24・ひさびさの触れ合い
遅くなりました。
寒さと金欠でモチベの維持が難しく、なかなか書き進みませんでした。
―# ユキside #―
「本当に、本当にすいませんでした」
私が自分の作戦や行動を振り返って、やはりあまりに軽率だったと少し泣きそうになって震えていたら、突如ハルちゃんがそう言いながら私に土下座した。
え、な、なんで急に土下座?
あまりに急な事態に状況がよくわからなくて私は慌てる。
「は、ハルちゃん、急にどうしたの?」
「ごめんなさい! どうか許してください!」
「・・・い、いや、わからないよ。ゆ、許すってなんの話?」
状況が全くわからない。
い、一体全体何がどうなれば突如としてハルちゃんが土下座をするなんて事態になるのだろう。
さ、さっきまで、どちらかといえば謝りたかったのは私の方だった。
数分間、どちらも言葉を発さずに見つめあって、気まずい雰囲気の中、私は自分の軽率な行動を呪っていた。
秘密をバラす方法はいくらでもあったはずなのに、自分の恥ずかしさを優先してこんな方法を選んでしまったことがたまらなく恥ずかしくて、情けない気分になってた。
どうしたらいいか、何を話していいかもわからなくて、ただただ悲しい気持ちでハルちゃんの顔を見つめてしまっていたのだけど、本当になんで私はハルちゃんに土下座されてるのだろう。
ど、どちらかといえば土下座したいのはこっちの方だったんだけど・・・。
「ごめんユキ姉! 正直に話すと俺も理由はわかってないんだけど、ユキ姉を嫌な気分にさせたことだけはわかる! だからそれを謝りたいんだ!」
・・・・・・?
は、ハルちゃんも理由はわからないけど土下座してる?
私がなんで土下座しているかわからなくて、ハルちゃんもなんで土下座してるかわからないのなら、い、いったい誰がハルちゃんが土下座している理由がわかるのだろう。
よ、余計にわからなくなった。
「は、ハルちゃん。謝る必要なんかないよ? わ、私がハルちゃんに土下座される理由なんて一つも存在しないよ」
「・・・でも、ユキ姉は俺のせいで嫌な気分になったんだよね?」
「いや、た、たしかにちょっと悲しい気分にはなったけど、それはハルちゃんのせいじゃ・・・」
「本当にごめんなさい!」
は、ハルちゃんが地面に頭を叩きつけるように謝る。
いや、なんでそうなるの?
理由もわからないし謝る必要もないと言ってるのにそこまで頑なに謝られても、反応に困る。
「は、ハルちゃん、ちょっと落ち着いて頭上げてくれる?」
「・・・ユキ姉の気分は戻ったの?」
頭を地面にこすりつけたまま、ハルちゃんがそう聞いてくる。
「・・・そ、それはまだダメだけど」
正直にまだ自分の至らなさに落ち込んでいることを答える。
「ならまだ俺の頭はあげられないよ! ユキ姉の気分が晴れるまで、俺は頭をあげることなんてできない」
「い、いやその、さっきから何度も聞いてるんだけど、どうしてそうなるの? ハルちゃんが謝る必要なんて少しもないのに」
「だって、俺のせいでユキ姉の気分が悪くなったから・・・」
「いや、気分が良くないのはハルちゃんのせいじゃなくて私自身の問題だよ? その、なんていうか、ちょっと考えなしだったなって思って・・・と、とにかくハルちゃん、頭を上げて?」
「・・・・・・その、考えなしっていうのは何が?」
「そ、それはちょっと言えないんだけど・・・」
「言えないってことはやっぱり間接的にでも俺が関わってる可能性があるんだよね? だったらやっぱり俺は頭を上げれないよ。ユキ姉に嫌われたくないし、嫌な思いをさせたことを謝りたい。ユキ姉、話せないのなら話さないままでいい。だったらどうか、気分が晴れるまで、俺を踏みつけるでも罵るでも好きにしてくれ。だから、だからどうか、俺のことを嫌わないでくれ! 許してくれ!」
・・・い、いや、なんでハルちゃんこんなに必死になって・・・。
落ち込んでたのは本当に私自身の問題で、ハルちゃんのせいなんかじゃこれっぽっちもなかったのに。
・・・はあ。でももうあれだな。このまま落ち込んでたら、ハルちゃんはずっと頭を上げてくれないんだよね?
ほ、本当は土下座して謝りたいのはこっちの方なのに、そんなことをすればハルちゃんは永遠に頭を上げてくらない気がする。
なんだかんだ、ハルちゃんが無茶苦茶言うせいで、落ち込んでいた気分というのはだいぶ吹っ飛んでしまっている。
まだちょっと罪悪感は取れない。だけどこれは私の問題で、ハルちゃんのせいでは決してない。
とりあえずまずハルちゃんに頭を上げてもらおう。話はそれからだ。
―# ハルタside #―
女性に土下座で謝る。
俺が出した結論はこれだった。
いや、結論というよりは苦肉の策だろうか。
怒っているにしても嫌悪感にしても、何か感情を燃え上がらせている女性に対しての対処手段としてこれをするのがいいという正解は存在しない。
そう、正解なんてないのだ。
特にこんな感じに相手が何に対して感情を高ぶらせているのかわからない状況では、正解を見つけるなんて不可能に近いだろう。
はっきり言う。
男には女性の気持ちなんてわからない。
いや、これはちょっと違うな。はっきり言って、人間は他人を完全に理解できることはありえないのだ。
人間同士、話したり共に過ごすことである程度の共感はできるが、あくまである程度であって意思疎通が完璧に行えるかといえばそれは否だ。
親しい間柄であっても秘密の1つや2つはあったりして当たり前だし、秘密じゃなくったって、例えば他人がお昼に食べたい物、なんてのを毎回正確に当てることはできないだろう。
相手が怒っていることや悲しんでいること、疲れていることだって、ちょっとこっちが気を抜いていれば気づかないことだってある。
それに社会の中で生きていく上で、人間は誰か一人のことだけ考えて生きるなんてのは無理だ。
仕事のこと、将来のこと、お金のこと、趣味のこと、楽しみにしているイベントや祭りのこと、憂鬱な締め切りや試験のこと、細かく数えればキリがないくらいに考えることはたくさんある。
逆にそれらの考えるべき、あるいは考えたいことを全部を忘れて休息したいタイミングもある。
そんな中で常に家族や想い人の女性のことを考え続けられるかと言われたら正直無理だ。
それを常に第一に考えれるかと言う問でさえ是と答えれるか怪しい。
タイミングや内容によっては第一にできない時だってある。
昔なじみやら取引先の人とたまたま会って、話が盛り上がったから夕食を作ってもらってるとわかっていて食べて帰ってしまうとか。
付き合いだから仕方ないと言うのは確かにこちらの都合だが、やはり全ての事柄を自分の彼女を第一でという風にでは回らないことも多いのだ。
まあ、ここらへんは結構言い訳も多いだろうけども。
やはり人間気心しれてくると、相手に対してこれくらいは許してほしいという甘えも出てくる。
恋人やら結婚している女性が怒りを爆発させるときというのは、こういう甘えのドが過ぎてきたにも起こりやすいからな。
最初は罪悪感を持って謝っていたことが、いつの間にか責められなくなったから当たり前になって、いつのまにか積み重ねていたなんてことの多いのかもしれない。
まあともかく、何が言いたいかと言えば男は自分が女性を怒らせている、あるいは失望させている理由を自然と自覚できることなんてほぼないのだ。
気をつけてみることで、今日は機嫌がいい悪い何かの癖とかを覚えて対処することは可能だろう。
喜んでいる時や悲しんでいる時の違いを感じ取ることも長く付き合ってればできるようになるかもしれない。
しかしその理由やら、原因やらは聞き出したり調べたりしないとわからないし、毎回聞き出したり調べたりできるかといえばその余裕がある時ない時というのはかならずある。
本当に些細な落ち込みのときとかもあるからな。それを仰々しく毎度聞くというのは大変であるし、相手によっては逆にストレスに感じるかもしれないからな。
とにかく、そういうのが積み重なって大爆発してしまうタイミング。
今回のようにわかりやすく何か傷つけたわけでない感情の爆発の原因を見つけるというのは至難だ。
爆発した遠因としては放課後のサツキとのやり取りが大きいのだろうが、ここでそれを言及するのは違う。
サツキとのことは確かに爆発するために必要なストレスを急激に溜めたであろうが、今の爆発がそれきっかけで起こったというわけではないだろう。
流石に放課後のことを今のタイミングでと言うのはめちゃくちゃだ。
人はストレスが耐えきれなくなったタイミングで爆発する。許容値を超えて今ユキ姉が爆発した原因は別のストレスが原因の可能性も十分ありえる。
爆発した理由に大きく関わるストレスを知っていたとしても、それだけを原因のように決めつけてそのことを対処しようとするのはダメなのだ。
とにかくそんな感じで、俺にはユキ姉の詳細な気持ちなんてわからない。いま、ユキ姉の感情が爆発している。それが分かっただけ、正直マシなのだ。
・・・こういうふうに異常に無口になるとか、明らかに怒気を放っていると言った具合に女性がわかりやすく感情を爆発させてくれていたらまだいい方だ。
サツキという爆発しそうなきっかけがわかりやすくて警戒しやすかったのもありがたい。中には顔色一つ変えず、口調も変わらず、きっかけも曖昧なタイミングで急に内心バリバリに怒りを爆発させる人もいるからな・・・。
本人の中では確固たる怒りの理由があるのだろうが、それを気づかせてもくれないのなら、こちらは治しようも謝罪のしようもない。
あるいは相手が治すことも謝罪することも望んでいないということなのかもしれないが・・・。
そうなったタイミングでは、もうすでに縁を切ることを決められていることすらあるみたいだからな。
本当に人付き合いというのは難しいものだ・・・。
話が脱線した。
俺がなぜ土下座という手段を選んだかという話に戻ろう。
俺が土下座をした理由、それは『誠意』を見せるためにほかならない。
こちらは本気で反省している。ユキ姉を怒らせるつもりは毛頭なかったというそういう姿だ。
その上で、俺はなぜユキ姉が気を悪くしているのかわからないということも正直に最初に言った。
これも誠意だ。当てずっぽうでユキ姉が気を悪くしている理由を探ってみるとか、わかっているフリをしつつ相手の言葉を引き出してヒントを探ることもできただろう。
しかしそれらの小細工というのはかなりうまくやらなければ相手にはバレてしまうものだ。
特に女性というのは男性よりも勘がきく人間が多い。小細工がバレれば待っているのはさらなる激情だ。
取り返しの付かないほどの怒りを買うリスクを負うよりは、多少感情に油を注ぐ覚悟をしてでも正直になぜかはわかっていないと答える方がいい。
自分になにか原因があって相手が感情を爆発させているのだけは確かなのだ。
そのことに対し、詳しい詳細は置いておいてまず謝る。そういう誠意だ。
正直だいぶ賭けである。
こういうのは『土下座なんて軽々しくやっちゃうなんてプライドがない』とか『急にわけの分からない行動をとる変人』とか『理由もわからずにとりあえず謝ろうとしているだけなんてムカつく』だとか、更に相手の感情を逆なでしてしまう可能性も大いにある。
嫌悪感や怒りがどの程度まで増幅されてしまっているのかにもよるのだろうが、ある一定以上に感情が高ぶっていた場合、こちらの話のすべてが全部憎らしく見えることすらある。
まだ相手がいくらか冷静な部分があるとか、こちらに対する情のようなものがまだ消えてないことが前提として必要になってくるように思える。
とりあえず、今回は土下座はユキ姉の感情を逆なでするような結果にはならなかったようだ。
慌ててくれているということは俺の誠意もきちんと感じてくれているということだろう。
・・・だけど、これでもうユキ姉の前で最後の手段として土下座をすることはしばらくできないだろうな。
あまり多用すればやはり土下座をすれば許されると思っていないかと思われることになりかねない。
それ以前にもうこんなふうに相手の感情を過度に高ぶらせるようなことがないことが一番だけどな。
さて、ユキ姉は土下座に対して『俺に謝る必要はない』とか『原因は私にある』みたいな言葉を出した。
それに対してすぐに顔を上げてはいけない。
なぜなら現時点でユキ姉が感情を落ち着かせたとは確認できていないからだ。
声色や仕草は落ち着いて見える。表情は見ることができないが、もしかすれば表情も落ち着いているのかもしれない。
しかしそれでも油断してはいけないのがコミュニケーションだ。
人間、歳を重ねると多かれ少なかれ内心の感情を表情や行動に出さないようにするすべを学ぶ。
中には下手な人ももちろんいるが、程度の差はあれど学校や社会で他人に合わせるために感情を表に出さないようにするのは誰もが自然に学ぶのだ。
特に女性は例の男女の脳の作りの違いからも感情の生き物とよばれることもあるくらいに、そういう感情の細微に敏感だ。
女性同士のやり取りでそういう感情の読み合いを偽装するために身につけている感情の隠し方は、男が簡単に見抜けるほど容易いものではない。
つまり何が言いたいかといえば、表向き冷静を取り戻し、もはや済んだ話のように振る舞っていたとしても、それは偽装の可能性が十二分にあるのだ。
なぜそんなことをするかといえば、こちらを試すためだったり、話を早く終わらせてしまおうという意図があったりするからだろう。
内心まだ怒っているのを隠して優しい言葉を吐いたときに相手が取る態度によって今後の付き合い方を考えるつもりだったりだとか、正直もはや相手のことがどうでも良くなりかけてるので、この場だけ話を合わせて話を早く終わらせて今後は避けることを決めてたりとか、そういう可能性は多々あるわけだ。
無論本気で相手が発言している場合もある。
しかしどちらにしたところで、一度下げた頭を簡単に上げるのは誠意が足りないうえに土下座というものを軽く扱いすぎている。
土下座というのは本当に切羽詰まった最後の手段なのだ。
地面に頭をこすりつけてでも相手に許してもらいたい、頼みたいことがあるときにする日本における最上級のスタイル。
いや、下手に出るという意味では最下級のスタイルだろうか。
もはやなりふり構わず頭を下げる以外に方法がないというときに使う物だ。
せめて相手に自分の本気が伝わったのだと確信が持てるまでは頭を上げるべきではない。
・・・実際土下座に効果があるかどうかといえばそれは未知数だ。
相手が誠意を大事に生きている人であるのならある程度の効果はあるのかもしれない。
その日の気分的なものでも効果の差もあるだろう。
人によっては全く効果がないことだってありうる。
しかし自分にはこれしか方法がない。
だからこそ精一杯頭を下げて、自分がどうしたいか、相手にどうしてほしいかをきっちり伝えた方がいいと俺は思っている。
だから俺は頭を下げたまま、ユキ姉に嫌われたくないのだということをはっきり告げた。
一番の思いはそれなのだ。
俺はユキ姉に嫌われたくない。
その一心のためになら地面に頭などいくらでも擦り付けられる。
果たしてこの思いは通じたのだろうか・・・。
「・・・ハルちゃんって、ほ、ホントに思い込み激しいところあるよね」
地面にこすり続けていた頭の上からそんな声がかかった。
その後に頭に温かい感触が触れた。
・・・ユキ姉の手だ。
ユキ姉はどうやら俺のそばに座って、俺の頭をなでているらしい。
「ユキ姉?」
「は、ハルちゃん、私もそろそろ困っちゃうから頭を上げてくれる? ちゃんと向き合ってお話しよう? こんな風にどっちかの頭が高いとか低い状態でお話したくないよ。わ、私達の関係ってそういうのじゃないでしょ?」
「・・・ユキ姉はもう気分は晴れたの?」
「い、今はいつまで経ってもハルちゃんが頭を上げてくれないことのほうに落ち込みそうかな」
「・・・・・・」
・・・流石にこれは頭を上げるべきなのだろうか。
いやしかし、未だにユキ姉の心の中に確信が・・・。
「ほら、早く頭を上げないと無理やり持ち上げちゃうよ?」
頭に載せられた手に少し力がこもる。
・・・今のところ痛くはないレベルだが、ユキ姉は素手で熊を倒すほどの力の持ち主だ。
最悪軽く首が取れる。
ここは言葉に従って頭を上げるべきだろう。
断じて、断じてこれは恐怖に負けて頭を上げたわけではない。
ゆ、ユキ姉の声だいぶ優しいし、撫でられた手も暖かかったし、き、きちんと俺の思いは通じたのだという確信があって頭を上げるのだ。
誠意とかなんとか大層な言葉を並べておいて、暴力の前にやすやすと屈したわけでは断じてない。断じてないのだ。
俺はゆっくりと地面につけていた頭を上げた。
「うん、ちゃ、ちゃんと頭を上げたね。いい子いい子」
そう言いながらユキ姉が俺の頭に載せていた手で再度俺の頭をナデナデする。
というか、さっきからずっとナデナデし続けている。
この歳になると流石に撫でられるというのは恥ずかしいんだが・・・。
「・・・・・・」
言葉で訴えるのもどうかと思ったので目線だけでそれをユキ姉に訴えてみる。
「・・・な、なんだかこうやってハルちゃんを撫でるのすごい久しぶりだよね。私よりハルちゃんが小さかった時期にはよく撫でてたよね。もっとお姉ちゃんしたかったのに、中学くらいで背を抜かされた上にどんどんでかくなっちゃったから、撫でられなくなったんだよね。ひ、久々だしもちょっとナデナデさせて?」
「・・・・・・」
そんな風に言われたら断れない。
確かに俺がユキ姉より小さいときとか、まだ手が届く位置のときは何かにつけてよく頭を撫でられていた覚えがある。
今はユキ姉の身長が低めなのことも相まって、立ってるとジャンプしなきゃ届かない位置に俺の頭はあるからな。
正直子供扱いされているようで恥ずかしいが、ユキ姉の思いを尊重しよう。
俺は黙って頭を差し出し続ける。
「ハルちゃん。い、色々変に考え過ぎだよ。私がハルちゃんを嫌うとか、そんな簡単に嫌いになんてなるわけないよ」
頭を撫で続けながら、ユキ姉が優しくそう語りかけてきた。
「・・・なんで?」
「な、なんでって、私達とハルちゃんはもうずっと家族ぐるみで幼なじみしてたんだよ? もう半分以上家族みたいなものなのに、今更些細なことで急に嫌いになんてならないよ。例えば逆に聞くけど、ハルちゃんは私が何をしたら私の事嫌いになる?」
「・・・想像できないや」
少し考えてみたが、本当によほどのことでもない限り、嫌いになるというのはなさそうな気がする。
そしてそのよほどのことというのをやるユキ姉と言うのも想像できなかった。
そのくらい付き合いが長いし、ユキ姉の人となりも熟知してた。
「私もハルちゃんのこと嫌いになるのは想像できないよ。多少怒っちゃうことはあるかもしれないけど、もう知らないってくらいまで嫌っちゃうことは絶対にないと思える。100パーセント」
「・・・・・・」
なんだか照れくさくて顔をそむけたかったが、頭を撫でられるのに差し出しているのでそむけられない。
顔、赤くなってないだろうか。
なってたとしたらめちゃくちゃ恥ずかしい。
「だからハルちゃん、安心して? 謝る必要なんか本当にない。今、私本当にハルちゃんに怒ってたりとかそういうのないから」
・・・どうやら、俺は本気で思い違いをしていたらしい。
ユキ姉は俺に何かしらマジドン引きして、嫌う寸前だと思いこんでいたが、この感じ、ホントにそんなことはなさそうだ。
「ユキ姉ごめん。なんか俺、変な思い違いしてたかも」
「ふふ、だ、だから謝らないでって言ってるのに・・・私もごめんね。なんか色々急ぎすぎたみたい。だからハルちゃんを困らせちゃったんだよね?」
「急ぎすぎ? なんの話?」
「そ、それはないしょ」
「ここまで話したんだから教えてよ」
「そ、それ以上言及したらハルちゃんのこと嫌いになるよ」
「・・・さ、さっきと話が違う!」
「ふふ、じょ、冗談だよ。でも今は内緒。いつか絶対話すから、今は聞かないでくれると嬉しいかな」
「すごい気になるんだけど・・・いつかってどのくらい?」
「た、たぶんそう遠くないうち・・・かな?」
そう言ってユキ姉がくてんと首をかしげる。
やっぱユキ姉はかわいいな。
ホント色々癒やされる。
ユキ姉が何を内緒にしているのかは気になるけど、流石にこれ以上追求するのはよくないだろう。
「わかった。待ってるよ」
「ありがとう・・・はぁ。な、なんか、ハルちゃんの頭撫でながら色々喋ってたら私も焦る必要ないかなって思えてきた。そうだよね、急ぎ過ぎは良くないよね」
「・・・よくわからないけど、ユキ姉のペースでいいんじゃない?」
「そ、そうだよね・・・ありがとう」
そう言ってようやくユキ姉が俺の頭から手を離した。
・・・離されたら離されたで弱冠名残惜しいような気もしてしまったが、流石にそれは恥ずかしかったので心の奥に押しとどめた。
「な、なんか色々安心したら眠くなってきちゃった」
「へっ?」
ユキ姉のその言葉に、俺は思い出したように時計を見た。
22:55
ヤバイ!
「ふあああぁぁぁ・・・」
アクビが出てしまった!
アクビはユキ姉のおやすみ準備モード開始の合図だ。
準備モードではユキ姉の就寝時間の23時に快適な睡眠をスタートするために寝床の確保や環境整備をほぼ無意識に開始し始める。
ユキ姉が俺の目の前でおもむろにキグルミの頭を脱ぎだす。
しかしそれは俺を意識して外したわけではない。
頭をつけたままでは寝苦しいからだ。
準備モードも暴走状態時と同じくユキ姉はほぼ無意識で行動しており、起きたときには記憶がない。
ただただ快適で最速な睡眠のための準備をする状態なのだ。
こうなってしまってはもはや俺では止められない。
無理に部屋を移動させようとか、声を出して正気に戻そうとすれば、騒音排除のために暴走モードに移行して俺は騒音発生源として駆除されてしまう。
く、くそう。こうなってはもはや俺の部屋はユキ姉に差し出すしかないだろう。
危惧していたのに色々夢中になって忘れていた。
本人も目覚めたときに気にするだろうからなんとか自分の寝室に帰すべきだったんだが、今の状態からではどうしようもない。
出そうになるため息を抑えつつ、俺は足音をたてないように自室から忍び出て、ユキ姉が俺のベッドに潜り込んだタイミングで電気を消した。
・・・まあ、時間前にきちんとお互い誤解とかとけて良かったと思うべきか。
誤解がとけないまま時間切れだったら気まずかっただろうからな。
さて、俺もなんだかんだ明日も早いんだ。
リビングのソファを寝れるように整えないとな・・・・・・。
もうちょっと苦しい状況が続きそうなのでしばらくのんびり更新かもしれません。




