15.ちびっ子と天使
※いちゃいちゃシーンは脳内で画像処理していただいて、美少年と美少女に置き換えていただく等してお読み頂くことをお勧めしております。
私は王都の下町で「天使」なんて呼ばれちゃったりして、ちょっとした有名人だ。困ってる人には無償で治癒をし、不細工にも優しく、美少女にも関わらずそれを鼻にかけないという、客観的事実だけを切り取ればどんないい子ちゃんだよ、と突っ込みたくなるようなキャラになってしまっている。
そんなトロールは、ちびっ子達からも大人気だった。
この世界は全体的にふくよかな体型をしている人が多い。そして、ちびっ子達もぷくぷくしている。
ぽっちゃりした小動物とかが可愛いように、ぽっちゃりした子供もすんごく可愛いわけで。そんなちびっ子達に「おねーちゃんきれー!」とかちやほやされて、懐かれて、嬉しくて、超構っていた訳で。
―――そして、それが今、仇となっている。
「の、ノアちゃんをはなせ!」
「ノアちゃんをはなせ!」
今、私とレイド様はちびっ子達にわらわら取り囲まれている。4歳から6歳くらいのムッチリした玉のようなちびっ子達はとっても可愛いんだけど、みんな手に「ひのきのぼう」っぽいものを持って構えているという穏やかじゃない状況だ。
レイド様は、苦笑いで困った顔をしている。そんなお顔もとっても可愛い!
「んーとね、私はこのお兄さんと付き合ってるんだよー?」
『うそだー!!』
「ほんとだよー。私は将来このお兄さんと結婚するんだよー」
「えっ」
『うそだー!!!!』
おっ、みんな今にも泣きそうになっている。なんて罪な女(笑)なのでしょう。
「本当なんだ。ごめんね?」
『うわあああん!』
「いてっ。いてっ! ちょ、おいっ!」
みんな去り際にしっかりとレイド様をボコっていく。レイド様も避けずに、毎回ちびっ子達にやられている。
「回数重ねるごとに遠慮がなくなっていくところが怖いな…」
レイド様は苦笑いだ。紫のトロールは、ちびっ子達にとって憧れのお姉さん(笑)だったのだろう。
「えへへ。ごめんね、レイド様」
「いや。いいんだけどさ。俺ちっちゃい子と関わった事無いからどうしていいか分かんないだけで」
「打ち身、治そうか?」
レイド様は苦笑いする。
「地味に痛いけど大丈夫。流石に大きい子のやつは手で止めたし。――あいつ、急所狙ってきやがった…」
眉間に皺を寄せて呟くレイド様が可愛くて、くすくす笑ってしまう。
「自分よりも遥かに大きい奴に向かっていくって、あの年の奴らからしたらすごい勇気だと思うよ」
「そうだよねー」
「ノアは慕われてるな。――でも、渡さないけどな」
ぎゅっと抱きしめながらそんな事を言ってくれるので、嬉しくてデレデレしてしまう。
さて、そんな出来事に最近は見舞われているけど、今日もレイド様とデートです!
私達は休みの度にデートをしている。今日は、タルトが有名なケーキ屋さんに行って二人で食べたり、雑貨屋さんみたり、お洋服屋さんみたり。レイド様は紳士だし、気遣いは完璧だし、イケメンだし、今日もとーっても楽しかった!レイド様はタルト屋さんで一口サイズのアップルパイを大量購入してて、「それ全部食べるの?」って聞いたら、恥ずかしそうに頬を染めながら「まあ、そんなとこ」とか、可愛すぎる。まじ天使!
そうこうして歩いていると、今日もまたむちむちした玉のようなちびっ子達に取り囲まれる。押すとコロコロ転がりそうな感じが堪らなく可愛い!
「ノアちゃんを離せ!」
「ば、バケモノ!」
「ふふ。おねーさんの大事な人を悪く言わないでくれるかなあ?」
笑顔で優しく言ったのに、ちびっ子達が一斉に震え上がる。あれか、美形の怒った顔は怖い(笑)が発動されているのかな。
「ほら、アップルパイやるから怯えんな」
『えっ』
レイド様の一言にちびっ子達が一斉に固まる。
「お、お前みたいな気持ち悪いヤ…」
笑顔の私と目が合うとブルブル震えるちびっ子。そんなに怖い?
レイド様はそんな私達を気にする事もなく紙袋を広げた。すぐに甘く香ばしい香りが辺りに漂って、ちびっ子達の目の色が変わる。ちびっ子達は怯えながら近づくノラの猫のようにジリジリとレイド様との距離を縮めていく。なにこの可愛い光景。
一人が手を差し出して、その掌にアップルパイが乗せられると、後はもうみんな一斉だった。目をキラキラさせてレイド様に集まる。掌に貰ってはすぐ離れて食べて、お代わりのためにまたレイド様に近づいて、最終的にはレイド様を取り囲んでいた。
「うんめー!」
「こんな美味しいの初めて食べた!」
うんうん、それ、王家御用達の超高級店のやつだからね。
「お前、結構いいやつじゃん!」
うんうん、その人、伯爵家の人だからね?
「……」
うんうん、リナちゃん?なんでレイド様の服をずっと掴んでるのかな?
ちびっ子に囲まれてレイド様はどことなく嬉しそうだ。野生のぽってりした子狸に餌付けをする美少年という、ほっこりする光景に私は涙ぐむ。可愛い。すごく癒される。
ただし、私は5歳のリナちゃんに既に女としての何かを感じた。狩りの上手な雄がモテるように、無垢な子供には本能的にレイド様の魅力が分かってしまったに違いない。ぐぬぬ。
アップルパイを食べ終わった後、ちびっ子達は完全にレイド様に対する警戒心をなくしていた。
「おまえなんていうの?」
流石に注意しようと思ったら、レイド様に目で制されてしまった。
「レイドだ」
「やっぱりおまえ、おきぞくさまだったのか!」
「やっぱりって!ソル君、お貴族様かと思いながら狼藉を働いてたの?危ないからダメだよ!?レイド様だったからいいけど、殺されちゃったかもしれないんだよ?」
ちなみに、この国は身分によって名前につけられる母音の数が違う。平民は二つ、貴族は三つ、貴族の当主は四つ、王家は五つ以上となっている。
「う……。でも、ノアちゃんが…ヘンなヤツにつかまっちゃったのかと…」
涙目になって震えるソルくん。
じーん、としてしまう。
「ソルくん…」
きゃわいい!と思わず抱きしめようと思ったらレイド様に腰をガッチリホールドされてしまって、全く動けなかった。あれ?とレイド様を振り返ったらフイ、と横を向いてしまった。
「おきぞくさまのクセに、チョーぶさいくだな!ヒッ」
私の笑顔に怯えるチビっ子。
「(ノアちゃんっておこるとこわいんだな)」
うんうん、ばっちり聞こえてるからね?レイド様がちびっ子に小さく何か呟くと「ばっかじゃないの?」と言ってちびっ子はレイド様を殴った。
「おまえなんか、すぐフられちまうんだからな!」
と捨て台詞を吐いてちびっ子達は去っていった。リナちゃんだけが可愛らしく「レイドさま、ばいばい」と手を振っていたのを私は見逃さなかった。リナちゃん、恐ろしい子。
「無事あいつらに会えて良かった」
爽やかに笑うレイド様。
きゅぅん!やっぱりレイド様は天使だ!
「ちびっ子達へのお土産だったんだね?」
「まーな。会えなかったら自分で食うつもりだったけど…。 それにしてもどうして毎回ちゃんと出会えるんだろうな?」
「王都の下町の情報網は怖いものがあるからね…。だから治安もいいんだよ?人攫いとかはここ何年も無いしね!」
レイド様がくすっと笑って、髪を梳くように頭を撫でてくれる。
「そうじゃ無かったらすぐにノアの家を引越させるから」
はう。きもちいい。レイド様はゴッドハンドの持ち主ですぐにトロン、とさせられてしまう。この手はダメだ。女の子を蕩けさせてしまう魔性の手だ。この手でリナちゃんをナデナデしたら、リナちゃんは秒でレイド様に落ちてしまう!絶対に阻止しなければ!
*
俺とノアが傍からどう見えるかと言えば、黒騎士団の奴等の言う通りだ。
(おい、レイド。 お前とノアちゃん王都でなんて言われてるか知ってるか?)
(……知らないけど、どうせ録でもないんだろ?)
(そうそう!「貴族に生まれたので超絶美少女を買ってみた」とk…グハッ)
(ぶひゃひゃひゃ!!俺も聞いた!「ある日、催眠術に目覚めたのでカーストトップの美少女を…あべし!!!)
(次、ノアを卑猥な目で見たら、まじで殺すぞ塵共…)
(((ちょ!!お前、殺気マジ止めろ!!お前と隊長のは…やめてとめてやめてとめてぇ!!!)))
(お前らばっかだなぁ。なんでそんな事わざわざ言うんだよ?)
(だって、思春期なんだぞ?)
(青春スーツ着てるんだぞ?)
(これを揶揄わずして、どうするよ!?)
(ぶはっ!大人げねぇな!)
(まあ、それは半分で――)
(((残り半分は、嫉妬だ)))
(……なるほど。 レイド、俺も聞いたぞ!「惚れ薬w…おおお おばっ、だずけてえ… ゴホォっ!!)
(―――他、なんかあるか?)
(((まだ死にたくありません)))
――ちっ。思い出しただけでもイラつく。
全く釣り合っていないことは分かっているけど、変な表現すんな。ノアが穢れる。
俺の彼女は美少女だ。一緒に歩いていると上の年代からは心配する目が、同じ年代の奴らからは殺気が飛んでくる。そして、下の年代は素直に実力行使してくる。――このように。
「ノアちゃんを離せ!」
「ば、バケモノ!」
随分可愛らしい威嚇に思わず顔が綻ぶ。
「ふふ。おねーさんの大事な人を悪く言わないでくれるかなあ?」
「―――」
……あれ、おかしいな。ノアは笑顔なのに、背後に刀を持った般若が見える気がする。
チビ達も青くなり一斉に震え上がった。暴言を吐いたチビが口を抑えて頷くと、ノアの後ろから異界の冷気を伴った般若は消えた。笑顔の表情は全く変わらないのにすごいな。アレなんだったんだろう。たぶんチビ達にも見えてたんだろうな。
「ほら、アップルパイやるから怯えんな」
『えっ』
断られたらちょっと凹むな。
「お、お前みたいな気持ち悪いヤ…」
ノアの無言の笑顔でチビが黙る。するとすぐに穏やかなノアに戻る。そんなノアを見て、きっといいお母さんになるだろうな、と思って、赤面した。
おおおお、落ち着け俺!それは客観的事実であって、確かにできたら願わくば俺と結婚してくれたら嬉しいとは思ってるけど!!そうなるといいな、と思ってるけど!いや、そうするつもりなんだけど!それで子供も……いやいやいや何考えてんだ落ち着け俺!
紙袋を広げると甘く香ばしい匂いが漂ってチビ達が鼻をヒクヒクさせながら近づいてくる。可愛い。すっげー可愛い。ちっちゃい子供を近くで見る機会なんて今まで無かったけど、コロコロしててこんなにも可愛いものなんだな。ノアの子供だったら絶対天使だよな…と思って、また赤面した。
だーかーら!それは客観的予想であって、確かにできたらそれが俺との間の―――いい加減この思考回路をなんとかしろ俺!!!
独りで勝手に悶えて赤面している間に、気が付いたらチビの一人がちっちゃな手を差し出してきたので、その掌にアップルパイを乗せると後はもうみんな一斉だった。全部食べてもらえてホッとする。
チビ達は警戒を無くしたのか無邪気に俺に話しかけてきてくれた。
「そのわりにチョーぶさいくだな!ヒッ」
チビ達が悪態をつく度にノアが怒ってくれるのが嬉しくて、ついニヤけてしまう。
「(ノアちゃんっておこると、こわいんだな)」
「(可愛いだろ?)」
つい惚気たら「ばっかじゃないの?」と言って殴られた。
チビ達なんて、ノアが居なかったら絶対に俺に近づいたり、話しかけたりしないだろう。ましてや、例えお菓子を配ったとして怪しんで逃げるだけだ。
ノアとずっと居ると、周りの視線が段々と穏やかなものに変わっていく。「気持ち悪いモノ」から「見た目が非常に残念なモノ」への変化ぐらいだけど、大きな違いだ。前者は無いものとして扱われ、後者はちゃんと視認して中身を見てもらえる。ノアと居るだけで悪辣だった世界が正当なものに変わっていく。
こんな事が起こるとは思ってなかった。周囲からは関わりあう事さえずっと拒否されて来た。色んな変化は「あの子が近くにいるなら」というノアへの信頼に他ならない。
俺はノアに何を返していけるのだろう。そんな事を思いながら、髪を梳くように撫でると、猫みたいに気持ちよさそうに目を細める。そんな可愛らしい仕草に、また優しい気持ちになる。
「レイド様、リナちゃんの頭は撫でちゃダメだからね?」
「……リナちゃん?」
「さっきレイド様に『ばいばい』って言った子」
「ああ、あの子」
どことなくノアがむくれている。
「なに?ヤキモチとか?」
言っているのが不細工だと思うと殴りたくなる台詞だ。
だけど言われたノアは、頬を染めてぷくっと片頬を膨らませながら、ぺしぺしと全く痛く無い攻撃を俺の二の腕に加えてくる。
「えっ、本気で?」
涙目になって子猫が威嚇するように睨みつけながら「うぅ~……」と小さく唸った後、伏し目になって「だって、不安なんだもん…」と、急にしおらしく呟いた。
心臓を鷲掴みにされて、思わず抱きしめる。
ああ、もうなんだろうこの可愛い生き物。可愛すぎてしぬ!
俺を殺しにかかってきてるとしか思えない。やばい。可愛すぎてやばい。妬いてもらえるのとかすげー嬉しい。
「なんで、そんな可愛いの…」
「可愛く無いから!だから心配なの。ね、レイド様、他の子をなでなでしないでね?」
涙目の上目遣いよくない。身長差だからしょうがないけど、凶悪すぎる。
「レイド様……?」
潤んだ紫紺の瞳を不安そうに揺らしながら、遠慮がちに俺の服の裾を掴む。ああもう、可愛すぎるだろ。
「ひゃっ!?」
ノアを抱き上げて急いで待たせてあった家の馬車に乗せた。
「ノア以外を、撫でたりしないから」
ノアを膝の上に乗せてぎゅうぎゅう抱きしめて、痛む心臓を無視してとりあえずそれだけ伝えた。
「ほんと? 約束だよ?」
縋るように俺のシャツを掴んで鼻先がくっつきそうな距離で一途に俺を見つめる。
「ん、約束する」
とびきり甘いもので首を絞められているような息苦しさで、死にそうになる。
「わがままでごめんね?」
お互いの息が口にかかって唇を湿らすような距離で目を潤ませて泣きそうな顔でそんな事を言う。ほんと、どれだけ煽るのが上手いんだろう。かかる息が甘くて今にも食べたくなる。
「こんなの我儘でもなんでもないだろ?」
宥めるように頭を撫でると、すごく至近距離にあるノアの瞳がほっとしたように細まる。可愛い。次にノアの目が俺の唇を見つめた。目を細めて愉しげに訊いてしまう。
「他は?なんかして欲しいことある?」
ノアの後頭部に手をあてがい、指でノアの耳の縁をなで、ほんの少しだけ口を更に近づける。
「ぁ…っ、きす……きすしたい…」
求めていた答えが返ってきて、くすっと笑ってしまう。
「りょーかい」
ちゅぷ、と口付けあう。甘くて柔らかい。何度も重ねて繊細な水音を奏でていく。頭を撫ぜると「ん…」とノアの体から力が抜ける。何度も柔い感触をふにふにと重ね合わせるうちに、ノアの目がとろんと蕩けていく。下唇を咥えて端から端までなぞって、上もなぞって、また唇全体を押し付けて。ノアの可憐な美貌が蕩けて、淫靡なものに染まっていく。
―――足りない。もっとキスしたい。もっとノアが蕩けた顔が見たい。
ノアからお願いされるまで待とうと思ってたけど、もう我慢できなかった。
ツン、と固くした舌でノアの柔肉を押す。少し目を見開いたノアはこちらの意図を察したようでおずおずと唇を少し開けた。少し侵入するとノアの舌先と触れて、ぞくぞくっと脳を溶かすような快感が走る。ノアの舌は思っていたよりも遥かに甘かった。そのまま舌先をチロチロと舐める。甘い。美味しい。愛しい。どうしようもないほどの幸福感が心を包み込む。
もう少し奥まで侵入して舌同士を絡ませあう。舌の腹同士を重ね合わせて、ノアの舌の形を知るようにそのまま舌の裏側を舐めるとノアの体がピクンと跳ねる。
「んぅ…っ!」
ここがイイところなんだ、と教えるように強くそこを擦るとビクビクと震える。
「ん、……んっ、ふ、あ…っ……」
すっかり力が抜けたノアの体を左手で支えて、右手で頭を支える。
初めて知るノアの小さな甘い口内を余すところなく丁寧に味わう。小さな口の中はすぐに蹂躙できてしまった。頬の裏、上顎、そして舌の裏。ノアの震えるところを重点的にぬるぬると舐める。
「ふぁ、んう………は、ぁ、んぅぅー……」
初めて知る粘膜同士の触れ合いは、信じられないくらい気持ちよかった。一緒になれた気がして際限なく膨らむ愛しさを満足させてくれた。
「……っ、は、ぁ……ノア…」
トロトロに蕩けきった綺麗な紫紺の瞳が目尻に涙を溜めて俺だけを真っ直ぐに見つめる。思ってた通り、トロトロに蕩けたノアは信じられないくらい可愛いくって、蠱惑的で、けた外れに魅力的だ。
もう一度口付けると、舌先だけを弾くみたいに絡ませるのも、にゅちにゅちと二枚の舌全体を絡め合わせるのも気持ちがいい。一定のリズムを刻む蹄とゆれる車輪の音、くちゅくちゅと鳴る淫らな水音、二人の少し荒い息遣い。少女の甘い香り、甘い熱、あまりにも気持ちよくて、幸せで、ますますトロトロに脳も体も溶かされていく。
好きで、好きで、自分よりも大切で、それを伝えたいけど、伝えられなくて、足りない言葉を埋めるようにキスをした。
「……ぷはっ。はっ、はぁっ、ん……っ」
ノアに息継ぎさせるために一度離れると、ノアがはぁはぁと甘く息を上擦らせつつ、目を伏せて、まつげを儚げに揺らした。新雪のような白い肌、上気した桃色の頬、藤色の髪……そんな可憐な美しい色を完璧に閉じ込めた可愛らしい美貌に見惚れていると、ノアが上目遣いでこちらの様子を伺うようにちらりと見て、またすぐに伏せてしまう。
「ノア、どうかした?」
やりすぎてしまったかと思って、心配になり頭を撫でると、
「レイドさま……経験者?」
と、頬を染めたまま拗ねた顔でみつめてくる。
「んなわけないだろ。なんで?」
「だって、……上手過ぎるんだもん……」
俺の胸板に手を添え、眉を八の字にして上目遣いで見つめてくる。あまりの可愛らしさに喉を突き上げてくるような愛しさが湧く。
「やば。ノアほんっとかわいいな」
ギュッと抱きしめて体を密着させる。可愛らしい嫉妬や独占欲が本当に嬉しい。
「ね、もっかいしてもいい?」
ノアの耳元でそう聞くと、こくん、と頷いてくれたので、もう一度愛おしむように舌同士の粘膜を擦り合わせる。ノアにもっと気持ちよくなってもらいたくてノアの敏感な場所を滑る舌の粘膜でしっかりと擦り付けると、ひく、ひく、と小さな躰が揺れた。
「ぷぁっ、ん、ちゅっ…… ぁむ、ん、んぅッ」
舌先でつつき合い、じゃれ合うようににゅるにゅると舌同士を絡め合わせながら、頭をナデナデするとノアはうっとりと幸せそうに瞳を細めた。花が咲いたように可憐なのに艶があって本当に可愛い。
結局、ノアの家の近くまでずっとキスをしてしまって、ノアがくてんくてんになってしまったので、ノアを横抱きにして家まで送った。
「……レイド様ごめんなさい」
「いや、俺が悪いし。てか役得だから」
恥ずかしそうに身じろぎするノアが可愛くて、つい苛めたくなってしまう。
「ところでお嬢様、お味はいかがでしたでしょうか?」
ノアが少し目を見開くと、ぽぽぽ…と頬が染まっていった。
うん、いつかの仕返しだ。ニヤニヤと見つめるとノアは目を伏せながら、
「――腰が抜けちゃうくらい美味しかったです…」
と消え入りそうな声で呟くので、ぷっと笑ってしまう。ほんと可愛い。
「へえ? 他には?」
「すごく甘かった…」
「ん。俺も。他には?」
「ほ、ほか??」
ノアが両頬に手を当てて、顔を真っ赤にして目を泳がせている。
「そ。他には?」
恥ずかしがるノアは可愛いのでニヤニヤとずっと見ていると、キュッと目をつぶったかと思うと、意を決したように俺を上目遣いで見つめる。
「甘くて、美味しくて、幸せで、中毒性があって……だから、毎日…食べたい……だめ?」
言い終わると、ボンと湯気が出そうなくらい真っ赤になって涙目で「う……ち、ちょっと調子乗りすぎた…」と目線を逸らして、両手でぱたぱたと顔を扇ぐ。あまりの可愛さに笑ってしまう。
「ははっ。じゃー、毎日しよーな?」
「……朝と帰りと?」
「ん」
「……いっぱい?」
くすくす笑ってしまう。
「ああ、毎日いっぱいちゅーしような。朝迎えに行ったときも帰りもしたげる。休みの日もいっぱいしような」
ノアは頬を染めて、幸せでふにゃふにゃに溶けてしまったかのような笑みをみせる。
「ふへへー…うれしい」
俺の肩口に頭をスリスリ擦りつけて、ぎゅうぎゅう抱き着いてくる。可愛いな。
「レイド様ぁ……だーいすきー……っ」
肩口に頭を埋めたまま、めいいっぱい甘える声に、撃ち抜かれた。
こんな不細工に全力で愛情表現してくれるノアが本当に可愛くてしょうがない。ノアといると優しい気持ちでいっぱいになる。そんな事を思っていたら、
「ぅぁ……っ!?」
不意に耳に甘やかな吐息をかけられて変な声を上げてしまった。一瞬緩みそうになった腕にしっかりと力を入れてノアを抱きかかえなおす。一拍置いて、身体じゅうの細胞がわっと一斉にわき立った。心臓が痛いほど鳴り始める。
「ちょ!? ノア!??」
体中が熱い。たぶん今、俺は耳まで赤いだろう。
「えへへ。さっきの仕返し?」
頬を染めてイタズラっぽく微笑むノアの可愛さは正直洒落にならない。
「あー…くそ。可愛すぎる」
そう言うと、ノアは腕の中で本当に幸せそうに花が咲いたような笑みを浮かべてくすくす笑った。