後編
母の反応に力を得たかのごとく、マルティナは留学先での出来事を赤裸々に吐き出していった。
異父兄と知らずに出会った双子を気に入り、特にランベルトには恋心を抱いたこと。彼と結ばれるためにその婚約者を貶めるべく、ディーンハルトとは協力関係を結び、ふとしたきっかけで深い仲となってしまったこと。彼とは、お互いの結婚後にも関係を続けると約束を交わしたこと。つい先日、ランベルトから血の繋がりを明かされ、よりによって異父兄と体を繋げてしまったことを知り、酷い自己嫌悪に陥っていること──
娘の告白を目を白黒させて聞いていたアレイナは、言うべきことが全て晒されたタイミングで、ようやく口を開いた。
「え、ええと、マルティナ。貴女は一体、何が言いたいのかしら?」
「──分からないのですか!? 母国へのわたくしの留学が決まった段階で、お母様があらかじめ、父親の違う兄たちのことを教えてくださっていれば、わたくしはランベルト様に恋することもなかったし、汚らわしくもディーンハルト様とベッドをともになどしなかったと申し上げているのです! 何故そのことを、わたくしに対して秘密にしていらしたのか、ちゃんとした説明をお聞かせください!!」
「それは……確かに陛下からも、私の口から話すべきだと言われていたけれど。私は、あの子たちのことはもう、記憶から消してしまいたかったから……」
「は!?」
──どうしよう。可愛い娘が激怒している。怖い。
しどろもどろになりつつ、アレイナは何とか説明を試みた。
残念ながら、全く納得してはもらえなかったが。
「──あまりにも早く息子を出産したことが、離縁の理由になった、ですって? 本気でそんな馬鹿な話を信じていると? 話を聞けば、生まれたのが兄たちではなく姉であろうと、お母様が公爵から離縁されることは決まりきった事実でしょう」
「ど、どうして? だって彼は、ニコルは間違いなく、私を愛してくれていたのよ」
「愛していたからこそ離縁したのでは? 愛していなくてどうでも良い存在になっていれば、公爵はお母様の不貞を見て見ぬ振りをして、ご自分も適当な愛人を作ったと思いますわよ」
──私の可愛いマルティナが、涙から一転、妙に楽しげに母親を痛め付けるような言葉をぶつけてくる。
「そんな、駄目よ! 私というものがありながら、夫が愛人を作るだなんて、絶対に許せないわ!!」
「……お母様。ご自分は結婚前からの『取り巻き』やら『友人』といった分類の愛人を引き連れて結婚しておきながら、そんな言い分は明らかに破綻していると思いません? まあ、つい最近まで、未来の義兄との関係を続けようとしていたわたくしが言えたことではありませんけれど……それに、ご自分以外の女性がどうこうと仰るのなら、お父様のことはどうなのですか?」
意外なところからおかしなことを言われて、アレイナは目をぱちくりさせる。
「それは、正妃様や側妃の皆様のこと? 彼女たちは、私が陛下のお側に侍る前からいらした方々でしょう。私がいるからと言って、既にお子様もいらした方々を、まさかご実家へ帰すわけにもいかないのだし」
「ああ、やはりまだご存知ではなかったのですね? ええ、そうですわね、お母様ですもの。お父様はこうしてお母様を隔離なさっている上、余分な情報は完璧に遮断なさるでしょうし。何よりお母様はそういう御方でしたわ」
くすくすくすくす。
──他ならぬ愛娘が、見たことがないほど意地の悪い微笑みを浮かべている。そのまなざしは、まるで私を見下しているようで……
「──マルティナ。言いたいことがあるのなら、はっきりと、誰にでも分かるように仰いなさい」
「ええ、喜んで。もっとも、お母様は誰にでも分かるような説明をしても、分からないことが多々あると記憶しておりますけれど」
「マルティナ!!」
「失礼、本題に入りますわ。──お母様は、わたくしに弟妹が何人いるのかご存知ですか?」
「え、ええ。確か、弟が三人、妹が五人だったはずだけれど」
記憶を探って答えれば、娘の笑みが不穏に深まった。
「流石はお母様、情報が古いですわね。──一年前、わたくしの留学直前にもう一人、妹が生まれていますわ。数年前に後宮に入られたばかりの側妃様から」
「…………え……っ!?」
絶句した。
有り得ない──反射的にそう考える。
娘の異母妹が生まれたことが、ではない。愛する陛下が、自分を寵姫とした後に他の女性を後宮に迎え入れたことが、だ。
──何故。陛下はいつも私に、「そなた以外の女など誰もいらない」と、熱烈にささやいてくださるのに──
「その側妃様は正妃様の姪でいらっしゃる御方ですわ。お会いしたことはありませんけれど、叔母上によく似た高貴で艶美な風情の、それはお綺麗な御方だとか。本当は王太子妃候補として育てられていたそうですけれど、お兄様より七つほど年上でいらっしゃることもあり、王太子妃の座は末の妹君に譲られ、お父様の側妃になることを決めたとのことですわよ。実際は、お父様が一目で見初めて、正妃様の許可を得ながらも、やや強引にお話を進められたらしいですけれど──」
「嘘! そんなことは有り得ないわ! マルティナ、どうして貴女はそんな、おかしな話を真に受けてしまったの!?」
「……おかしな話? どのあたりがですの? 一国の王たるお父様の後宮に新たな側妃が入ることなんて、毎年の恒例行事のようなものでしてよ。大体、お父様が今夜こちらにいらっしゃらないのも、第九王女の一歳の誕生日を祝われるためなのですから。この程度のことで今更そんなにも動揺していては、国王の寵姫など到底勤まりませんわよ?」
困ったお母様ですこと、とでも言いたげに肩をすくめる愛娘を、アレイナはただ呆然と、信じられないものを見るように眺める。
──どうして。どうしてマルティナは、母である私をずたずたに切り裂くようなことを言うのか。この娘は私が誰よりも愛する、ただ一人の可愛い娘なのに……
彼女の気持ちを知ってか知らずか、マルティナは更に楽しそうに、次々と爆弾発言を繰り出してゆく。
「お母様。わたくし、実を言いますと今回の出来事で、お母様にはほとほと愛想が尽きてしまいましたの。ええ、母とお呼びすることも嫌になるくらいには。ですからすぐにお父様にお願いして、側妃様のうちのどなたかに、正式に養女にしていただこうと思っておりますのよ」
「な……!? ま、待ちなさい、マルティナ! 私はそんなことは絶対に、何があろうとも許さないわ!」
必死に止めようと語気を強めるが、マルティナは実に高慢に、母の言葉を鼻で笑い飛ばす。
「アレイナ様は、勘違いをなさっておいでのようですわね。わたくしたち王女の処遇をお決めになるのは、お父様──国王陛下の領分であり、生母とは言え側妃ですらない愛人が、簡単に口を挟めるような領域ではありませんのよ。ましてや『許さない』だなんて……僭越ながら、今後も寵姫でいたいのならば、お言葉や態度を厳に慎まれるべきかと存じますわ」
その言葉は、態度は。
──アレイナのことなど、もう母だなどとは絶対に思わないし、認めない。
と、彼女の存在を全否定するかのような、徹底した拒絶だった。
「……マルティナ。貴女は一体、どうしてしまったの……? 貴女は私の、ただ一人の可愛い娘なのよ……」
「……『可愛い娘』ですか。可愛い、ね……」
「? マルティナ……?」
首を傾げれば、マルティナはきっとこちらを睨み付け、怒涛のように怒りをぶつけてきた。
「では、娘として最後に言わせていただきます。──お母様は、今回のことでわたくしが、一体どれだけショックを受けたり自分を嫌悪しているか、その程度のことも全く気にしてくださらず、気遣いや同情の一言さえない。それどころか、『国王たる恋人が自分の後に側妃を迎えた』というごく当然のことに、世界が揺らいだかと思うほどのショックを受けている。目の前で、愛娘であるわたくしが、いっそ死んでしまいたいほどに苦しんでいるのに。──ねえ、お母様。確かにお母様は、わたくしを可愛がってはくださいましたわ。でも、愛してくださったことはきっと、今まで一度たりともないのでしょうね?」
「そ──そんなことはないわ! マルティナ、私は貴女のただ一人の母親なのよ! 娘を愛さない母親が、一体どこにいるというの!?」
「あら、息子は愛さないのに?」
「────っ!!」
返す刃のあまりの鋭さに、アレイナはただただ絶句するしかなかった。
……やがてマルティナの口から、何とも言えない感情を宿した溜め息がこぼれる。
「──まあ、よろしいですわ。わたくしを愛してくださっているという、お母様のお言葉を信じるとしましょう。つきましてはわたくし、お母様に一生のお願いがありますの」
「何かしら? 何でも言ってちょうだい」
まなざしですがり付いてくるアレイナに、マルティナはにっこりと、満面の笑みを浮かべてそれを差し出した。
反射的に浮け取ったアレイナは、手の中のものを確認して──さっと青ざめる。
「……マ、マルティナ……? これは一体、どういうことなの……」
「ご覧の通り、果物ナイフですわ。それを使って、お母様自らの手で、是非ともわたくしを殺してくださいませ。──わたくし、先ほど申し上げましたわよね?『いっそ死んでしまいたいほどに苦しんでいる』と。ですからその苦しみを、お母様直々に取り除いていただきたいと、わたくしは切に望んでおりますのよ」
にこにこと、それは無邪気に笑うマルティナの言葉に、一切の嘘はない。
それを本能で理解してしまったアレイナは、恐怖で震えが止まらなくなった。
「どうしました、お母様? そんなに手が震えていては、わたくしに余分に苦しみを与えることになりますわ。ここは落ち着いて、一思いに息の根を止めてくださいな」
「……ど、どうして……? 何故、私の手にかかって死のうだなんて思うの? 確かに、貴女のことをすぐに気遣えなかったのは悪いと思っているわ。でも──」
「どうしてもこうしてもありませんわよ。まだお分かりではないのですか? わたくしのこの苦しみは──生まれて十六年間の苦悩は、ひとえにアレイナ様、貴女の娘として生まれたことによるものですのよ」
「────!」
ほんの少しだけ目を閉じて、ゆっくりと瞼を上げたマルティナは。
──その声と同じかそれ以上に、瞳に憎悪を溢れさせ、実の母親を射殺すように見つめた。
「マ、マルティナ……ご、ごめんなさい。私……!」
「謝罪などもうどうでもよろしいのです。さあ、早くその手で、わたくしを殺してください。──でなければ、わたくしがお母様をなぶり殺しにしてしまいますわよ?」
言葉とともに少女の顔に浮かんだ笑みは、あまりにも美しく艶やかで──同時に、見間違えようのない殺意に満ち満ちている。
今、アレイナに許された選択肢は二つだけ。この手で娘を殺すか、娘の手で殺されるか──
「あ……あ……ああああああっ!!」
叫びとともに、アレイナは高々とナイフを振りかぶる。
ざしゅっ……!
刃が、皮膚を切り裂いた音とともに。
色鮮やかな血飛沫が舞い、離れの一室を赤一色に染め上げた。
「お待たせいたしましたわ、ランベルト様。……どうなさいましたの? お顔の色が……」
ディーンハルトとランベルトの卒業式前日。
式後のパーティーへ向けたエスコートの打ち合わせのため、放課後にフォルテス邸を訪れたエリスレアは、婚約者の私室に通されるや否や、ソファでぐったりしているランベルトが目に入り、淑女らしさを失わない程度に素早く彼のもとへ近づいた。
どことなく青ざめてやつれているようにも見える彼は、閉じていた両目をのろのろと開き、無言でぽんぽんと右隣のスペースを叩く。
エリスレアが素直に座ると、おもむろにランベルトの体が傾き、金髪の頭が彼女の太股に着地した。
人払いをして二人きりになると、エリスレアはさらさらと指通りのいい短い髪を撫でながら、そっと婚約者の名を呼んだ。
「ランベルト様……?」
「すまない。流石に色々とありすぎて、疲れているんだ。──どうやら、母が死んだらしい」
「……まあ……」
予想外のことにエリスレアの手が止まる。
が、受けた衝撃の度合いはランベルトの方がよほど上だろう。生後数ヶ月で別れて以降、一度も会っていない相手だとしても、実の母親であることには変わりないのだから。そしてそれはディーンハルトも同様だろうし、一時期は夫婦だったフォルテス公爵も平常心ではいられないはずだ。
そして、子供の中では誰より近しいマルティナのショックは如何ほどのものだろう……?
止まった手はそのまま、空いている左手で秀でた額を覆えば、ランベルトの右手がそこに重ねられた。
「とは言え、顔も知らない相手だから、これといった感慨はないんだけれどね。ただ、死に方が……自殺だったそうだから。しかも、よりにもよってマルティナ殿下が、目の前でその様子を目撃してしまったとかで……」
ふう……と、こぼれる吐息は何とも重い。
王宮の使用人たちに発見された時、マルティナは血まみれで絶命した母親を前に、虚ろな目を見開き呆然と涙を流していたという。
約一週間が経った今では、少しは落ち着いたらしいマルティナだが、母の魂を弔うために修道院に入ることを希望しているそうだ。長年の愛妾を亡くした上、忘れ形見の愛娘まで手放したくない父王が必死に引き留めているものの、決意は固いらしい──と語るランベルトもまた、淡々としすぎていることがむしろ痛々しい。
「ランベルト様。どうか、ご無理はなさらないでくださいませ。明日は卒業式なのですから、今日はこのままお休みになっても……」
心配のあまりそう提案したが、ランベルトは力なくそれを退ける。
「そうしたくはあるんだが、そういうわけにもいかないんだ。──母の知らせが舞い込む前にも、父から内密の話があって」
「内密の? では、わたくしが聞くのは如何なものかと……」
「いや、エリスにも密接に関わることだから。……実は、公爵家の後継者の座が、兄上から私に移ることになった」
「え──!?」
立て続けの驚愕の知らせに、エリスレアの瞳がまたも見開かれる。
実のところ、嫡男であるディーンハルトの軽薄な気性や振る舞い、何より時折覗く考えなしの言動は、筆頭貴族の跡取りとしてはあまりにも危なっかしいもので、近しい親戚等からはそれこそ、当主とするなら双子の弟の方が……という声が、昔からちらほら出てはいた。
そのこと自体はエリスレアも知ってはいたが、他ならぬ現公爵が兄を跡取りとしている以上は、何を言うべき立場でもない。比較対象であるところのランベルトは、兄の足りないところは自分がサポートすればいいという考えで、エリスレアもまた公爵夫人になりたいなどとは思ったこともないのだから、少なくとも兄弟間では揉める理由は今まで皆無だったのだ。
それなのに何故、今になって──と困惑するエリスレアに、ランベルトはやや言いにくそうに、空いている手で頬を掻く。
「実はこの件は、兄上の方から言い出されたことなんだ。ただ、その理由が……レディ相手には何とも話しにくいことと言うか……いや、男相手でも違う意味で、なかなか口にしづらいことではあるのだけれども。兄上の名誉にも関わるし……」
「?……あの。それほど言いにくい内容であれば、わたくしは別に、今すぐに伺わなくともかまいませんわよ?」
「あ、ああ。すまない。いずれ……そうだな。どんなに遅くとも結婚後には、きちんと説明できるようにするよ。うん」
何だかよく分からないことを、自らに言い聞かせるような風情のランベルトに、エリスレアはただ首を傾げるしかできなかった。
ちなみに、ランベルトが言い淀んだ理由というのは他でもなく、男の生理が関係する話だからだった。つまり、『ディーンハルトが不能になってしまったため、仮にこのまま父の後を継いだとしても、血を残せない可能性が極めて高いから』という、何とも生々しくも切実、かつ根本的なことが原因だというわけである。
ディーンハルトがそうなった理由はおそらく、知らなかったこととは言え──知った上でのことなら更に大問題だが、異父妹と男女としての深い関係を結ぶという、禁忌を犯してしまったがゆえの強い罪悪感だろうと、本人が自己分析をしていた。
『せめて、お互いに愛情を抱いたゆえの行為だったのならば、ここまでの罪悪感や自己嫌悪はなかったと思うが……』
『兄上……』
すっかり自嘲の笑みが板についてしまった兄に、ランベルトはかける言葉もなかった。
──この件については、マルティナ殿下も兄上と同じ心境でいるのだろうか。
隣国で一人、誰より近しい身内である母を亡くした妹を思う。
──母アレイナは、既にこの世から去ってしまったけれど。
自分たち兄弟は未だに、母の残した呪縛に捕らえられている気がしてならない。
双子がそれぞれ今のような性格になったのも、元々の原因は母だ。
離縁により公爵家からいなくなっても、彼女の評判は息子たちへと強固に絡み付いていた。
兄は、「どうせあの母の子だと言われるのなら」と、殊更に奔放に振る舞うようになり。
弟は逆に、出来る限り「母の子」などとは言われないよう、自らを律して生きてきた。
けれど、そうして作り上げてきた自分たちの姿こそが、母の影響力が未だに強く残っていることを雄弁に語っている。
──だが、それでも。
「ランベルト様……?」
重ねた手をおもむろに離し、心配そうに覗き込んでくる愛しい少女の頬へそっと伸ばす。
全体的な印象に反して柔らかなラインを包み込めば、白い肌が淡く色付き、何とも言えず愛らしい。
──もしも、母が父の婚約を壊していなければ。自分たち兄弟は、そして彼女も、こうして存在してはいないのだ。
親指で一つ輪郭を撫でてから、艶やかな黒髪の下、首の後ろへ手を回し、強引にならない程度の力で体を前に傾かせ──ランベルト自身はソファに肘をついて軽く起き上がり、そのまま互いの唇を重ねる。
ただ彼女の存在そのものを確かめるように、存分に時間をかけた口づけを終える頃には、双方ともにすっかり息が切れていた。
「……も、もう! ランベルト様、突然何をなさるのですか!」
「ごめん。次回からはちゃんと、許可を取ってキスをするよ」
「そういう意味ではなくて……!」
真っ赤になった婚約者に、ついくすくすと笑みがこぼれる。
改めてソファに座り直したランベルトは、今度は彼女をひょいと抱き上げ、自分の膝に横座りさせた。
そして、細いが決して脆くはない腰と肩に腕をまわし、首筋に自分の顔を埋めてぎゅうっと抱きしめる。
……何かを察してくれたのだろう。いきなりのことに緊張した温かな体からはすぐに力が抜け、優しい手が再び触れてきて彼を抱き返し、そのまま素直に身を委ねてくれた。
「……エリス」
婚約者の体温と鼓動を全身で感じ取りながら、ランベルトは万感の想いを込めてささやいた。
「──生まれてきてくれて、ありがとう」
お読みいただきありがとうございました。
「強欲の結末」スピンオフということで、七つの大罪繋がりのお話です。ただし、他の大罪テーマで書く予定は今のところありません。
親世代が乙女ゲーム的逆ハーエンドもどきを迎えた結果、その余波が子世代へ及び……という、最初だけ悪役令嬢ものの皮を被った別物の内容になりました。そのため、物語そのものの中心人物は「お花畑ヒロイン」ことアレイナです。主役も彼女だと言っていいかもしれません。
もしもアレイナが下の息子と会う機会があれば、「貴女に関することで山ほど嫌なことはありましたが、こうして産んでくださった事実と、エリスの誕生に繋がった点だけは心から感謝しますよ」くらいは言ってもらえた可能性はあります。実際にはその程度の「報い」さえ得られず、それもまた彼女の「報い」でした。
残るアレイナの子供たち、ディーンハルトとマルティナのその後は、皆様のご想像にお任せしたいと思います。