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2.出会い


 ――待ってろ不細工ども(イケメンたち)! 私が助けに行く!



 なんてね。息まいていた時代が確かに私にもありましたよ。

 しかし、現実は厳しかった。どうせなら超不細工(イケメン)がいいなあ、なんて思ってるとなかなか出会えない。

 きっと迫害されてるんだ。可哀想に。くすん。


 見た目は幼女、頭脳は大人!であり、狂ったようにレベル上げをしていたのでそこそこチート美少女(トロール)な私は治癒師という仕事(ジョブ)を選択した。聖属性魔法なら、神官・聖騎士・治癒師から選べるのだけど、信仰心とか1ミリもないし、痛いのとか嫌だし。その点、前世の医者もそうだけど命にかかわるお仕事と言うことは稼ぎもいい。治癒師一択である。打算である。打算以外のなにものでもない。


 そして能力の高い私は勤務地も選びたい放題だった。


 前世から私は騎士様が好きだ。

 色々ラノベとか読んでもヒーローが騎士さまだと超興奮した。

 騎士様なら腹黒もわんこも強面な感じも全部全部だいこうぶつだ!

 そんな不細工(イケメン)な騎士様に出会うべく私は……王宮の医務室勤務を希望した。


 王宮の医務室は女子にとって発展場…?というか出会いの場で本当は貴族のお嬢さんが結婚するまでの腰掛で務めるところなのだけど、重傷者が出たときの為にちゃんとした治癒師が勤務する枠があって、そこを見事勝ち取ることができた。

 そんな医務室はまさに女の園。イケメン(不細工)が来ると皆のテンションが上がり毎回、女同士の無言の熾烈な戦いが行われる。そんな多少ギスギスした職場だ。


 私はまだお姉さま方の敵となり得ない美幼女だし、男はフツメン以下専門なので、お姉さま方からはアイドル扱いで猫かわいがりされている。昔の服もらったりだとか。ありがたや……。


 けど、いつも来る騎士様は筋肉の上にきちんと脂肪がのっていて、お腹もメタボな人たちばかりで……来る日も来る日も暑苦しいイケメン(不細工)ばかりがやって来る日々。「ひでぶ!」とか言いそうな感じだ。うん。騎士様なら全部好きって言ったけどさ、これはなんか違うねん。思ってたのと違う。ドシテ…?ナンデ…?私なにかした…?くすん。



 2年が過ぎ、10歳になった私は色々と諦めかけていた。そんなうまい話があるわけなかったのだ……と。私のラブコメファンタジーさんは仕事放棄(ストライキ)していらっしゃる。ねーえ?もしかしてこのまま終わるなんて事ないよねーえ?ラブコメファンタジーさぁぁん!



 そんな事考えながら王宮の医務室でその日もぬるーく働いていたらすごい勢いで扉が開いた。

 扉の近くにいたお姉様方が「きゃあっ!」と小さく悲鳴をあげる。


 ――わー。これ絶対なにかあったパターンのやつじゃん。


「あら? 何かあったのかしら?」


 と一緒に話していたお姉様がきっちりフラグを建てたので私も恐る恐る入り口を振り返る。


 ――えっ、うそ……。


 私の心臓はその時止まった(気がした)。超タイプの超絶美少年がそこに居た!!!

 紅蓮の髪と、切れ長の漆黒の瞳。ちょっと生意気そうな顔をした13歳くらいの黒い騎士服の少年。



 少年騎士……だと!?



 大好物です!

 はあああん! かっこいい! 尊い! 


 わかる。前世アイドル大好きだった私には分かる!

 彼は絶対ものすごいイケメンになる。しかも私の超タイプのだ!!


「お願いします! 二度と剣が…っ」


 すぐ駆け寄りたいのに心臓がドキドキして動けない! がんばれ私! 誰かに盗られてしまう!

 あ……どうしよう。かっこよすぎて震える。

 よし! 深呼吸だ!


 ひっ ひっ ふぅ―――!


 急に部屋の端で変な呼吸をし始める豚を気遣わし気な目でお姉様が見ていた。

 でも、今の私には美少年騎士様しか目に入らないのだ!



 うしっ。狩 り(ハント) の 時 間 だ。



「どうされました?」


 戦闘態勢(上目づかい)で声をかけるトロール的幼女。


 けど、それどころじゃないとすぐに気づいた。

 腕が半分近く切られてて、酷い出血だった。


「え…っ!? すぐ治癒しなくちゃ! 上級治癒魔法(ハイヒール)!!」


 ちなみにハイヒールが使えるのは王都には3人しかいない。

 私が居なかったらヤバかったよ美少年騎士さまっ!


「これでよしっ、と。ついでに小さな傷も治しとくね?」


 私は美少年騎士様にもっと自分をアピールしたくて、おせっかいを焼く。

 その少年の体の小さな傷、一つ一つに人差し指でそっと触れて治癒魔法(ヒール)を唱えていく。ボディタッチって有効なのだろうかと、ちらっと確認すると騎士様は顔が真っ赤になっていた。 はう!可愛い!

 触れるたびに視線が超高速で泳ぐ。なにこれ可愛い。

 美少女(笑)でよかった。


「―――――っありがとう」


 治療が完了すると美少年が目を逸らしながらそう呟いた。ああん、声もすき。涼やかでよく透りますね。


「どういたしまして。 あなたも騎士様なの?」


 超絶美少年が騎士の礼をとる。

 生意気そうな美少年が美しい騎士の礼をスッとするとか! それを生で見れるとか! はああん! 異世界に感謝!


「黒騎士団所属のレイド・オーウェンです。この御恩は忘れません」


 ()()騎士様はレイド様というのかあ。名前もカッコいい。


「医務室で働いているノアです。ただのノア。仕事だから気にしないでください…」


「そういう訳には…」


 私はどさくさに紛れて、ぎゅっとレイド様の手を握る。

 美少女(笑)だからこそできるアグレッシブな動き! 逃しません、この出会い(チャンス)

 レイド様の耳が真っ赤に染まる。

 有効! 有効です! ボディタッチは異世界でも有効です!


「同じ年ぐらいの子ってあまりいないから、よかったらまた来てください」


「や……、あの……」


「かすり傷でもいいから!」


「わ、かった」


 私はこのとき、仕事に癒し(ときめき)ができた……と浮かれまくっていた。



 *



 俺はオーウェン伯爵家の三男に生まれた。俺は俗にいう『先祖返り』らしく戦闘に関する才能を持って生まれた――――ただし、見た目と引き換えに。

 両親も兄も美形なのに、俺は生理的嫌悪感を抱かれるほどの不細工として生まれてきた。


 貴族と言っても三男であり、見た目もよくない俺は、幼い頃から騎士で立身出世することを目指していた。その甲斐あって異例の12歳という年齢で騎士になることに成功した。

 白騎士団は身分や見た目が良いものが集められ、主に王宮や式典の警護をすることが多く、黒騎士団は実力至上主義であり、国境の警備や戦争に駆り出されるのがメインだ。

 白騎士団には所属するには身分としては問題なかったけど、それを上回る不細工さ(デメリット)によって俺は黒騎士団に配属となった。黒騎士団の訓練は厳しくて毎日年上の先輩達にボコボコにされて怪我の堪えない日々を送っていた。

 この国は美醜に関して厳しい。普通の人たちは不細工なものを見ると吐き気がするのだそうだ。

 だから黒騎士(俺たち)が怪我をしても医務室に行くことは無かった。


 だけど、真剣による訓練の日に俺は先輩に腕を半分くらいまで切られてしまい、脂汗を浮かべて腕を抑えながら必死に医務室に駆け込んだ。案の定、医務室の人たちは皆嫌そうな顔をした。


「お願いします!二度と剣が…っ」

「(えー。やだあ、あんな不細工の近くなんてとても寄れないわ)」

「(いやあああ! ほんとムリムリ。誰か行ってよお)」

「(ごめん、無理。生理的に無理。可哀想だけど……)」


 治癒師は一般的には女性がなる。

 特に王宮勤めともなれば、将来の結婚相手を探すための家柄の良い若い女性が多い。彼女たちはこの世界の中でも特に美醜に厳しい部類の人間だ。

 俺は諦めて、教会にいる神官の人の元へ行こうと思った。


「どうしました?」


 その時、鈴を転がしたような少女の声が聞こえた。

 顔をあげれば、治癒師の服を着た俺よりも3つ下ぐらいの女の子が立っていた。俺は痛さも、呼吸さえも忘れた。――その子があまりにも可愛かったから。

 淡い紫色の髪に紫紺の瞳の少女は天使のようだった。


「え…っ!? すぐ治癒しなくちゃ!ハイヒール!!」


 俺は焦った顔も可愛いな……と見惚れてて、小さくて真っ白な手が俺の患部に触れて、女の子がそう言うのをどこか遠い意識の所で聞いていた。自分の心臓が壊れそうなほどにうるさい。


「これでよしっ、と。ついでに小さな傷も治しとくね?」


 その綺麗な女の子が俺の体の小さな傷、一つ一つに触れてヒールを唱えていった。女の子に触られるのどころか、こんな近くに寄ってもらったのも初めてだった。心臓はうるさいし、顔が熱くてしょうがなかった。白騎士団の連中はいつもこんな風にしてもらえてるのか?と場違いにも嫉妬した。


「―――――っありがとう」


 全てが終わった時に、絞り出すようにやっとそれだけが言えた。


「どういたしまして。あなたも騎士様なの?」


 はっとして騎士の礼をとる。


「黒騎士団所属のレイド・オーウェンです。この御恩は忘れません」


 天使みたいに可愛い女の子はくすっと可愛らしく笑った。


「医務室で働いているノアです。ただのノア。仕事だから気にしないでください」


「そういう訳には…」


 ノアがぎゅっと俺の手を握った。

 な、なぜ!? 俺は顔面凶器な不細工なのに……!

 心臓が壊れそうなほどドキドキして呼吸が苦しい。


「同じ年ぐらいの子ってあまりいないから……、よかったらまた来てください」


「や……、あの……」


「かすり傷でもいいから!」


「わ……かった」


 そうは言ったものの、ノアの後ろにいる女性たちの顔が死んでいる。

 ノアには会いたいけど、こんな不細工に来られても困るだろうし、もう行くことは無いのだろうな……と思う。

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