第1章☆ビタミンE
第1章☆ビタミンE
5年前。
13歳年上の夫に付き添われて病院廻りをしてたどり着いたのは、個人開業医の精神科だった。
「血液検査や人間ドッグでなんの異常もないのに、明らかに老化が進行しているのは、恐らく精神的なものに原因があると思います」
先生はそう言って薬を処方してくれた。
「それと、これ!ビタミンE。あんたはこれを飲んどくべきだね」
当時は薬事法でまだ規制が厳しくなかったため、そういったものも一病院の窓口で出してもらえた。
夫が会計をしてくれている間にまた呼ばれて、今度は一人で先生の前に座った。
「旦那さんは13歳年下の嫁さんもらってるんるんかもしれないけれど、あんたは?自分の本当の気持ちをよく考えなきゃ」
「幸せだと思ってます。金銭的に困らないし、大事にされてるし」
「結婚前の趣味とかで我慢してることとかは?」
「テレビでアニメーションを見たり、漫画を読んだりしてたけれど、今はやってません」
「それじゃないの?原因」
「はぁ」
曖昧に頷く。
「自分の好きなことをしているときが一番だよ」
なんとか微笑んで話を終わった。
「なんでビタミンE?」
「血管とかの老化を防ぐらしいし、はっきりいって防腐剤みたいな役目」
「そうか・・・」
夫は私の右側を歩いていく。
駐車場に行くと、運転席に私が乗り込み、助手席に夫が座った。
温和な夫は優しくて、いい人。だけど、私が踏ん張ってフォローすることが多々あった。
結婚するって、我慢することだと思っていた。
薬事法が改正されて、今ではビタミンEは病院で出してもらえないので、サプリで購入して飲んでいる。夫とは別れた。アニメーションが見たいし漫画や小説を読んで笑いたいのに、集中力が大幅にダウンしてしまって、取り戻すのに気力を使うようになった。
だけど、今、心が、湧き出る泉のように瑞々しくあふれかえっているのは、「あの人」のせいだった。




