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天使と悪魔と人間の話  作者: 吹野 祭
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とある人間 と どこにでもいる天使の話

人間は生前罪を犯して死ぬと、死後に天使になるという。

天使となった者は現世にて、迷い、悩める人間たちを陰ながら支え、導くことを使命としている。


 一人の天使がいた。その天使が生前どんな罪を犯したのかは、すでに忘却の彼方だが、自身の天使としての任期の長さを思えば、まあ、想像するは難しくないだろう。黒く、汚れた魂を持つものほど多くの人間たちを救わないとならないというわけだ


 その天使が、ある人間に出会ったのは、任期終了間近となった頃だった。その人間はまだ罪は犯していないはずなのに、黒く、ただ黒くしずんでいた。


いったいどんな生活をすればこのような人間が出来上がるのか、ぜひともご教授してもらいたいものだと、何もない部屋の隅で小さくうずくまる人間をみながら、天使は小さく息を漏らす。

顔を伏せたままの人間に、天使はここに来た目的を告げる。すべてを告げた後ゆっくりと顔を上げた人間の、その炭で黒く塗りつぶされたような眼をみて、天使は少しだけ、どきりとした。


 人間と天使の共同生活が始まって数週間が過ぎた。いまだ人間が声を発することはなかった。

放っておくと食事もとらないので簡単な身の回りの世話と、あとはただ、何もせずに、傍にいるいるのが天使の日課になっていた。

そんな天使の奉仕の甲斐あってか、いままでピクリとも動かなった人間が、ダンゴムシのようにモゾモゾと動きまわるようになり、青虫のようにモソモソと、自ら食事をとるようになった。時折何かを言いたそうに口を開くが、いまだ声を発すること無かった。


しゃべらない人間に、無言をもって答える天使との静かな関係は少しづつ変化をもたらしていった。


顔を伏せている時間が短くなった

食事を3食とるようになった。

風呂に入るようになった

散歩にでかけるようになった

少しづつ、少しづつ、人間の目に光が戻って行くのが分かった。


その人間の声を初めて聞いたのは、天使が人間の部屋に住み着いてさらに数ヵ月後のことだった。消えるようなか細い声であったが、人間はたしかに


ありがとう


と呟いた。


目の前の人間の確実な変化に天使は、優しく微笑んで、その低い頭を撫でるのであった。


 それからというもの、人間はぽつり、ぽつりと言葉を発するようになった


おはようございます

いただきます

ごちそうさまでした

ありがとう

おやすみなさい


いずれも消えそうな声ではあったものの、天使は人間の小さな声に生気が戻っていくのを感じていた。


もう大丈夫


一人で外出もでき、かつてのような生活を目指して動くくようになった人間をみて、天使は思った。


もう、この人間に天使(わたし)は必要ない。


ある日、天使は人間に告げました


あなたはもう大丈夫


それは、今までずっと傍にいてくれた、この天使との別れを意味することを、人間は理解できた


少しだけ寂しくなるなと思いながら、人間は今までの感謝を込めて、天使の目を見て


ありがとう


と伝えたのだった


そんな人間に、天使は笑みをもって答え、すっかり高くなった頭をやさしく撫でるのであった。


一人になった部屋の真ん中で、もう一度だけ 


ありがとうと


と、呟いた。












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