本物に会いに行く
■ 翌日・昼・警察の応接室
警察署の外観(警視庁?)。
その一室。
芽絵子が名刺を差し出すと男が受け取って読み上げる。
孫一(人)「幽霊不動産『ホーンテッド』?」
芽絵子「地縛霊ってご存知ですよね? 彼らに物件を紹介し管理するのが我々の仕事です」
孫一(人)「はあ」
芽絵子「遡ること二週間前 あなたの生き霊が記憶をなくした状態で弊社を訪れました しかし先日ついに記憶の一部を取り戻し晴れて地縛霊となりました 本日はその料金の回収に来た次第です 一応確認のためお伺いしますが宗方孫一さんですよね?」
孫一(人)「…まあ はい」
宗方孫一(人)の顔が見える。
しかしその表情は同一人物とは思えないほど暗く覇気がない。
芽絵子は俄には信じられず眉をひそめる。
芽絵子「通例では故人の近親者に事後交渉で支払ってもらうことになっていますが 今回はかなり特殊なケースゆえにご本人にお伺いを立てる方が良いかと判断しました」
孫一(人)「うーん警察に乗り込んできて詐欺を働くなんて とんでもないバカか稀代の天才だ…」
芽絵子「大室奈々実さんご存知ですね?」
孫一(人)「どうしてその名前を…」
芽絵子「生き霊の宗方孫一さんからききました 彼は今彼女の『職場』に地縛しています」
孫一(人)「…まさか詐欺師風情に痛くない腹を探られるとはね」
芽絵子「身分を超えた許されざる恋 素敵です あたしも一介の乙女としてときめかないはずがあろうか! いやない! しかし乙女の口に戸は立てられぬ! 唯一方法があるとすればコレです」
金。
芽絵子「あ 詐欺師ではないので悪しからず これは正当な報酬です」
孫一(人)「何か勘違いしていませんか?」
芽絵子「勘違い?」
孫一(人)「ぼくと大室さんは小中高と同じ学校に通っていた幼馴染というだけです あなたが想像するような男女の関係にはただ一度もなったことはない」
芽絵子「…へ?」
孫一(人)「ぼくの生き霊がそう言っていたんですか?」
芽絵子「厳密には言ってなかったというか…」
孫一(人)「よろしければ知り合いの病院を」
芽絵子「おおお邪魔しましたああ!」
■ 同日・夜・不動産屋
芽絵子「恥かいた!」
浅倉 「だからいったでしょう… それを予見して大室奈々美について調べておいたよ」
芽絵子「先輩素敵! バツイチじゃなかったら結婚してます!」
浅倉 「…バツイチだから結婚できるんだけどなあ」
浅倉パソコン画面に画像を表示させる。
浅倉 「各種SNSに検索をかけて宗方孫一と大室奈々美の同級生と思しき人物に片っ端から連絡を取ってみた これは二人の文集のコピーね 幼馴染という話は本当のようだ」
芽絵子「犯罪スレスレ…」
浅倉「色々わかったよ まず宗方孫一という人物は当時からガリ勉で友達は皆無だった 我々の知る孫一くんとは似ても似つかないね」
芽絵子「確かに本物の孫一は嫌味な奴でした」
浅倉 「一方で大室奈々美は文武両道で器量好し温厚篤実な人柄で友達も多い 非の打ち所のない優等生だ ところが彼女は高校卒業と同時に姿を消してしまった 現在連絡を取り合っている人物は一人もいない 旧友たちはT大学の受験失敗が原因だと思っているようだが無理もない 常に成績トップで合格間違いなしと言われていた大室奈々美が落ちて ガリ勉とはいえ合格は難しいとされていた孫一くんが受かっているんだからね」
芽絵子「受験の失敗でやさぐれて…ヤクザの愛人に?」
浅倉 「いやこの時期大室奈々美の父親が多額の負債を残したまま死んでいるね」
芽絵子「…借金のカタに愛人契約を結んだんですか? 最悪」
浅倉 「しかも彼女が千馬組に入るのと同時に組織は勢力を拡げている 愛人なんて生易しいものじゃない がっつり組の運営に関わっている」
芽絵子「……」
芽絵子の表情が暗い。
浅倉はそれを見てため息をつく。
浅倉 「芽絵子くん大室奈々美に感情移入するのはやめなさい 問題はきみがこの情報を使って金を引き出せるかどうかだ」
芽絵子「先輩つかぬことをお伺いしますが金の回収と規則の遵守どちらが大切ですか?」
浅倉 「…?」