お客さん【リザード族の女の子】の場合 その3
“カランカラーン”
道具屋【ラーフ】のドアベルが、爽やかな音色でクロエさんへと少し煤けた装いのリザード族の女の子の来店を教えてくれました。
大方何が起こったのかその姿を見ただけで察しが付いてしまいますが、クロエさんは持ち前の冷静さでとりあえず全てをスルーして普通に声を掛ける事にします。
「いらっしゃい」
「……燃えた」
しかし女の子はブスッとした表情のまま淡々と呟きます。
《一応何が燃えたのかと言うと、以前クロエさんがワーキャットから仕入れた火耐性マントの事です》
「そう」
「…………【三ツ尾狐】、逃げられた」
「それは残念だったわね」
そんな女の子にクロエさんもまた、淡々と返事を返します。
「クロエさん、燃えたよ?」
「もう聞いたわ」
「泣きますよ?」
「……」
「…………うわーん」
「ちょっと! 悪かったわよ。 ちゃんと聞くから泣き止みなさいな!」
さすがにあんまりにもあんまりな格好で泣き真似をしだした女の子にクロエさんもこれは可哀相かなと態度を改めます。
「もう。 それで? 結局どうなったのよ」
「うん、一応クロエさんがたぶん燃えるって言ってたからさ、最初は火魔法が直撃しない様に避けてたんだよー。 で、その時に擦って分ったんだけど、ちゃんと魔法耐性は有ったみたい」
クロエさんがしっかり聞く態度を取ってくれたので女の子もコロッと泣き真似を止めて普通に話出します。
「あら意外、正直それ何の効果も無い普通のマントだと思ってたわ」
女の子の説明にクロエさんは本当にびっくりだと言わんばかりに驚いた顔でそう返しますが、それを聞いた女の子がこっちこそびっくりだと驚きます。
「うぉーぃー! だからクロエさん、そんな怪しい装備でフレイムサラマンダー狩って来いなんて言わないで下さいよ! 行ってたら私、死んでたよ!?」
「大丈夫大丈夫。 もし本当に行きそうになってたら止めたもの」
「なら良いや、許してしんぜよう!」
「……なんかモヤッとするわ」
「なんで!?」
ブスッとした顔で不満を訴えるクロエさんに女の子は大げさに問い返しますが、この辺は仲が良い裏返しなので問題ありません。
「さ、続きをお願いね」
「うーん……まあいいや。 で、魔法耐性があるの分ったから、なら直撃覚悟で突っ込めば手っ取り早く倒せるんじゃ無いかなと思ったんですよ。 それで突っ込んだんだけど、マント燃えちゃってびっくりして逃げてきました!」
「やっぱり燃えるわよねぇ。 分ったわ、ありがとう参考になったわ」
「ぇぇー、なんかモヤッとしますー」
今度は女の子の方が先ほどのクロエさんを真似てブスッとした顔で不満を訴えます。
「だから最初に言ったじゃない。 燃える気がするって」
でもクロエさんもあんまり気にせずに燃えるって言ったと答えます。
「そうですけどー、そうなんですけどー!」
なんか納得出来ないー!と地団駄を踏む女の子。
ただ、尚も不満を訴える女の子へクロエさんはカウンターの裏から少し古ぼけてはいるものの、綺麗な朱色をしたマントを取り出して手渡してあげるのでした。
「ふふ、冗談よ。 はい、これあげるわ」
「え……ええ? 何かなこれ」
「それはちゃんとした火耐性のマントよ。 あげるわ」
「ええ!? そんな高い物貰えません!」
女の子が驚くのも当然で、しっかりした火耐性があるマントは例え中古品だったとしても一般的な冒険者が持つには厳しい位の値段はするのです。
ですがクロエさんは事も無げに“大丈夫”だと言い切ります。
「大丈夫よ。 それツケの形に貰った物だからお金なんて払って無いし、気にしなくて良いわよ」
と、まるで無料で手に入れたかの様に言うのですが、ツケの形って事は普通にその分の商品は渡してると言う事なので別に全然安く手に入れたとかそう言う話では無いのですけれどね。
でも女の子はあんまり商売に詳しく無いですし、クロエさんが“気にしないで”と言ったのだからと、安心してしまうのでした。
ちなみに別にそれで感謝の気持ちが軽くなるとかそう言う事は無いので本人達にとってはそれで問題無いのです。
とは言え、それはそれ、これはこれ、です。
例えプレゼントにそれ程費用が掛ってなかったとしても(実際には普通に掛ってますが)どうしてマントをくれるのか女の子は気になります。
「にしても、なんでくれるのかな?」
「まあ、マントのテストに付き合ってくれたし、日頃店の手伝いもしてくれてるし……その感謝の印よ」
「ぉ、ぉおぅ。 クロエさんがデレた……。 明日は雹でも
降るんじゃなかろうか……」
「……良い度胸ね。 嬉しく無さそうだしやっぱりやめて、ついでに商品の販売価格も五倍にしましょうかしらね」
「まって! 嬉しい、嬉しいから! 五倍じゃ破産しちゃうよ!?」
「最初からそう言えば良いのよ。 全く困った子ね」
プイッとそっぽを向いて怒ったクロエさんなのですが、実は照れて顔真っ赤なのを誤魔化す為にわざと大げさに怒ったフリをしたのです。
女の子もそれに気付いていますけど、言わないのが華かと思って満面の笑顔でクロエさんのフリに付き合うのです。
そうしてしばらく二人してフリを続けた後、どちらからとも無く大笑いしあうのでした。
「あははは、クロエさん、ありがとう! 大切に使うね」
「ふふふ、ええ、そうしてくれるなら私も嬉しいわ。 あ、感謝の気持ちはフレイムサラマンダーの素材で良いわよ」
笑い合いながらもお礼を言う女の子に、クロエさんも笑顔で冗談とも本気ともつきづらい返事を返すのでした。
「まかせろー」
「…………」
「……あれ、とめてくれない?」
「まあ、そのマントは本物だし? 素材欲しいし?」
「とめて! とめてよ! クロエさん、わたし死んじゃうよ!?」
「しょうがないなー、それじゃあ止めてあげるわよ。 冒険者を続けるのを」
「なんで!?」
「だって自分の実力を見誤るなら遠からず死んじゃうじゃない。 私だって友達が死んだら悲しいから止めるわよ」
「クロエさん……そんなにわたしを思ってくれてるなんて……ありが…………って、あれ? よくよく考えたら失礼だよ! ありがとうじゃないよ! そもそも最初に格上相手してこいって言ったのクロエさんだよ!? ここ怒る所だよ!!」
「あはは! 気付くのが遅いわよ♪ さ、ほんとに気をつけて行ってらっしゃいな」
「もー! でも分った。 気をつけて行ってくる」
そう言って女の子はマントを羽織り、颯爽と夜の町に歩き出す……直前で急停止して振り返ります。
「クロエさん、ナチュラルに追い返さないで! あやうく帰っちゃう所だったよ! わたしお店終わったらご飯一緒に行こうって誘いに来たんだよ! って事で一緒に行こうよ」
「あらそうだったの? 油売りに来ただけかと思ってたわ。 それならもうお店締めちゃって行きましょうか。 掃除手伝ってくれるわよね?」
「あいあい。 じゃあササッと片付けて、ご飯へゴー」
そうしてお店を閉めた後、今度こそ二人して夜の町へと歩き出すのでした。
ちなみに夜の町でも、場所さえ気をつければ治安はそんなに悪く無いです。




