14・てんこうせいの楽追心
そろそろサブタイトル数字だけじゃなく読み返しように何かつけたいんですが、何も思いつきません。
「怒るなよ。これは君のためにやっていることでもある」
手を払い除けた俺に対して、サツキはそう言った。
「俺のためだと?」
「ああ、正直言ってな、今は君と結婚する気は殆どなくなっているんだ」
「・・・・・・はっ?」
昨日の今日どころか今日の今日だぞ?
気が変わるにしても早すぎるというか、これじゃ本当に俺は道化じゃないか。
「いや、朝に話を聞いた感じだと、専業主夫を目指しているが相手がいない。みたいに聞こえたんだ。というか、実際そう言ってただろ? しかし蓋を開けてみたら、出るわ出るわ君のことが好きそうな幼馴染が三人も。広告詐欺にあった気分だ。ネット通販をレビューを見ずに買ったあとに使ってみて違和感を覚えてあとからレビューを見て落ち込む気分とでもいうのかな。いい商品なのにちょっとあらが目立つ未完成品を買った気分の、あの何とも言えないもやもや感。やっぱり買い物はできれば実際手にとってやりたいよな。まあ、実店舗はネットほど品ぞろえが良くないけども」
「だから返品するまでのクーリングオフ期間中に遊び倒そうとしているわけか?」
「半分正解だがそれだけが理由じゃない」
「半分正解の時点で俺としてはお前との付き合いを辞めたいんだが」
少々、というかかなり毒舌な部分はあったが、叶えたいという夢も面白いし・・・男の格好をしてるが、まあ、こんな美形に結婚したいと言われるのは正直悪い気分ではなかった。
だが、幼馴染たちにあれ程までに悪感情をもたせるとなると話は別だ。
彼女らはもはや俺の家族みたいなものだ。あそこまで彼女らを怒らせるというのは黙っていられない。
それも遊び感覚でやっているとなればなおさらだろう。
「そういうな。正直言ってな、僕も君に対して怒りを覚えている。あんな可愛い幼馴染が三人もいて、なんで相手が決まってないみたいなことを言うんだとな。せめて売約済みと言ってくれてたらプロポーズなんてしなかったのに。だが、プロポーズしてしまった上にそれをその幼馴染の一人に見られてしまったとなれば、僕も引けなくなるじゃないか」
「・・・あのな、俺が相手が決まってないみたいな話をしたのはお前が男だと思いこんでいたからってのもデカイからな? もし女だってわかってたら、空腹で倒れていた相手にああいう言い方するかよ。それじゃ倒れていたのを助けたんだから結婚しろって言っているみたいじゃないか」
「見た目で判断するからそうなるんじゃないか。相手が自分の性別を自分で宣言するまではそういう発言は控えるべきだ」
「初めて会っている人たちの性別をいちいち確認してたら世の中円滑に進まなくなるわ! お前みたいなレアケースを常に頭に入れて思考しろってのも気疲れするしな。と言うか、お前のほうが少し歩み寄れよ。そんな完全に男にしか見えない格好するんじゃなくて、もうちょっと女って分かるヒントがあってもいいだろう? イケジェンアイドルってのは女のままでやるものだってお前も定義してるんだから」
「バカ言え、そんなことしたら実は女ですって言った時のインパクトが薄くなるだろうが! あの僕は女ですって言った時に皆が見せるぽかんとしたマヌケヅラを見るのは快感なんだ。あれは辞められない!」
「お前マジに人生を楽しもうとしすぎだろう! どんだけ欲深いんだ!」
神様はどうしてこんなのにこんな美形顔を与えたんだ。
子どもがスポーツカーのハンドル握ってるみたいなものだ。ルールとか周りの迷惑とか考えずにはしゃぎ遊び回ってやがる。
こうなってくるとヤバくなったファンというのもコイツの被害者なんじゃなかろうかと思えてくる。
・・・まあ、さすがに見ても会ってもない人間についてとやかくいうのはアレか。
「まあ、僕のことは置いておいて、君のことだ。君のことはいい物件だと思うが、おまけであんなにも君のことを思っていそうな幼馴染がついてくるとなると正直面倒さのほうが目立つ。真面目に争奪戦をすれば負ける気はしないが、僕の目的は君との結婚じゃない。君との結婚はあくまで夢のための近道。つまりは手段だ。手段と目的が逆転したら話がおかしくなる」
「じゃあ、なんで幼なじみたちの前であんなに煽ってみせたり、プロポーズのことを声高に宣言したんだよ。諦めたんなら諦めたって宣言すればいいじゃねえか。俺が勘違いさせたからって幼馴染たちまで巻き込んでおもちゃにしようってんなら俺も流石にキレるぞ」
「まあ待て話を聞け。それはちょっとした恩返しのつもりだ」
「恩返し?」
「ああ。君には空腹のところを助けてもらったという恩があるからな。最初はその恩を結婚して君の夢を叶えてやることで返そうと思ってたんだが、実のところ屋上で一人目の幼馴染にそれを止められた時点で気が変わっていた」
「ナツの時点でかよ」
「ああ。彼女は明らかに君のことが好きみたいだったからな。無論最初はスマホをハッキングして盗み聞きしていたなんて聞いたからストーカーの可能性を疑ったが、君に聞いてみれば違うというだろう? ならば僕が当て馬になって背中を押せば素直になれるかと思ったんだ」
「・・・当て馬」
「だけど、まあ電池切れっていうイレギュラーがあったとはいえ、結果として彼女は君との関係変更をしなかっただろう? あれだけお膳立てしたんだ。好きなら恋人になるくらいの宣言をしてもいいようなものなのに、彼女はそれをしなかった。だから僕もいらないんなら貰おうかくらいの気持ちで君にプロポーズを続行したわけだ」
「人を在庫商品扱いして気軽にプロポーズしてんじゃねえ」
「だけど、教室で二人目の幼馴染に会って少しだけ謎が解けてきて、更に放課後の三人目のときに彼女らが姉妹と聞いて得心がいった。なるほど彼女らはお互いの姉妹に遠慮して関係改善をしないのだとな」
「・・・どういうことだ?」
「わからないのかい? 彼女ら三人は全員が君のことを好きだからお互いに遠慮しあってるんだ」
「・・・・・・」
「君のことが好きだというのが信じられないかい? だがそれは明らかだ。彼女たちの機嫌が悪くなったり、傷ついたりした時というのは、僕が君を粗末に扱ったり、僕のものにしようとしたときだ。人は自分の大事なものを粗末に扱われると怒るし、取られそうになると傷つく。それが小学生でもわかりそうなレベルで見て取れた。というかまあ、クラスメイト達もそう言ってたしな。君達のラブコメはこの学校の娯楽の一つらしい、被害に巻き込まれさえしなければ見ていて面白いとな」
「・・・そこまでわかっててなんでお前は状況を引っ掻き回したんだ? 引くつもりならお前がやったことは害悪でしかないだろう」
「逆だ。寧ろ僕じゃなきゃ状況を引っ掻き回せなかった。姉妹同士で遠慮しあってる状況を進めるためには、誰かが一石投じる必要がある。姉妹同士なら遠慮しても、初めて会った他人から介入されれば彼女たちも本気になれるだろう? さっきも言ったが僕は当て馬になるつもりで彼女らを煽った」
「俺にはお前は自分が楽しむために状況をかき回していたように思えたぞ?」
「それはそうだろう。それも事実だからな」
「おい!」
「だが、彼女らをその気にさせるために当て馬になろうとしていたのも事実だ。人の行動理由は一つだけとは限らない。僕はその中に好奇心や楽追心が含まれるというだけだ」
「・・・楽追心ってなんだ? 初めて聞くけど」
「楽しいことだけを追い求める気持ちだ。割とそういう事する人多いのにうまい言葉が見つからないからな。今作った。もしかしたらそういう言葉あるのかもしれないけど探すの面倒だったってのもある」
「お前はイケジェンと言い、気軽に新しい日本語作ろうとしてんじゃねえ! 弄ばれる日本語の気持ちになれ!」
「所詮言葉なんてコミュニケーションのための道具だろう? 正しい使い方とか正しい日本語とかよく言うけど、結局使う人間がどう使いたいかのほうが重要だろう。無論公式の場での言葉の節度は必要だと思うけど、普段使いや娯楽の中での言葉の使い方に正しいも何もないだろう。あるのは何を求めてるか、何を伝えたいかだ。僕の場合はそれこそ楽追心だ。言葉をおもちゃにして弄びたい!」
「言ってることそんなに間違ってない気がするけどお前の場合私欲にまみれてるせいで認めたくねえ。流行らせてたまるかってなるわ」
「別にかまわないぞ? それはそれでネタになって楽しいからな」
「最強か貴様!」
なんでもかんでも楽しもうとしやがる。
そして実際楽しみまくってやがる。付き合ってるこっちは滅茶苦茶疲れる。
「話がそれているから戻すけど、まあ、僕が彼女ら三姉妹を煽ったのは君との関係をはっきりしたものにさせるためだ。君だって実のところ、誰かと恋人に、もしくは三人全員ハーレムに囲ったりしたいんだろ?」
「・・・ハーレムは、さすがにねえよ」
一瞬考える瞬間がなくはないが、流石にそれは不誠実だ。
「そうなのか? 僕はイケジェンなことを活かして男女混合ハーレムとか作るのも楽しいんじゃないかと思ってるんだけどね。イケジェンハーレム王に僕はなる!」
「楽追心で墜落してしまえ!」
「まあ、さすがにそれは冗談として、関係を変えるためには僕が引っ掻き回すのが結構効果的だと思うんだ。このまま放置していても変わる可能性ももちろんあるんだけど、それだと時間がかかりそうだ。だから弁当の恩返し兼僕の楽追心を満たす意味、それにこれだけ大々的に目立って男に結婚を申し込めば、イケジェンが女の子であるままでやってるものだってことの宣伝にもなる。一石三鳥だ。どうだい? 君にも悪くない話だろう?」
「・・・引っ掻き回したあげく、俺と三姉妹の関係が壊れる可能性もあるだろうが。そうなったらどうするんだ」
「その時は君は良物件なんだから、責任持って僕が引き取るよ。僕の夢に役立ちそうだと思うのは本当のところだしね」
「・・・・・・人の人生で思う存分楽しみやがって。おもちゃにされている気分だ」
「それでどうする? 僕はもう引っ掻き回すのをやめた方がいいかい? まあ正直な話、もうすでに結構引っ掻き回しちゃったし、事は起こるし僕も巻き込まれずにはいられない状況だと思うけども」
「・・・辞めろって言ったら辞めるのか?」
「一応は辞めるけど、向こうからなにかやってきた場合はその限りではないかな?」
・・・あれだけ喧嘩撃ってるし、たしかにサツキに何か行動を起こす可能性は高そうだ。
「とりあえずとっとと買い物行くぞ」
「おい、結論を出せよ。優柔不断だなぁ。そんなんだから関係が変わらないんだろ?」
「ズバリ言いやがって・・・まあ、話はわかったからとりあえず放置だ。だけど釘を差しておくと、姉妹が傷つくような行動は今後なしだ。あれだけやったんだからもう確かめる必要ないし、なくてもなんとかできるだろ? それさえ守れば好きにしろ」
「うわ、優柔不断で自分で決められないだけなのをいい人ぶって好きにしろとか言ってる」
「・・・それはマジごめんなさい。だけど引っ掻き回したお前にも責任あるんだからな! 俺は頼んでないんだから!」
「清々しい責任転嫁を見た。元はと言えば自分が撒いた種でもあるだろうに」
「うっせー、あの姉妹は色々複雑すぎて俺もどう触っていいかよくわかんねえんだよ! いいから買い物行くぞ!」
「ああ、行こうか」
こうして、俺とサツキは予定通り買い物に向かった。
引っ越ししたばかりと言うから買い忘れてそうなものを指摘してやれば喜んでいた。
そしてその帰り道、いつまでもついてくると思っていたらサツキの家が俺の家の向かいのアパートであることが判明する。
俺は、この日ほど、運命の神というのがいるのなら呪ってやりたいと思った日はない。
どうやら俺の平穏な日々が戻ってくるには、ちょっと時間がかかりそうだ・・・。
次話はナツ視点予定。
いよいよ姉2人の正体に触れます。