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8・さんじょの独白

―#―


私の名前は音成アキ。

校内で有名になってしまっている音成シスターズの末の妹だ。


今、私は隣の家に住む幼馴染、真中ハルタからの依頼で弁当輸送の最中だ。

輸送は途中、マイケルという人に今日の弁当は急遽なくなったということを伝えると、この世の終わりのような顔で悲しむという事態があったりしたが、順調に進んでいる。

今は最後の相手である音成家長女、ユキ姉の所に向かっているところだ。

ユキ姉の弁当は4段重箱の包みが2つだ。

これを毎日作っているハルタは本当にすごいと思う。

本当のところは姉妹の中で唯一料理ができる私がするとか、前日のうちに仕入れておくみたいなことをするべきなのだろうと思うのだが、あの本気か嘘かわからないハルタの夢の練習のためという話を言い訳にして受け入れてしまっている。


基本的になんでも自分でやってしまうハルタからこんな風に頼み事をされることは稀だ。

こんな些細な事でも頼られたことに嬉しさを感じてしまうあたり、私はもうハルタから離れられないのかもしれない。


ユキ姉の教室でユキ姉を探す。

ユキ姉はとても目立つので探すのは楽だ。

ほらいた。今日の頭はウサギか。

ユキ姉は学校ではきぐるみの頭部分をずっとかぶっている。

自分の顔を他人に見られないようにだ。これは学校にも許可をもらっていることなので、誰も何も言わない。

こんな風に顔を見せない理由は精神疾患だということになっている。極度の視線恐怖症。自分の顔を人に見られると思うと動機や息切れ、吐き気などがして立っていられなくなる。

その対処法がきぐるみの頭をかぶり、直接顔を見られないこと。そういうことになっている。


まあ、これは表向きの理由であり、実際のところは違う。

ユキ姉が人に顔を見せられない本当の理由はもっと複雑だ。

これは幼馴染のハルタでさえ知らない。音成家だけで守らなければならない秘密なのだ。


ユキ姉は見つけたが上級生の教室なので入っていいか悩んでいると、私のことを知っているらしい上級生がお姉さんに用事かと私を招き入れ、ユキ姉を呼んでくれた。

この学校では知らない人にまで音成家の姉妹関係や顔が知れ渡っているのかと少し複雑な気分になりつつも、その気遣いに感謝する。


すぐに教室のドアのところにいる私の所に、ウサギ頭をひょこひょこさせながらユキ姉が歩いてきた。

ユキ姉はもともと身体の小ささもあって可愛らしいが、その動き方も可愛らしくてファンシーだ。

我が姉ながら、見ていて和んでしまう。


「ユキ姉、これ、今日のお弁当」


「あ、ありがとうアキちゃん。・・・あれ? 今日はハルちゃんはどうしたの?」


「ハルタはちょっと用事があってこれないみたい。だから頼まれて私が持ってきた」


「・・・そうなんだぁ」


ウサギ頭で顔は見えないが、声色と仕草でハルタが来ないのを残念そうにしているのがわかってしまう。


ユキ姉は明らかにハルタのことが好きだ。というかたぶん、うちの姉妹は全員ハルタに気があると思う。

全員たぶん、それをわかっているが、そのことはあまり口にしない。


「とりあえず、はいこれ」


デカイ重箱の包みを2つ、ユキ姉に渡す。


「ありがとう」


小さいユキ姉にはその包みを持つのは大変そうに見えるのに、ユキ姉は軽々とその重箱2つを受け取ってみせた。

ユキ姉は姉妹の中で一番力が強いからな・・・。いや、姉妹に限らずこの学園でユキ姉より筋力がある人というのはいないのかもしれないけれど。


重箱を渡してじゃあねと去ろうとした私を、ユキ姉が引き止めてきた。


「ね、ねえアキちゃん。せっかくだし、今日は一緒にお弁当食べない?」


「いや、流石に上級生の教室でお弁当を食べるのは肩身が狭いよ」


移動で時間がかかるだろうと思ったから、教室には戻らずどこか適当なところを見つけて弁当を食べようと自分の分のお弁当箱も持ってきている。

しかし流石に三年生の教室で食べるというのは緊張してしまう。


「は、ハルちゃんは気にせずここで食べてったりするよ?」


「アイツのアイアンハートと私を一緒にしないで」


なんというか、アイツは肝が据わりすぎてるのだ。

相手がどんな相手でも物怖じせずに普通でいる。普段の自分をほとんど崩さない。

普通なら萎縮しそうなことでも結構平気でやってしまうところがある。

・・・まああの性格は、私達姉妹の後始末をずっとやってきたせいで育ってしまったものなのかもしれないけども。


「ふふ。は、ハルちゃんがここの教室で食べてくことがあるのは本当だけど、アキちゃんと一緒に食べるのにここで食べるってのは流石にしないよ。きょ、今日はいいお天気だし、中庭で一緒に食べよう?」


三年生の教室は一階に面しているので中庭に出やすい。

たしかにいい天気だ。たまには姉妹で昼食というのもいいかもしれない。


「わかった。一緒に食べよう、ユキ姉」




私たちは中庭に移動して、開いてるベンチで弁当を広げた。


手をあわせていただきますする。

瞬間、ユキ姉の重箱の一段分がまっさらに消えた。


「ん~っっ! や、やっぱりハルちゃん料理上手だよね! 冷めてても美味しいし、見た目も楽しい。それにどんどん料理が上手になっていってる気がするし!」


・・・ユキ姉、一瞬で食べてるようにしか見えないのにちゃんと味わってるんだよね。

まあ、今更これに突っ込むのもあれだから言わないけど。


「ハルタはレパートリーも半端じゃなく多いしね。このあいだテレビで見てた料理が美味しそうだったから、これ食べてみたいってつぶやいたら、ハルタがちゃちゃっと作ってきちゃった時あってさ、すごかったしおいしかったけど、そういうことすると太るからやめろ! って怒っちゃった」


「・・・た、たぶんそれ、私もよく一緒にテレビ見てる時におねだりするから無意識にやっちゃったんだと思う。まあ、おねだりしたらできちゃうハルちゃんもハルちゃんだけどね」


なるほどそういうことか。

ユキ姉はよく食べるから、その感覚で私のときも作っちゃったのか。

だが栄養が胸にしか蓄積されないユキ姉と違って、私の場合食べ過ぎれば肥える。そこら辺はちょっと気をつけてほしいところだ。


「そういえばハルタ、料理中にイノシシのお肉が切れそうだって言ってたよ」


「あ、そうなんだ。じゃあ帰りに冷凍倉庫に預けてるやつ取りに行かないとだね」


「たしかそれって、ユキ姉が仕留めた動物なんだよね?」


「そうだよ?」


「前から気になってたんだけど、動物を狩ったりするのって免許とかいらないの?」


「ああ、じゅ、銃とか罠とかそういうのを使って仕留めるときは免許がいるけど、私の場合素手で仕留めてるから免許はいらないんだよ」


「・・・・・・素手で取ってたんだ」


「うん。ま、まあでも、獲っていい期間とか獲っていい数とかあるから気をつけないといけないんだけどね。と、とりあえず、法律を違反するようなことはやってないから安心していいよ」


安心とかそれ以前の話な気がするけど、まあ、ユキ姉だし言っても仕方ないか。


それから私とユキ姉はおしゃべりしながら食事を進めた。

本来ユキ姉はその気になれば一瞬で全ての重箱を空にできるはずなのだが、私にあわせるように少しずつ食べてくれている。

いや、量的に見れば全然少しじゃないんだけど、相対的に見て少しね?


ふざけてあーんをし合ったりもした。

私がきぐるみの頭に向けてあーんした食材が、きぐるみの中の顔を見る事なく消える。

多分ユキ姉が超スピードで食べてそう見えるだけなのだろうが、なんだかきぐるみが直接食べているようで楽しい。

そのあと、ユキ姉があーんをし返してくる。

・・・いや、ユキ姉、どうやってそれ箸で持ってるの? 普通の人は一度にコロッケ五個を箸で挟んで持ち上げたりできないよ? って言うか、私の一口はそんなにでかくないよ?




そんなことをやって姉妹でキャッキャやってると、唐突に大声が響いた。




『アキちゃん! 音成シスターズ緊急会議をやるよ!』


大声はスマホからしていた。

たぶん、と言うか絶対にナツ姉だ。


ナツ姉は引きこもりだ。

自室から一歩も外に出ることができない。学校も特例でデータ通信上で通っている。

これはナツ姉は重大な病気で、環境の整えられた室内から出ると生存できないからだということになっている。

無菌状態に保ち、温度や状態を十全に整備された状態でないと生きられない病気。


まあ、これも実はユキ姉同様表向きの理由であって本当の理由はもっと複雑だ。

ナツ姉が本当はどういう状態なのかも音成家の秘密であり、これもハルタには内緒にしている。


私がスマホをカバンから取り出すと、スマホに映るナツ姉に向けてユキ姉が言った。


「ど、どうしたのナツちゃん。そんなに慌てて」


『あ、ユキ姉もいたの? ちょうどよかった! 大事件だよ! 緊急案件だよ! 驚天動地で青天の霹靂だよ!』


「ナツ姉うるさい。ちょっと落ち着いて」


『うるさくもなるよ! だって大変! ハルタが大変なんだよ!』


ハルタ・・・転校生のイケメン女子に連れて行かれたけど、もしかしてあの後何かあったんだろうか。


「・・・ていうか、ナツ姉もしかしてハルタとあの転校生の会話、盗み聞きでもしたの?」


『・・・いや、それはそうなんだけど、今はそういうのを話してる場合じゃなくて・・・』


「な、ナツちゃんまたハルちゃんのプライベートを勝手に覗いたの!? もう! そ、そういうことしちゃダメだっていっつも言ってるじゃない!」


『ユキ姉、そのことは後で謝るから待って! そんなことより今は大変なの!』


「ま、待たないよ。ナツちゃんは一度しっかりお説教を・・・」


「ユキ姉待って、一回ナツ姉の話を聞いてみようよ。とりあえず何が大変なのかだけでも」


私はハルタがあのイケメン女子転校生に連れて行かれたところを見ているし、ハルタがあの転校生を助けたらしいことも聞いた。

その上で呼び出され、ナツ姉が大変だと言っているのだ。

少し気になる。


『ありがとうアキちゃん! 実は、実はハルタが、転校生の女子にプロポーズされちゃったんだよ!』


「「えっ!?」」




ユキ姉と私の声が重なり、驚愕に染まった。

音成三姉妹ヒント① 姉2人は病気で引きこもりや顔を隠しているわけではありません。


思った以上に伸びているので、体力の続く限り毎日更新できるよう頑張ってみようと思います。

感想、評価、ブクマ等はモチベーションに繋がりますので、もしオモシロイと思っていただけるのなら下の方からしていただけると喜びますw

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