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お客さん【西方弁の人】の場合

関東の人が関西弁だと思ってるのって大阪弁や滋賀弁や京都弁が主体になってその他色々混ざった謎言語なんですよね。

と、前置きしたくなるお話です。


 “カランカラーン”


 道具屋【ラーフ】のドアベルが乾いた音を鳴らしてクロエさんへと来客を告げてくれます。



「いらっしゃい。 適当に見てってね」



 店内に入ってきたお客さんへとクロエさんは読みかけの本を手に持ったままの一見やる気が無さそうな態度でこれまたやる気が無さそうな内容の声を掛けます。

 ただし、読んでいる本はお客さんへ少しでも的確なアドバイスが出来る様にと近くの森に住む“脱初心者が挑む”に丁度良いランクの魔物の解説本だったりします。


 いつも的確なアドバイスをするクロエさんですが、本人は一度も町から出た事の無い普通の一般人なのです。

 ですから魔物も見た事無いですし、薬草が何処に生えているのかも知らないのです。

 それでもクロエさんは困っている人や無謀な事をしようとしてる人へ色々アドバイスをする為に、日々本を読んだり熟練者に話を聞いたり色々な商店仲間と情報交換したりと余念がありません。


 そんなクロエさんの優しさを知っている者達は普段の気怠げでやる気の無い態度が見せかけだけだと知っているので気にしないのですが、本日のお客さんは初来店のお人だった様です。



「なあ姉さん、その態度は無いんと違いますかねぇ」


 と、黒いローブを着込んだ魔術士風の男性はクロエさんの態度に苦言を呈して来ました。

 ですがクロエさんも慣れた物、この程度の事ならむしろ普段通りと言っても良い位で対応もいつも通りに返します。


「そう? 何がお気に召さなかったのかしら」


「それそれ、その態度や。 もうチョイ愛想良くしてくれてもええんやで?」


「あら、そう言う事ね。 でもごめんなさい、うちの商品に私の笑顔ってのは無いのよ。 そう言うのは歓楽街にあるそう言う店で注文してね」


 ローブの男性が言った様な事は普段から言われ慣れてるクロエさんなので返しもいつも通りに素早く素っ気なくすっぱりと言い切ります。


「おっふぅ、こりゃ手厳しいわ。 まあええ、なんや一週回って逆にその態度が好ましく見えて来たわ」


 しかし男性も()る者、大げさな身振りで顔を押さえて嘆く、かと思いきや何故かさっきまでの不満を無くして機嫌良くなりました。


「そう、それは良かったわね。 所でそのエセ西方弁止めてくれないかしら? 違和感ありすぎよ」


 いつになくテンションの読めないお客さんにクロエさんは困惑しだすのですが、それはそれとして男性の喋る西方弁がどうにも胡散臭くて気になって突っ込んでしまいます。

 ですがそれに対して男性は酷くショックを受けた身振りをしつつ何とか声を絞り出す……かの様な振りをしながら普通に反論して来ました。


「いやいや、チョイ待ちぃよ。 姉さん、あんさんは西方弁の本場に居った事があるんかいな?」


「……無いわ」


 その男性の言葉にクロエさんは一瞬言葉に詰まってしまいます。

 何せクロエさんはこの町を出た事が有りません。

 むしろこの区画から出た事も殆ど無いくらいなのです。

 と言うよりも、だいたい店に居ます。


「せやろ? 本場の西方弁ってのはこないなもんやねん。 知ったかして恥かかんように次からは気ーつけるんやで」


 男性は馬鹿にするかの様な内容ではありますが、イントネーションとしてはさも優しく諭すかの様な物言いでクロエさんに言い聞かせます。


「そう、悪かったわ。 今度からは気をつけるわね」


 なのでクロエさんも無駄に反発せずに男性に普通に謝ってしまいます。

 そもそも根が素直なので言われた事をそのまま鵜呑みにしちゃったと言うのもあるのですけどね。


「あー、なんや……。 姉さんは商業都市(西方弁の町)に行ったらすーぐ身ぐるみ剥がされて無一文になってしまいそうやな……」


「どう言う事よ」


「いやな、自分の言う事素直に聞きすぎやねん。 そないな事じゃすぐ騙されてまうで?」



「……あなた、私を騙したの?」


 ここへ来て、急にクロエさんは気怠げな雰囲気も何もかも消して、無表情のまま底冷えする声でその一言だけ言いました。

 その声に男性は自身の冒険者として鍛え抜かれた危機察知能力が全力で“このまま放って置いたら絶対にまずい!”と警告を発したのを感じ取りました。

 


「ま、まちぃな! ちゃうねん、そないに怒る前に話をききーや」


「何かしら? 私はわたしを騙す相手をもてなす趣味は無いのだけれど?」


「騙してへん。 騙してへんけどえらいあっさり信じたからあんさんが心配になっただけやねん。 堪忍してくれーや」


 男性は必死に両手を合せて拝みながら謝ります。

 その姿は確かに本気で謝ってそうだなと見えましたし、何より男性が言ってる事が本当ならクロエさんを心配して言ってくれたみたいなのでクロエさんも怒るのをやめて自分も謝る事にしました。


「そう、そう言う事ならむしろ私が謝らないとならないわね。 はやとちりして怒ってごめんなさい」


「いやほんまびっくりしたわー。 ってそうやないねん! だからあんさんそないな素直に信じたったらあかんがなー」


「どう言う事? 私をからかって遊んでるのかしら?」


 と、そこから話が三周程ループしたので省略するとして。


「はぁ、分ったわ。 確かに貴方の言う事ももっともね。 でももうちょっと言い方があったんじゃないかしら?」


「そらすんませんなぁ。 西方の人間てのはだいたいこないな性格やねん」


「せ、西方ってそんなにカオスな異世界なのね……」


「あ、ちなみに“だいたい”なんて言うとるけどな、一割二割程度の事やでー。 西方の者の言う事はだいたいオーバーに言うてるもんやさかいな! あっはっはっは」


「う……もう何が何やら……。 怒れば良いやら呆れれば良いやら分らなくなるわね」


「せやなー、自分でもそう思うわ。 ほな今日はこれ位にして帰ったるでー。 さいならー」


 ひとしきり喋って、一人盛大に大笑いして、クロエさんを振り回すだけ振り回して、そして男性は勝手に満足して帰って行ってしまいます。

 その背がドアを通り抜けて見えなくなってから――


「結局あのうるさい人は何しに来たのかしら?」


 ――最後まで商品を一切見もせず、そして何も買わずに出て行っちゃった男性の事を思い、これが俗に言う“骨折り損のくたびれ儲け”ってやつなのかしらと溜息をつくのでした。






◆◇◆◇◆






「あ、ポーション買うの忘れとったわ。 いまさら行かれへん……どないしよー」






とりあえずここまで!

続きは“読みたい”と言うリクエストが無い限りは無いかもしれませんです。 m(_ _)m

書くかもですが……。

ブックマークして下さった方、ありがとう御座います!

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