イージーでハードな婚活
俺の名前は太郎、年齢は覚えていない。
誰だって20回以上も転生を繰り返したら今が何歳かなんて分からなくなるのが普通だろうさ。
遠い昔、最初の人生において俺には好きな人がいた。
物心ついた頃からずっと一緒で、彼女のためなら死ねると本気で思ったもんさ。
彼女の方も俺のことを好きだったと思う。
でなけりゃ年頃の娘があんなに何度も抱きついてくるか?
だが結局のところ俺たちが結ばれることはなかった。
彼女は出会ってから15年後、あっさりと別の男と結婚して俺の前から去っていった。
俺が死んだのはそれから3年後のことだった。
死ぬ間際、俺は神に願った。
もう一度やり直させてくれ、誰とも結ばれずにこれで終わりなんてあんまりだと。
神はそれを呪いと共に叶えた。そうして今の俺があるわけだ。
2回目以降の人生は1回目とは様々な点で違いがあった。
国も違うし時代も違う。7回目の人生にいたっては剣と魔法の異世界だった。
しかしどんな時代だろうと、俺は必ずかつて愛した彼女の生まれ変わりと出会うことになる。
俺は再び彼女を好きになり、彼女も俺を好きになる。
共に暮らし、共に笑い、しかし必ず最後には彼女は別の男と結婚して俺の前から去っていくのだ。
もちろん俺だって何もしなかった訳じゃない。
二度と失敗を繰り返したくないと必死に求愛したさ。
だがダメなんだ、体裁をかなぐり捨てて抱きついても、わざと傷つけるような真似をして関心を惹こうとしても結末はいつも同じ。
好きにはなってもらえても結婚はしてもらえない。
諦めて別の相手を探そうと考えたこともある。
はっきり言って俺はかなりモテる。
街を歩けば必ず誰かしらに声をかけられるほどだ。
相手を選ばなければパートナーを見つけられるというのは、決して自意識過剰な自惚れではない。
でも結局は考えるだけでそれが実行に移されることはない。
他にどんなに魅力的な女が歩いていても、俺が結婚したいと思う相手はいつだってこの世に一人だけなのだ。
これが転生の代償というのなら、神様というやつは本当に意地悪だ。
そして今日もまた俺はイージーでハードな婚活ゲームに挑むことになる。
彼女はいつものように俺に山盛りの食事を差し出してくれる。
「ねぇ、美味しい?」
美味しいよ。嬉しいよ。でも俺が本当に欲しいものはこれじゃないんだ。
俺は笑顔を浮かべる彼女に、もう何千回目かになるプロポーズの言葉を告げる。
今度こそ俺の思いが彼女に届きますようにと願いながら。
「ワンワン!!」