19・じじょの作戦
ギリギリ宣言通り・・・いや、遅くなってすいません。
結局考えていても何も決められなかった俺は、起き上がってまたパソコンでレシピ確認という気分にもなれず、寝転がったままスマホで動画の視聴を始めた。
見る のはもっぱら料理系の動画が多い。
凄い料理をする人の動画を見て包丁さばきなんかの細かなテクニックを盗むためだったり、ユキ姉が釣ってきたり取ってきたりする動物や魚をキチンとさばくための方法を覚えたり確認したりするためだ。
やっぱり、好きなことですごい人の動きを見ているのは楽しい。
俺はまだまだ成長するためにできることがあるのだという気付きにもつながるし、いずれこういう食材や機材も扱ってみたいという思いも抱けてるしな。
・・・だが、今日はそんな動画を見ていても今ひとつ楽しくない。
喋っていた内容が頭に入ってこなくて戻したのに、戻った時には別のことを考えていてやっぱり頭にはいってってない。
そんなことを何回か繰り返しているうちに、やはり今日はそういう気分にはならないのだとスマホの画面を消して充電器に戻した。
俺は一つ『はあ』と深くため息を吐いた。
何をやっても気乗りしないし、いっその事少し早いが寝てしまおうかと一旦寝床を整えるために起き上がる。
・・・あれ? ベッドに枕がない。どこに行った?
『残念でしたー。今朝のアプリはもう消しちゃってるよ? 流石に使うって言われて残しておくわけ無いじゃん』
スマホから声が聞こえた。
「おう、ナツ・・・アプリ?」
はて、アプリ? 何の話だ? ・・・なんかそんな話をした気がしないでもないが、思い出せない。
『恥ずかしいからってしらばっくれない。というかハルタどういう趣味してるの。おばさんが料理してる動画に私をアイコラした奴が見たかったって、性癖がゆがんでるってレベルじゃないよ?』
「さっきからお前は一体何の話をしてるんだ? いきなり性癖どうこう言われても何のことだかさっぱりピンとこないんだが」
『・・・いや、今朝ハルタが私をオ〇〇ットにするっていったじゃん?』
「・・・・・・・・・・・・はっ!?」
いきなり何を言い出すんだコイツは。
そんなことを言った記憶は一切ない。
というかコイツ、今気づいたけどなんでバニーガールのコスプレなんてしてるんだ?
『とぼけないでよ! 言ったでしょ! 私のアイコラアプリ使って私をオ〇〇ットにするって!』
「・・・・・・お前を山猫にする意味がわからないんだが」
『オセロットじゃないよ、オナ〇〇トだよ!』
「人が気を使って勘違いってことで話を終わらせようとしたのにP音の位置ずらしてんじゃねえ! 何言ってるか確定しちゃうじゃねえか!」
ナツの音声はリアルタイム編集アプリで危険発言にP音が入るようになってる。
こういう無駄に洗練された無駄のない技術の無駄遣いアプリをスマホに勝手に大量に導入しやがるから、スマホの寿命がマッハでなくなるんだ。
いい加減自重って言葉を覚えてほしい。
・・・というか、コイツはマジにさっきから何を言ってやがるんだ?
アイコラがどうとか・・・んっ? なんか、聞き覚えがある気がしてきたな。
・・・・・・あっ。そういえばユキ姉が襲撃してくる前に、そんな話をしていた気がする。
確かナツがまたアホみたいな無駄アプリを作って、それの話で俺が・・・思い出した。
たしかに俺、コイツのアイコラ写真を使うって話してたわ。
確かアルバムにナツの写真がないから使わせてもらおうと思ってたんだ。
だけどそれを言う前にユキ姉が突入してきて・・・。
うん、思い出してきた。そういえばコイツ盛大に勘違いしてたな。エロいことに使う以外のことを思いついていなかったような発言を連発してた。
だけどその話がなんでこんな事態になってるんだ? わけがわからないんだが・・・。
・・・どう頭を巡らせても、ナツがこんな行動に走った理由が想像がつかない。
想像がつかないが、その話とは別にナツに言いたいことが一つだけある。
・・・今ナツは、女性としてやってはいけないことをしている。
本人にその自覚はないのだろう。自覚がないからこそ、これは誰かが指摘しなければならない。
今、それをするべきなのも、できるのも幼馴染である俺だけだ。
もしかすれば、男にそんなことを指摘されてしまうのは、女であるナツには苦痛だし、余計なお世話だと思われるのかもしれない。
しかし、誰かが言わなきゃダメなのだ。
他の誰かがやってくれる保証がないのなら、ここは俺がガツンと言ってやるしかないだろう。
「ナツ、ちょっと今からお説教をする。そこに正座しろ」
『・・・お説教?』
「ああ。お前は今、やってはいけないことをやっている。自分の格好を顧みればそれはわかるんじゃないか?」
『格好・・・もしかして、このバニーガールのこと?』
「ああ、そうだ。やっていいことと悪いことがあるだろ? お前にはその区別がつかないのか?」
『・・・ハルタもしかして怒ってる?』
「ああ。ちょっとだけな」
『・・・何を怒ってるか聞いていい?』
「わからないのか?」
『うんごめん。わからない』
「わかった。それじゃあ説明してやる・・・お前はもっと自分を大切にしろ!」
『・・・ハルタ・・・もしかしてその・・・私の事し・・・』
「そんな縦長のコーヒーの缶みたいな貧相な体型でバニーガールなんてしてんじゃねぇ! 無理やり着せられてる感とか衣装に着られてる感が出て、エロさよりもなんか先にそんな格好させられて可愛そうって思っちゃうわ! せめてもう少し胸か尻をデカくしてから着ろ!」
『・・・・・・死ねええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』
「おま、人が親切に指摘してやってるのに死ねってなんだ死ねって!」
『それは親切じゃない! デリカシーがないだけ! こっちが決死の覚悟で来てるバニーガールを貧相で可愛そうな気分になるから着るなって! 死ね! 死んでしまえ! 50回は死ねえ!』
「50回って・・・もしかして、50センチがお前のバストのトップのサイズか?」
『そんなわけあるかぁ! そんなに細かったら逆に凹んでるから! マジで死ね! 今死ね! 爆発四散しろ!』
「そうか、凹んではなかったのか」
『それ以上言ったら死ねじゃなく、殺すから!』
「まあ、俺はどっちかといえばバニーガールよりナース服の方が好きだぞ。あれなら貧相なお前でも大丈夫だ。バニーガールは露出とかでエロだけど、ナース服はシチュエーションだからな。人を選ばない」
『中途半端に予想通りだけど、ここから予定通りに進める気にならないからぁ! ・・・想定の五百倍コメントが酷くて、もうこっちの計画とか全部おじゃんだよ!』
「計画・・・何の計画か知らんがとりあえず言っておくけど、俺が朝お前の写真使うって言ってたのはお前のアプリをアルバム用に使うって意味だぞ。さっきからお前が言ってるような使い方じゃない」
『・・・・・・へっ?』
「お前引きこもりだからアルバムにお前の写真少ないんだよ。あったとしても端末の画面にチラッと写ってるとかそんなだし。だからアルバムにあのアイコラアプリで作ったやつ足しとこうと思ったんだよ」
『ちょっ、それはそれでまた酷い! アルバムが私だけ偽物の写真になっちゃうじゃん! それに何の意味があるの!』
「いや、だからお前と一緒に偽の写真作ろうと思ってたんだよ。そしたら写真は偽物だけどさ、お前と一緒に写真を作ったって思い出は残るだろ? それっぽく一緒に並べてるけど、実は偽物。でもそれを一緒に作った思い出は本物。な? 楽しそうじゃないか?」
『・・・・・・』
「ダメか?」
『さっきのバニーガール批判でプラマイで若干マイナスかな。流石にやっぱりさっきのは酷い』
「・・・それは悪かった。言い過ぎた」
『・・・ハルタは私を〇ナペッ〇にはしないの?』
「だからP音ずらすな! もし使うとしてもそんなの言うわけ無いだろうが。馬鹿らしい」
『私は使うほど魅力ない?』
「・・・もしお前を使うとすれば、魅力があるから使うんじゃなくて、好きだから使う。だから魅力どうこうなんて答えにくいこと聞くなっての。使うか使わないかも絶対答えないからな!」
『・・・そっか』
俺がそう言うとナツが笑った。
「あ、今のいい笑顔。バニーガールもまあ面白くはあるし、スクショ取ってアルバムに入れていいか?」
『・・・とかいって今晩使ったりして』
「いい加減にしろ! で、取っていいのか?」
『いいよ。恥ずかしがり屋の幼馴染にオカズを提供してあげよう!』
「・・・ち、撮るぞ!」
問答無用でスクショを撮る。
「やっぱなかなか面白いな。似合ってなさ加減が」
『うるさい! じゃ、私そろそろ戻るよ』
「・・・なんか作戦とか言ってたのはいいのか?」
『・・・今日はいい。また今度にする』
「・・・そっか。ありがとな」
『ありがとう?』
「ああ。なんか色々悩んでたんだけど、お前と話してたらそれがちょっとバカバカしくなったわ。だからありがとう」
『ふーん。よくわかんないけど、存分に感謝したまえ! じゃ、おやすみ』
「おう、おやすみ」
スマホからナツが消える。
・・・そうだな、悩んでたけど、やっぱなるようになるだろう。
すぐに関係が消えてなくなるわけでもない。
話せてよかった。
コンコン。
俺がそんなことを思っていると、部屋のドアを叩く音がした。
只今実家に帰省してきています。
予定がどんな感じになるかわからないので正月前後は毎日更新できるか微妙かもしれません。
更新できなくても、生暖かい目で見ていただけると助かります。
あと、サブタイつけてみました。どんな感じですかね? 読み返しが少しでもしやすくなったとかなら幸いです。