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序章 ゴーストタウン2

「じゃあ、これで終わりにしよう。」とレイが告げた瞬間。上。上空、暗闇に5メートルはあろうかという巨大な魔法陣が天を覆った。二重円の中に六芒星が描かれ、その六角形の線が内で接するようにもう一つの二重円がある。二重の平行円の線の間には古代のものか、異なる世界のものなのか解読不能な文字が敷き詰められており、所々で「V」を逆にしたような文字などが目立つように囲まれている。


 対峙していた二人も天を仰ぎ、彼らの頬を陣の光が照らした。続いて中から巨大な何かが姿を現したようであった。とっさにレイが腕を引くと、横でものすごい風が巻き起った。そしてそこにあった瓦礫や木片が押しつぶされる音と、巨大な地響きとともに彼の前に何かが落ちた。否、降りた。舞い上がった砂ぼこりの中から二翼の翼が生え、それが一振りすることで塵を一瞬にして吹き飛ばした。煙が晴れ、耳をつんざく咆哮とともに龍が姿を現した。


 赤く鋭い眼光を走らせ、巻き角が敵と認識した銀髪の少年へ向けている。裂けた口やその先の鼻からはよだれなどの液体が滴っており醜快だが、対して体表は眼を奪われるほどに美しく、辺りの炎が全身を覆う漆黒の鱗を反射し、光沢は神秘的ですらある。立って胸を仰け反らせるように体勢をかえると、先まで黒い鋭利な爪が露わになり空を裂いた。黒龍、その傍らから声が聞こえてきた。


「よう。なに勝手に始めちゃってくれてるかな。」黒龍の足に片手をつきながら龍の深い黒い色に勝るとも劣らない髪色の青年がレイに話しかける。肩には耳と尾が長く伸びた獣を乗せている。しかしその青年が話しかけた相手の姿はすでに前になかった。


「少しは話を聞いてくれたっていいじゃないの。」軽口をたたくものの、表情は警戒を解いていなかった。まだ気配と殺気が彼をつついていた。黒髪の少年ーライナスーは身構えるや否や、急にあたりの熱が上昇し気温が上がったのを皮膚に感じた。


「早いねえ、行動が。」上空を見上げるとポツポツと星の光に交じって光を発しているものを目にとらえた。炎で構成されつつある矢とそれをつくる陣であった。


「ファフニール!」ライナスが叫ぶと黒龍は首をすくめ、その大翼で主人と下でうずくまるシルビアを守るように包んだ。無数の矢の雨がライナス達に襲い掛かるも厚い体表がそれらを防いだ。ボスボスボスボスと翼に雨が当たるような音がひとしきりなる。音がやむと警戒しつつも黒龍はゆっくりと羽根を広げた。暗い視界が明けた。


 しかしこれこそがレイの待っていた機会であった。ライナスもすぐに悟って舌打ちをした。羽根が開くと同時に上がった龍の首の側面を、一瞬の温度の高まりとともに、灼熱の球がとらえたのである。爆音とともに首に黒煙が立ち、黒龍は絵も知れぬ声をあげながら巨体をのけぞらせた。すかさずファフニールと呼ばれた龍はダメージを受けつつも、長い尾を火球が飛んできた方向へ叩きつけたが、地を砕くのみであった。


「そんな大きな図体のものを出すなんて、狙い撃ちだよ」声だけが暗がりから聞こえてくる。一瞬だけ銀髪に煌めく炎が映ったかと思ったが、再び影にまぎれたようであった。彼は再度炎の矢を上空に作り始めているようであった。


「ふつうはこんなの見たら怖気ずくんだがな。」とライナスも言葉を返した。狙い撃ちってのは的外れだがな。と思いはしたがこれは声には出さなかった。炎の矢が再度形成を終え放たれようとした。


「2度も聞くかよ!」ファフニールが鋭利な牙をむき出しにしながらその口を大きく開き、火炎を吐いた。炎が火を食らって相殺する。同じタイミングでどこからか火球が、今度はライナスに向け迫ってきた。彼は再度黒龍の名を叫び、火球に龍の尾をたたきつけさせて、元の酸素ごと絶って防いだ。


 次の攻撃がないことを確認したライナスは、地に伏して意識のなくなっていたシルビアを担いで黒龍の背に乗せた。自身も鱗を掴んだ後、龍の名を叫んだ。再び2方向から迫る火球を視界に収めるも、黒龍を離陸させてかわす。ふわりと土埃が舞った。黒龍はさらに大きく羽ばたいて、巨体を急上昇させた。星々の静かな輝きに紅き双眸が交じる。上昇するそれは紅いラインを空の闇に敷いた。


「上空なら手が出せないだろ。」ライナスはぽつぽつと光を灯している密やかな大地を見下ろした。

「さあ、死ね」掛けた手から黒龍に魔力を与えた。

「フレア」白い息を吐きながら冷たくその紋を発した。


 羽ばたく龍が大きく翼を広げた。龍が限界まで翼を広げた時、その裂けた口元に小さな陣が現れる。そして大きく一振りすると同時に陣から鋭い光芒が地上に向けて放たれた。

 光線が地に触れた瞬間、そこを中心に壮絶な爆発が起き、まばゆい光が空気を侵食した。一瞬にして励起されたエネルギーはすぐに光や熱として放散されていった。遅れてやってきた轟音とともに、物と呼ばれうるものはすべて弾かれ、蒸発した。破壊がひとしきりあたりを食い散らかした後、街の一部は平地へと姿を変えた。数秒の後、キラキラと後光が煌めいたのちに光が止む。

チリと化すほどのエネルギーが当たらなかった場所では木材が、自身を燃料として命尽きるまで炎を作り続けていた。

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