7・じじょの割り込み
頑張りました。
少し短めですが・・・
「なっ、なんだ!?」
サツキは突如響いた女性の声に驚いて辺りを見渡す。
・・・まあ、ナツのことを知らなきゃビビるよな。唐突だし、スマホの出せる最大音量でやりやがったからうるさいし。
『さっきから聞いてたらアンタ、何を勝手にハルタと結婚しようとしてるの! この、泥棒猫!』
泥棒猫って・・・。
「・・・誰かはわからないが、せめて姿を出して話をすべきではないか? 人の話を勝手に盗み聞きした上に姿も見せないなんて、非常識だろう」
『・・・そ、それはアンタが唐突にハルタを連れ出したから気になって・・・』
「盗み聞きをしていい理由にはならないよな? それに隠れてないで出てきたらどうだ」
「いや、こいつは俺のスマホをハッキングして盗み聞きしたり喋ったりしてるんだ。隠れてるわけじゃないよ」
サツキがキョロキョロと声の主をいつまでも探していたので、俺は真相を教える為にポケットからスマホを取り出した。
スマホの画面にはナツの姿が映っている。
『ハルタ、なんで言っちゃうの!』
「いや、言っちゃうも何も、お前が盗み聞きしてたのは事実だろう」
まあ実はそのおかげでちょっと助かったと思ってたけど。
美形にあんな風に迫られて若干空気に飲まれてしまっていた。
ナツが割り込んできてくれたおかげで冷静になれた。
「スマホから・・・姿を見せないどころかそれは軽く犯罪じゃないか? ハルタのプライバシーを侵害している」
その通りだ。もっと言ってやってくれ。
まあ、どれだけ言ったところで治らない気はするけど。
『ハルタと私は幼馴染だからいいの! それよりもほとんど初対面でプロポーズしちゃうような貴女の方が非常識だよ! 信頼関係も何もあったものじゃないじゃん!』
いや、幼馴染でも何もよくない。
俺はどっちも非常識だと思う。
「幼馴染なら何をしてもいいというわけではないだろう? それにハルタは僕に専業主夫をする相方はいないと言っていた。つまり君は彼に結婚相手として見られておらず、断られているのではないか? それなのに諦めきれずに彼に付きまとっているのか?」
「・・・いや、それは違うぞ。俺は何度かナツに相方になってくれないかと頼んでいる。その上で断られているのは俺の方だ」
流石にナツが俺に対して付きまとっているだけだという誤解は避けておきたい。
変な誤解があればまた話がややこしくなりそうだ。
「なんと。彼からの求婚を断っておいて、僕に彼に求婚するなと言っているのか? それは少々身勝手な話ではないか? 事情は知らないが、僕から見れば、彼よりいい相手が現れるまで彼をキープしておきたいだけのように感じる。そんな相手に私の求婚に対してとやかく言われたくはない」
『キープとかそんなつもりはない! そ、その、私は単純に幼馴染が心配なだけで・・・』
「流石にそれでも恋愛関係の事にまで口を出すというのは出しゃばりすぎではないか? なあ、正直に言ってくれ。君がもし彼に好意、あるいは好意に近い感情を持っていて、いずれ彼との関係を進展させる気があるというのなら僕はここで一旦引く。だがもし違うのであれば、僕のやることに口を出さないでもらいたい」
そう言ってサツキはスマホに映ったナツの目を覗き込んだ。
・・・はたから見ていても美形に見つめられるというのは精神にくるな。
視覚情報の圧力とでもいうか、他の人よりも圧がかなり高い気がしてしまう。
『そ、それは・・・その・・・』
ナツが言い淀む。
「どうなんだ。君はハルタと恋人関係や婚姻関係になるつもりはあるのか?」
追い討ちをかけるようにサツキが圧をかける。
・・・俺から言えることは何もない。
ナツに助け舟を出したい気もするが、この状況でそれをしても状況をさらにややこしく長引かせるだけだ。
それだけの圧がサツキにはある。
ここはナツに、自分の気持ちを正直に答えてもらうしかない。
『・・・・・・私は・・・私は、ハルタの恋人にも結婚相手にもなれないよ・・・』
・・・やっぱりそうか。
少しだけ、こんな場面であればあるいはナツも俺との関係を変える決心をしてくれるのではと思ってしまった。
・・・よくよく考えればズルイ男だな俺は。サツキを使ってナツの内心を聞き出そうとしたなんて。
「・・・なら、僕とハルタの関係に口出ししないでもらいたい。帰ってくれないか?」
サツキが冷めた目線でナツにそういう。
なんだか、どこか怒りさえ覚えているといった視線だ。
『そ、それは・・・』
「君は彼の恋人でも婚約者でも、ましてやその候補ですらない。帰ってくれ」
辛辣だ。ナツの事情を知る俺としては、そこまで責め立てることはないとも思える。
だがしかし、それをこの状況で俺が言ってしまえばまたおかしくなってしまう。
いや、違うな。俺も一度この場からはナツにいなくなって欲しいと思っているのだ。
ナツに怒っているわけじゃない。ここから先にサツキとする話はナツに聞いて欲しくないのだ。
『た、確かに私はハルタの恋人でも婚約者でもないけど、私はハルタにアイコラ写真を使われるオ・・・ブツッ!』
・・・スマホの画面が突如暗転した。
「・・・? おいどうした?」
暗くなった画面を見ながらサツキがそう言う。
「・・・・・・たぶん、スマホの電池が切れたんだ。朝から充電がギリギリだったからな」
朝の時点で10パーセントを切っていたことを考えれば、寧ろここまでよく持ったと言うレベルだ。
「そうか・・・しかし、彼女最後になにか言いかけてなかったか? なんと言いたかったんだろう・・・」
「・・・俺にもさっぱりわからん」
まあ、何かとんでもないことを口走ろうとした気はする。
あいつマジでこんな場面で何を口走ろうとしたんだ?
言わせてたらヤバかったって予感だけはするけども。
「はあ・・・まあ邪魔は入ってしまったけど、仕切り直しだな。ハルタ、改めて言う。僕の物にならないか?」
サツキが改めて俺の目を見つめてそう言った。
ナツが一度止めてくれたおかげで、俺も空気に飲まれることなく冷静に答えられる。
「・・・悪い。さすがに出会ったばかりで結婚とかは考えられねえわ。確かにお前の夢を支えるのは楽しそうだとは思ったけど、お前の人となりはほとんど知らないからな」
「・・・そうか。まあ、確かに僕も焦りすぎたな。それは今後結婚してもいいに変わる予定はあるか?」
「それを直接俺に聞くのかよ」
「絶対に無理だということ継続し続けるほど僕も暇じゃないからな」
まあ、確かにそれが合理的か。
生理的に無理とかそういう話もあるしな。
「すまん。正直俺にも先のことはわからん」
「つまり、ゼロパーセントではないのだな」
「・・・・・・すごい答えにくい。自分で判断しろ」
「現時点で20パーセント前後はあると見た。君を手に入れる利益を考えれば、アプローチを続けてもいい数値かな。頑張れば上昇させれそうだし」
「・・・・・・」
また微妙にリアルな数字を言いやがって。コメントが出ねえじゃねえか。
「なあハルタ。一つ聞きたい。僕の要求を断ったのに、先程間に入ってきた幼馴染は関係あるか?」
「そこまで聞いちゃうのかよ」
「答えてくれ」
「・・・・・・なくは、ねえ」
実のところナツだけじゃなく、アキやユキ姉の事も頭をよぎっている。
・・・俺、やっぱり優柔不断だな。いや、前々から自覚していた事だが。
自分で誰かに決めてしまえないから、相手に決断を委ね続けてしまっている。
わかっていても、どうしても俺には決められないんだ。
あの姉妹の持っている事情を含めて、何を選ぶのが正解か、俺自身何をしたいのかがわからないのだ。
「ふっふっふ、やっぱり僕の勘は正しかった」
そんな風に悩んでいた俺に、サツキがそんな風なことを言った。
「勘ってなんだよ」
「それはだな、僕の結婚相手に君を選べば・・・・・・とても楽しい事態になりそうだってことだよ」
そう言って笑うサツキの顔は・・・ムカつくくらいのイケジェンだった。
次話は音成三姉妹の誰かの視点での話の予定