プロローグ☆人魚の肉
プロローグ☆人魚の肉
ある夜、男が見知らぬ男に誘われて宴会に顔を出した。
テーブルには豪華な料理が並んでいた。
中には見知らぬ料理もあった。
男は見知らぬ料理には口をつけず、家へ土産にもって帰った。
「これ食べて良い?」
17歳の一人娘が、土産の料理を食べた。
それは人魚の肉だった。
人魚の肉を食べた娘は不老不死になった。
八百比丘尼とは、人魚の肉を食べて800年生きて比丘尼になった女のことをいう。
「お父さん、今日のお魚、何の魚なの?」
お刺身の皿を前に、私は魚屋の父に聞いた。
「ハマチだよ」
「いただきまーす」
「お前は小さい頃から魚ばっかり食ってるけど、ある意味贅沢だって知らんからなぁ」
「贅沢?お肉を食べる方が贅沢なんじゃないの?テレビで見るばっかりだけどさ」
「そう思うか?」
「うーん、よくわっかんない」
「そうかそうか」
父は私の髪の毛をぐしゃぐしゃにしてなでた。
「そのうち最高級の魚料理を食わせてやるからな」
「えー」
半信半疑で私は笑った。
父は昭和15年生まれだ。7人兄弟の4番目で、お祖母ちゃんの家には猫がうようよいて、私は父が魚屋を営んだのは猫に魚のあらをおすそわけするためなんだと思い込んでいたが、実のところ真相はわからない。
私は昭和46年生まれ。現在47歳。
昔からなかなか成長しないなーと思っていたが、最近、初対面の女の人に「35歳くらいに見える」と言われた。
「肌がピンと張っていて、色白で若く見える」と言われた。
「これでもバツイチなんですよ。子どもは残念ながら生まれなかったけれど」
「どんな化粧品使ってるの?」
「特に使ってないです。素っぴんでいることが多くて、冬に全身用の保湿クリーム塗るぐらいかな」
「年、とらないの?」
冗談で聞かれた。
「結婚していたときに一度、ガクッと年を取りました」
「どうやって若返ったの?」
「人魚の肉を食べました」
「まさかぁ」
「嘘です」
そりゃそうよねーとその女の人は笑った。私も笑っていたが、半分本気でいた。
あの頃、私は人魚の肉を食べたのだ。恋愛という名前の。