お客さん【リザード族の女の子】の場合
夜も更けてきた頃、閉店の看板をドアの前に掲げた【道具屋ラーフ】の店内で、そのお店の看板娘であるラミアのお姉さんは日頃の不満を吐き出すかの如く長い溜息を吐きます。
「はぁーぁ、面白くないわねぇ……。 たまには可愛い女の子のお客さんでも来ないかしらねぇ」
本日の売り上げを計算しながらそんなやくたいもない事を呟いてみます。
でも、こんな冒険者街の真っ只中にある、これまた冒険者向けを謳う道具屋にそんなお客さんが来る訳も無く、今日も今日とて筋骨隆々の戦士達しか来店しませんでした。
「冒険者って言っても女性だっているはずなのにねぇ。 どうしてうちには人族とか単眼族とかのむさ苦しい男ばかりしか来ないのかしら」
独り言を喋ってはいますけど、パチンパチンとテンポ良くソロ盤をはじいてどんどんと計算を終わらせて行きます。
そんな彼女へすぐ近くから声を掛ける人影が一つ……。
「クロエさん、私女なんですけど。 花も恥じらう十八歳なんですけど!」
まるでその空間には自分以外の存在は無いとでも言うかの様に独り言を喋り続けるクロエさんに真っ向から自己主張をする女の子が一人。
その女の子は店内の掃き掃除でもしていたのか、手にホウキとちりとりを持っています。
その女の子の言葉を聞いてクロエさんはボソッと一言。
「…………空耳か」
「いやいやいやいや、居ます。 私ここに居ますから! 泣きますよ!?」
華麗に無視されちゃったので女の子は若干涙目で訴えます。
「あらあら、ごめんなさいね」
「ダメです。 許しません!」
クロエさんは(さすがにちょっと意地悪が過ぎたかな?)と思わなくも無かったので謝ってみたのですが、当の本人は口では怒りつつもすでにいつも通りな感じで掃き掃除に戻っているので大丈夫みたいです。
なのでついでに素朴な疑問を言ってみる事にします。
「でもね、貴方リザード族じゃない。 しょーーじきに言って…………あたしリザード族って男女の区別付かないのよね」
「ええええなんですかなんですか! ちょっと酷くないです!!? だってクロエさんもラミアじゃないですか! 言うなればヘビですよ!? 私リザード族、トカゲ、トカゲです! 似た様なものですよね!? 区別付かない事無くないですか!??」
「へ、ヘビって……。 でもねぇ、ラミア族ってぶっちゃけちゃうと足以外は人族と大差ないのよね。 だから……ねぇ」
「も、もぉ怒りましたよ! 今度会うときは絶対覚悟してて下さいよ! ぜったい目に物見せてやるんだからー!」
クロエさんのあんまりにもあんまりな意見に女の子はプリプリ怒ってホウキとちりとりを持ったまま走り去って行っちゃいました。
「まずい、いじり過ぎちゃったわ……。 今度来たら謝らないとダメね」
リザード族の女の子が飛び出して行ったドアを眺め、ちょっとだけ反省するクロエさんなのでした。
そして後日の事――――――――
「どうだぁクロエさん!」
「あらあら、久しぶりね」
「うん、お久しぶりです。 それよりリボン! 赤いリボンつけた! どうだー!」
「え……うん。 可愛い……? 可愛いリボン……よね?」
「でしょう! 恐れ入ったか!」
困惑するクロエさんを尻目に、尻尾にくるっと赤いリボンを巻いて『ふんっ』と鼻息荒く勝ち誇るリザード族の女の子なのでした。