和らげて笑った。きゅん!


「あのっ!しばらく見ていってもいいですか?」


「――いいと思うけど?」


「明日も来てもいいですか? あと、さっきレイド様が倒してしまった人も治癒したいのですが」


 レイド様はキョトンとした顔をした後、ぷはっと笑った。


「お前、物好きだな!」


 きゅーん!何その無邪気な笑顔。可愛い。


「いいと思うぜ!」


 そう言って笑って手を振って走っていった。爽やか……。


 戻ったレイド様は皆に何やら説明をすると、レイド様に倒された人が歩いてきた。16歳くらいの緑の髪の優しそうな顔をしたイケメン。背中にヒールをしてあげるとすごく感謝してくれた。


「黒騎士団の皆さんはどうして治療に来ないんでしょうか?」


 たれ目のイケメンお兄さんは困ったように笑う。


「色々あってさ。ノアちゃん? はその綺麗な心のまま大人になってくれると嬉しいな……」


 うん、医務室の雰囲気知ってるから分かるよ。来づらいんだよね?

 でも、お仕事だから美醜なんて関係ない筈なのに……。


「他にも治療が必要な人はたくさんいますよね……」


「まあ、ヒールで治るくらいの怪我は時間が解決するから大した問題じゃないんだよ」


「……中等症群(ミドルヒール)の患者さんはいるのですか?」


 イケメンお兄さんは誤魔化すように曖昧に微笑んだ。


「大丈夫です。私はミドルヒールも使えます。患者の人の所へ連れて行って頂けますか?」


 騎士様が痛い思いをしてるなんて我慢できないではないか!特にここの騎士様はみんな顔面偏差値が軒並み高い。そんなイケメン騎士様が苦しんでるなんてアタシ許せないわ!と覚悟を持った目でそう伝えると、お兄さんは目を見開いた。


「その年で? 本当に?」


「私は平民です。私が王宮で働いているのは上級魔法まで使えるからなんです。ですから、案内して頂けますか?」


「そっか……すごい、ね」


 お兄さんは少し迷ったあと、「うん、分かった」と呟いた。


「俺みたいな奴に触られるのは嫌かもしれないけど、よかったら抱き上げてもいいかな?」


 急な提案にちょっと驚いたけど、訓練場の広さを見て納得。残りの休憩時間を考えたら自分の足では厳しい。


「そうですね、時間も迫ってますし。お願いします」


「うん。頭の回転も速いね。本当にノアちゃんにはそのまま育ってほしいな」


 そう爽やかに笑われたけど多分この人腹黒だ。

 私もふふふ、と笑い返して、お兄さんに抱き上げてもらう。


「……なんで赤くなってるの?」


「片手で抱き上げてくれるお兄さんがカッコよくて……!」


 そうなのだ。騎士様の逞しい腕の上に私のお尻があって、両手は腹黒お兄さんのしっかりついた首から肩にかけての筋肉の上に置いている状態なのだ。


「ふふ……あんまり可愛い事言うと攫っちゃうよ?」


 そう言ってツンと私のほっぺを突く。

 

 うひゃあああ! 可愛いのはあなたです!

 ここは天国でしょうか?

 

 益々真っ赤になる私をお兄さんは面白そうに見ていた。 



 お兄さんに連れられて集団の皆さんの居るところに着くとレイド様がぽかんとこちらを見ていた。

 うん、さっき爽やかに別れたのに舞い戻ってきてごめんね。


「団長。治癒師さんがミドルヒール患者を治してくれるそうです」


 そう言うと、さっきレイド様を蹴り飛ばしたダンディな男性が目を見開いた。


「その子が? いや、分かった。おい!」


 その一言で5人の人間が集まる。私は順次中級回復魔法(ミドルヒール)をかけていった。

 大勢の人達に静かに見られて恥ずかしいものがある。


「(えっ、詠唱省略?)」とかひそひそ話が聞こえるけどしょうがない。『主よ聖霊よ 御光をもて 混沌を照らし……』みたいな恥ずかしい言葉、私には言えない。前世の中二病が再発しそうになるんだもん。刮目せよ!我の……あ、しまった再発しかけた。危ない危ない。


「ありがとうお嬢さん」


 深く頭を下げられてこちらが恐縮するばかりだ。


「あの、その、仕事なので。それよりも出しゃばってごめんなさい……!戻ります!」


「俺が送ってく」


 振り向くとレイド様が居た。


「いいですか?団長」


 私が団長っぽいと思っていた人はやはり団長だった。

 団長さんは喉で笑った。


「聞く相手が違うんじゃないか?オーウェン?」


 レイド様は不愉快そうにしかめた後、私に向き直って騎士の礼を取った。

 洗練された動きにキュンとする。


「小さなレディ。わたしに貴女を送る栄誉を与えて頂けますか?」


 ボッと自分の顔が真っ赤になるのが分かった。

 前世は庶民。小説の中とかでは見たことがあったけど、リアルな男の子にこんな事された事無い。しかもタイプの美少年騎士。破壊力がやばい。

 「あ」とか「う」とか意味をなさない言葉しか口から出ない。


 何やってるの私!レイド様に気持ち悪がられてしまう!がんばれ(トロール)

 レイド様は貴族っぽく微笑んでますます何も言えなくなってしまう。私は涙目で頷いた。かっこいいいいいい。心臓止まる。

 差し出された手におずおずと手を乗せるとぐいっと引っ張られてサッと横抱きにされた。ぴゃあああ!役得!役得です!私はさりげなく匂いも嗅いだ。スンスン。いいにほい……。


「では、行ってきます」

「おー早く戻ってこいよ」

「了解」


 そう言ってレイド様が駆け出した。体型は子豚だから重たいだろうに、全くそんなことを感じさせない安定感。腕の中からレイド様の顔を見上げる。超整ってる。レイド様の顎と首筋の感じが超好き。エロい。舐めたい。

 ん?あれ?ちょっと不機嫌そう?


「レイド様、ごめんなさい」

「なにが?」

「皆んなの前で出しゃばって迷惑じゃなかったですか?」

「迷惑? そんな事あるわけないだろ」

「じゃぁ、明日も来ていいですか?」

「……ノアは何を見に来るんだ?」


 レイド様の黒に見えた瞳は光が差し込むと深いワインレッドのように煌めいた。綺麗。

 何って。それはもちろん。


「レイド様、ですよ?」


 レイド様が目を見開いて、頬が赤く染まる。


「~~っな、なら来ればいいだろ」


「はいっ!」


 私は嬉しくて笑う。レイド様もくすっと笑ってくれた。


「お前、やっぱ変わってるよ」


 レイド様は医務室のすぐ近くまで送ってくれた。

 カッコいいのに優しい。素敵……。私はその日の午後はご機嫌に仕事をした。




「お前、腕のいい人に診てもらえて本当よかったな!」


「まあまだ子供だからなぁ。不細工だけど親切な人に診てもらえたんだろ」


 ノアの話をしたけど誰も信じてはくれなかった。

 そりゃそうだよな。俺よりも幼い子が上級治癒魔法(ハイヒール)を使えるなんて。

 俺も見ていなかったら信じなかった。


 ノアと会ってから1週間が経った。

 時々チラチラと頭をよぎるけど、会いに行けずにいた。




 模擬戦でテオとやった後、団長と打ち合うことになった。


「おら! 足、脇、がら空きじゃねーか!」


 言われながらガードの甘いところにバシバシ木剣で殴られる。最後に思い切りお腹を蹴られて2、3メートルくらい文字通りふっ飛んだ。地面に着く前に身を翻して着地はとったけど、蹴られたダメージが思いのほか大きくて力が入らず、ペシャリと潰れてしまった。


「レイド様っ!」


 その時、聞き覚えのある銀鈴のような少女の声が聞こえた。


「――ぁ? ノア?」


 どうしてこんなところに?

 

「なんだレイド、知り合いか?」


「この前俺を治してくれた治癒師です」


「ほお? まっ、なんか用事でもあるのかもしれねえから、お前行ってやれ」


「はいっ」


 ノアの元に行く。

 やっぱり可愛くって、この演習場には不似合いだった。

 また心臓がドキドキする。女の子には慣れていないから気の利いた話し方も分からない。


「……何か用事があった?」


 ノアは首を横に振って、俺のお腹に触れて治癒魔法(ヒール)を唱えた。


「……ありがとう」


「まだです。他にもたくさん……」


 次々とヒールを唱えてくれる。

 ゆっくり伸ばされる手になんだかそわそわして、あちこち小さな手で触れられるたびドキドキして、むず痒いような気分になる。


「どうして……。こんなにいっぱい痣もあるのにどうして来てくれないの?」


 ノアが綺麗な紫紺の瞳をうるうるとさせて見上げてくる。

 心臓がギュッと掴まれた気がした。


「会いたかったのに……」


 ポロポロと綺麗な涙が溢れる。

 えっ? 俺に会いたかったの?こんなに可愛い子が!?

 嬉しさと、泣き始めてしまった子に対する動揺と、会いに行かなかった申し訳なさと、可愛いと思う気持ちの間で俺はぐるぐるになる。


「えっ、あ、いや、ごめん! 俺が悪かったから泣くな!」


 泣いてるのに、ノアはまだヒールをかけ続ける。

 俺はノアに泣き止んで手を伸ばしかけて――止まった。いや、俺みたいな不細工に触られたらそれこそ嫌なんじゃないだろうか?犯罪か?でもさっきからノアから触ってくれてるし。でもそれは仕事だからか?でも会いにきてくれたくらいだし。


 くそ。泣いてる子に対して情けねぇ。俺はそっとそのまま手を伸ばして頭を撫でてみた。嫌がられなかった事にほっとする。薄紫色の髪はサラサラしてて気持ちよかった。可愛いと思う気持ちが溢れて、胸の中にポッと温かいものが灯ってじわじわと侵食していく。


「今日はレイド様の訓練の様子を見にきたのです。思ってた通り、すごーくカッコよかったです!」


「そうかよ」


 ノアの一言がすごく嬉しくて恥ずかしい。ニヤけそうになるのを堪えるのが精いっぱいで、俺は素っ気なく返す事しかできなかった。そんな俺にノアはニコニコと笑いかけてくれる。

 自分の人生で女の子にカッコいいなんて言ってもらえる日が来るなんて思ってもみなかった。頑張ってきてよかった……。

 ノアに癒されていたら背後から強烈な殺気が飛んできた。


「どうかしましたか?」


 団長からいつまでサボってる気だ、という無言の圧を感じる。


「ごめん、戻らなきゃ!」


「呼び止めてしまってごめんなさい。頑張ってくださいね!」


 うん、と笑みが零れた。自分でも単純だと思うけど、こんな可愛い子に応援されてすごくやる気が出た。


「あのっ! しばらく見ていってもいいですか?」


「――いいと思うけど?」


「あと、明日も来てもいいですか? あとあと、さっきレイド様が倒してしまった人も治癒したいのですが」


 明日も会える事が嬉しくて、こんな時なのに真面目に働こうとしているのが可愛くて、ぷはっと笑った。


「お前、物好きだな! いいと思うぜ!」


 そう言って笑って別れた――つもりだった。


 しばらくしたら背中を治癒してもらったはずのテオがノアを抱っこして戻ってきた。俺はテオがノアに触れているのになんとなくイライラした。


 どうやらノアはミドルヒールをかけに来たみたいだった。

 客観的に見る治癒魔法による治療はとても神聖で綺麗だった。魔法を発動するたびにノアが七色のダイヤモンドダストのような煌めきに包まれて、周りは感嘆のため息をついた。


 でも、俺はノアが誰かに触れる度に面白くない気持ちになる。


「あの、その、出しゃばってごめんなさい……! 戻ります!」


「俺が送ってく」


 テオが動く前に名乗り出た。ノアをこれ以上誰かに触れさせたくない。


「いいですか? 団長」


「聞く相手が違うんじゃないか?()()()()()?」


 いつもは名前で呼ぶのに。貴族らしく振る舞えってことだろう。

 いいだろう。見てろ。……一応習ったし。

 誰かにやる日が来るとは思わなかったけど。

 ノアに向き直って紳士の礼を取った。


「小さなレディ。わたしに貴女を送る栄誉を与えて頂けますか?」


 こんな不細工な俺でも効果はあったようで、ノアは真っ赤に染まって涙目で頷いた。なにこの生き物捕獲したい。

 おずおずと俺の手を取ったのでぐいっと引っ張り横抱きにする。小さな体は温かくて柔らかかった。さっきまでのイライラがフッと軽くなるのを感じた。


「では、行ってきます」


「おー早く戻ってこいよ」


「了解」


 腕の中からノアが話しかけてきた。


「明日から来ない方がいいですか?」


「……ノアは、なにを見に来るんだ?」


 俺に会いに来てくれたのかと思っていた。

 勘違いだった気恥ずかしさからつい、ぶっきらぼうな物言いになってしまう。


「レイド様、ですよ?」


 アメジストの瞳で俺を真直ぐに見つめながらノアは当然とばかりに言い切った。


「~~っな、なら来ればいいだろ」


 心臓が止まるかと思った。顔は茹るし、心臓がバクバクするし、ヤバい、なんだこれ……っ!

 とりあえずノアが可愛い!


「はいっ!」


 ノアの嬉しそうな笑顔に胸が甘く締め付けられる。


「お前、やっぱ変わってるよ」


 ――俺みたいな不細工に会いに来るなんて。


 俺は医務室のすぐ近くの所でノアを下ろした。


「明日も来るの?」


「はい!」


「同じ時間に?」


「はい」


「……迎えにいってあげる」


「えっ」


「だからもう他の奴に抱き上げられちゃだめだからな?」


「はいっ!!!」


 俺は笑った。ノアは可愛いけど変なやつだ。


ブックマーク、評価ありがとうございます!

投稿するつもりじゃなかったんですが、気が付いたら投稿されていてめちゃくちゃ焦りました(笑)

ブックマークしてくださった方のために、完結まで投稿しますのでお付き合い下さりますと幸いです。

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