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故郷で暮らしているはずの母が失踪。
親戚からの一報である。
確認の連絡を入れると、
週末に約束をしていた模様で『これから向かう』と連絡があってから、
足取りがつかめなくなり、数日経っても連絡がつかない。
他人事だった失踪ブームが賢一の中で、
主体化し心をざわつかせた。
ただ帰郷したくとも都道府県を跨ぐ移動の際、
行政への申請が新たに設けられたことで手順が手間になり時間がかかること。
納品間近で会社を休めないことや、近年帰っていないため土地勘も薄れている。
また、ちょっとしたいざこざから母とは約10年疎遠ということもありで、
情報が入り次第知らせてもらう様お願いし、連絡を切った。
【身内にも失踪者が出たか。。。】
母であっても10年疎遠だとちょっと遠い存在に薄れてしまい始めていた賢一。
ベランダから夜空を眺めながら、缶ビール片手に電子タバコで『ふぅ』と一服する。
翌朝。『実家の母が失踪したそうです。』上司に一報と、
今後の方針について報告。
情報が入り次第、場合によっては故郷に一時的に帰郷することも了承をもらった。
理解のある上司だった。
賢一含めチーム員からも人望の厚い上司で、
昨年病原体発生時に賢一も多大にお世話になった。
病原体発生時早々に、賢一も御多分にもれず病原体の餌食になったのだ。
そもそもこの病原体、老人・子供以外の人間が罹る分には、
そこまで死ぬ病気ではない。
感染力が絶妙に強く罹ればそこそこシンドイのだが。
賢一は高熱に約10日間うなされた後、回復。療養を経て、
無事帰還していた。
その時、納期間際の多忙な状況を、社内外の調整にと尽力してくれたのがこの上司である。
『状況がわからないとはいえ、親戚には顔を見せた方がいいと思う。納品が落ち着いたら溜まった休みを消化して帰ったらいい。』
上司からの配慮の一言である。