お客さん【ハーピー族】の場合
“カランカラーン”
今日も道具屋【ラーフ】の店内に入店を告げるベルが鳴り響きます。
ドアの開く音と共に綺麗な高い声も聞こえて来ます。
「ごめんくださーい」
その声の持ち主は手足が鳥と同じなハーピー族の女の子。
大きな肩掛けバックを持ってキョロキョロしてます。
「はいはい、いらっしゃいですよ」
それに応えるのは【ラーフ】の看板娘、ちょっとやる気の無さそうな口調と見た目をしたラミアのクロエさん。
にょろにょろっと棚の裏から出て接客します。
「わ! ら……ラミア……さん…………」
ですがクロエさんを見てハーピーさんは驚きます。
と言うよりも戦々恐々と言っても良いくらい怖がっているのが見て取れます。
それもそのはず、鳥にとってヘビとは卵を奪っていく恐ろしい敵なのです。
大型の鳥なら逆にヘビを捉える事もあるかもしれないですけど、あいにく今クロエさんの目の前に居るハーピーさんは小鳥気質なのでしょう、ヘビは天敵なのですね。
もう魂に苦手意識がすり込まれちゃってるとでも言うのでしょうか。
ハーピーさんは可哀相な位冷や汗を流しつつガチガチに固まっちゃってます。
「あらあら、可愛い小鳥ちゃんだこと」
「ひ……」
キラーン!
と、目を光らせたクロエさんにハーピーさんは小さく息をのんで震えます。
「それで、何かお探し?」
震えて動かなくなっちゃってるハーピーさんへクロエさんは問い掛けてみます。
とうのハーピーさんはたったそれだけ声を掛けられただけで盛大にビクッと肩を揺らして急いで自分の持ってるバックを突きだす様に見せてしどろもどろに答えます。
「ち……ちが……違います! こ……こ……これ……これを持って来ました!!」
そしてビクビクしながらもその肩掛けの配達バックから小包を羽先で器用に持って何個か取り出してカウンターに並べます。
「え、えぇぇええと……え、えと、は……配達です……よ?」
並べ終わった後、ハーピーさんはオドオドキョドキョドと納品書を取り出そうとしつつそう言いました。
その姿が小動物的で可愛かったのでクロエさんはついついちょっとだけ悪戯しちゃおうかなーなんて思ってしまいました。
そしてそう思っちゃったのが運の尽き。
ハーピーさんが納品書の束の中から今回の納品書を探すのに手間取っている時にスーーっと近づいて耳元で――
「…………きしゃーー、食ーべちゃーうぞー♪ ……ってね。 ふふ、冗談よ」
――と、軽い気持ちで驚かせて見たのですが……
「いーーやーーーー!!!!! 助けてーー!! お母さーーーーん!」
それを聞いたハーピーさんはもう大混乱!
目に大粒の涙を湛え、持っていた納品書の束をかなぐり捨てて逃げだそうとします。
でも焦る余りに足をもつれさせて派手に“バッターン!”と転んだ挙げ句“バッサバッサ”と羽(手)を振り回しながらあっちこっちの棚にぶつかって“ガッシャンガラガラガッシャーン”と物を落としまわり、それでも逃げようと必死なのですが、どうも腰が抜けちゃったらしくて殆ど移動も出来ずに完全にパニックになっちゃってます。
「ひぃーーー! きぃやぁーーー!! ぴーーー!!!」
これにはさすがのクロエさんもびっくりして大いに焦ります。
ちょっとした冗談のつもりが大惨事です!
「ちょちょちょっと、大丈夫!? ごめんなさい、大丈夫だから! 悪ふざけが過ぎたわ! だ、だから落ち着いて! お願いだから商品壊さないでー!!!」
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と言う阿鼻叫喚の地獄絵図からしばらく経った後・・・。
「はぁ……落ち着いた?」
「はい、すみませんでした……」
何とか多少落ち着きを取り戻して貰って話が出来る様になったハーピーさん。
そしてなんだか今日一日で一年分は歳を取った気分のクロエさんです。
「まあ、あたしも悪かったわ、ごめんなさい」
(珍しく可愛い子が来たから少しちょっかい掛けたくなっちゃっただけなのに酷い目に遭ったわ……って、可愛い子にちょっかい掛けるって、これじゃあたしまるでダメな中年おやじじゃない!?)
ぅぐぐ、と一人勝手に反省して勝手にダメージを受けて落ち込んだクロエさんにハーピーさんが慌てて答えます。
「いえ! 私が馬鹿みたいに怖がって驚いて暴れちゃったのが悪いんです。 ほんとにごめんなさい! 壊した商品は弁償します……」
そう言ってハーピーさんはまたまた器用に首に掛けてたがま口財布を取り出してクロエさんへ差しだそうとします。
でも、さすがに見るからに怖がってた相手を驚かせた自分が悪いのにお金なんて受け取れる訳も無く、クロエさんは首を振ります。
「良いわよ。 あたしがからかったのが悪いんだし、気にしないで」
そう言いつつクロエさんはハーピーさんが放り投げちゃった納品書を拾い集めて手渡してあげました。
「あ……ありがとう御座います」
と、ハーピーさんが受け取ろうと羽(手)を出したまさにその時、非常にタイミングが悪い事にこの店の常連客の一人が勢い良くドアを弾き開けて来たのでした。
「どうだー! 今度は黄色いチョーカーを着けてきたぞー! リボン付きだぞー! 可愛いでしょー?」
バッターーン!!と派手な音を立ててドアを勢い良く通ってきたリザード族の女の子が大声でそんな事を良いながらクロエさんの居る所へ突進してきます。
そしてクロエさんの近くには今まさにやっと落ち着きを取り戻したばかりのハーピーさん。
これはハーピーさんからしてみれば突然扉からリザード族が現れて自分に向かって突進して来たのと同義です。 さあ大変!
「ヒィィィアーーーー!!!」
バサバサ、ガッチャーン!!
……結果どうなったかと言うと、ハーピーさんはその場で咄嗟に飛び立とうとして天井にしたたかに頭を打って商品棚の上に墜落し、気絶しちゃいました。
で、さっき暴れた時の散らかりっぷりと合わさってお店の中は竜巻でも直撃した後かの様な有様になってしまった……と言う訳です。
「…………これは、何事なのかな?」
ハーピーさんの突然の奇行とあんまりな店内の状況に意気揚々とニコニコ笑顔で入ってきたリザード族の女の子も状況が掴めず困惑です。
「…………何でも無いわ。 しいて言うなら、間が少しだけ悪かったせいで起きた不幸な事故……かな? ……ふふふ……泣きたい」
ハーピーさんを隅に寝かせつつ、お店の惨状を見て、ずーーん……と沈んだクロエさんが店の裏手に力無く“にょろん……にょろん……”と、ちり取りとほうきを取りに行きながら小さな声でそれだけ呟く様に女の子に答えるのでした。
「ねぇ……その子の介抱と掃除手伝って」
「さっぱり状況が理解出来ないけど、分った」
と、二つ返事で答えてくれる常連客であり、友達でもあるリザード族の女の子にクロエさんはひっそりと感謝するのでした。
「ありがと」