10・さんじょの隠し続けた想い
他の小説の最新話に間違ってあげてました・・・恥ずかしい。
「私が、ハルタと結婚?」
ユキ姉から言われた言葉に私は聞き返す。
『・・・そうだね。やっぱりそれしかないよ』
今度はナツ姉がそんなことを言う。
それに対して私は、ああやっぱりなのかと思ってしまった。
前々から、なんとなく思っていたのだ。
この2人はハルタとの恋愛を諦めてしまっているのではないかと。
たぶん、ハルタと一番楽しく喋れているのはナツ姉だ。
私では会話だけであんなふうにハルタと盛り上がることはできない。
男の子とあんな風に盛り上がって会話をできる女性というのは珍しいはずだ。そんな風に気を抜いて話せる相手というのは男の子にとって魅力的だろう。
私もあんな風にハルタとふざけたいと思っても、ナツ姉ほど会話をはずませることはできないだろう。
あまりうまくふざけられなくて、ハルタを困らせてしまうのが目に浮かぶ。
癒やしや女性的な魅力が一番高いのはユキ姉だ。
私はユキ姉ほど見た目も生き方も可愛くできないし、ハルタに甘えることもできない。
男の子は些細なワガママを言われたり、頼られることに弱いと聞く。得に相手がユキ姉みたいな可愛らしい人だとなおさらだろう。
だけど私はプライドが邪魔してユキ姉ほどワガママをハルタに言うことはできない。それにユキ姉がいるからこそ、私はあんなに可愛くおねだりできないと比べてしまう。
そんな風に2人の姉は、私が持つことのできない私よりも魅力的な部分を持っている。
魅力だけじゃない。持っている才能も2人共特出している。
それに対して私はなんでもそれなりにそつなくこなすことはできるが、特出した才能もないし、可愛らしいと思われる欠点もない。
寧ろあまり笑うことがないみたいな、可愛くない欠点があるくらいだ。
だから思ってしまうのだ。
この2人のどちらかであるのなら、私はハルタを取られてしまっても負けを認めてしまうんだろうと。
だけど実際、先に諦めてしまっているのは姉たちの方なのだ。
ユキ姉もナツ姉も、ハルタのことをよく思っているのは確実だ。
他の人には見せないような表情をハルタの前でしているのをよく見るし、姉妹で話していても、話す内容はハルタの事がほとんどだ。
なのに2人共、いつも私に言ってくるのだ。『アキはハルタと付き合わないのか』と。
2人共ハルタのことが好きなはずなのに、その交際相手を私にしようとするのだ。
ハルタと恋人の関係になりたいかなりたくないかで言えば、私はなりたい。
だけど・・・だけど・・・・・・。
「私もだけど、ユキ姉やナツ姉はハルタと結婚しようとは思わないの?」
私ははじめて、ずっと思っていた気持ちを言葉に変えた。
今まではずっとはぐらかしてきた。書紀をやってる生徒会が忙しいだとか、剣道の部活があるからとか。
気づいていて一度も言わなかった。言えなかった。2人もハルタのことが好きなんだよねと。
私とハルタをくっつけようとしてる2人の気持ちがなんとなくわかってしまえたからだ。
それに怖かった。私がそれを言葉にしてしまえば、2人の姉が本気になってハルタを落としにかかるのではないかと。私より魅力的な2人が本気でハルタに迫ったら、一瞬でハルタは堕ちてしまうのではないかと思えて。
だけど今回、私はそれを言ってしまった。
逃げ続ける時間はもう終わらせるべきだろう。今まではハルタと親しい相手は私達三姉妹くらいだった。
ハルタがくっつくなら多分姉妹の誰か。そういう状況だった。
だけど今は違う。三姉妹と一人だけで進んでいた世界は、突如現れた転校生によって変わってしまった。
それなら、私が止め続けていたハルタと私達三姉妹の時計の針を進ませなければいけない。
私が2人の言うとおりにハルタと付き合おうとしなかったのは、私はハルタが好きだけど、それと同じくらい仲のいい2人の姉が好きだったからだ。
だから、許せなかった。2人がハルタのことを好きなのがわかっていて、それを無視したままハルタと付き合うというのが。
自分たちの状況ではハルタと結ばれることはできないと諦めてしまったままでいる姉たちが。
それでも、真っ向から勝負するのが怖くて、私はずっと逃げるようなことを言い続けてしまった。
ぬるま湯のような時間を少しでも引き伸ばすために、時計の針を止めてしまった。
私は2人の顔を見る。
今まで一度もそんなことを言わなかった私のことを、驚いた顔で2人の姉が見つめていた。
『・・・アキ、それは無理だよ。私とユキ姉の秘密は、いくらハルタでもそう簡単に飲み込めるものじゃないよ。だからユキ姉と2人で決めてたんだ。私達がハルタと結婚できない代わりに、アキにハルタと結婚してもらおうって。他でもないアキだったら、ハルタのこと安心して任せられるから・・・』
「うん。な、ナツちゃんの言うとおりだよ。は、ハルちゃんに私達みたいな存在の相手なんてさせられないよ。だ、だから姉妹の中で唯一、普通女の子のアキちゃんが・・・」
「勝手なこと言わないでっ!」
わかっていた。姉たちがこんなふうに思っていることは。
姉たちがそんな風に悩んでいたことは。
だけど、それを実際に言葉として聞いた私は、気づけば2人に怒鳴っていた。
『あ、アキ?』
「勝手なことを言わないでよ! 何? 私達の代わりって! 私は音成アキ。音成ユキでも音成ナツでもない音成アキなの! 二人の代わりじゃない! 私は私で、ユキ姉とナツ姉はユキ姉とナツ姉じゃん! 代わりなんていないし、私は2人の代わりになんてなるつもりはない! ユキ姉とナツ姉がハルタのこと好きなら、自分でハルタと結婚すればいいじゃん!」
「で、でもアキちゃんもハルちゃんのこと・・・好きなんだよね?」
「好きだよ! 好きに決まってるじゃん!」
『だったら・・・』
「でも私はお姉ちゃん達のことも大好きなの! 2人共大事な家族だって思ってるの! なのに、なのに、2人共ハルタのこと好きなくせに私に付き合えとか言って、自分の気持ち我慢して、そんなの、そんなの許せるわけないじゃん! 我慢しないでよ! 譲ろうとしないでよ! ちゃんと自分の気持ちに正直になってよ!」
「で、でも私達2人は普通じゃないし・・・」
「普通って何!? そんなの関係ないじゃん! どんな事情があったって、2人が音成ユキと音成ナツであることは変わりないじゃん! 私の大切なお姉ちゃん達なのは変わりないじゃん!」
『・・・・・・』
「それに私の、私達の好きなハルタを馬鹿にしないで! アイツはきっと、ユキ姉とかナツ姉の事情なんか気にしない! 知ったところで関係を変えるような奴じゃない! そうじゃなきゃ私、アイツのこと好きになったりしないもん!」
「・・・・・・」
「お願いだから、そんな悲しいこと言わないでよ・・・私達、姉妹じゃん・・・」
気づいたら、私の目からは涙が溢れて止まらなくなっていた。
そんなつもりはなかったけど、思った以上に私は自分の気持ちを自分の中に押し込めていたらしい。
一度溢れ出した涙は止まらなくて、次から次に流れ落ちていく。
・・・ウサギの頭がそっと近づいてきて、涙が止まらなくなった私のことを抱きしめた。
「あ、アキちゃんはそんなふうに思ってくれてたんだ・・・」
優しく抱きしめてくれたユキ姉が、とても優しい声でそう言った。
「うん、でも言えなかった。言ったら何かが変わる気がして、今まで言えなかったの・・・ごめんね?」
そういった私の頭を、ユキ姉が優しく撫でる。
私よりも小さくて可愛らしい手なのに、その手はとても大きくて暖かく感じた。
「アキちゃんは優しいね。わ、私たちにほとんどワガママを言ってくれないアキちゃんが、やっと言ってくれたワガママが、私たちに『素直になれ!』なんだもん。お姉ちゃん嬉しすぎて、涙が止まらないよ」
見れば、きぐるみの隙間からでもわかるほど、ユキ姉の顔からは水滴が流れ落ちていた。
「私達、姉妹じゃん。遠慮なんかしないでよ・・・」
「・・・か、可愛い妹からそんな風にワガママ言われちゃったら、お姉ちゃんたちもおなかをくくるしかないね」
『ゆ゛ぎね゛え゛・・・』
スマホを見れば、ナツ姉も画面の中でボロボロと泣いていた。
「ナツちゃん、ここまで来たらもう私達もやるしかないよ。は、ハルちゃんに私達の秘密を話して、それでもいいって言ってくれたら・・・ね?」
『う゛ん゛・・・ズビッ、そうだね・・・』
姉たちはやっと素直になってくれるようだ。
そのことが私はとても嬉しかった。
「で、でも、アキちゃん、よかったの? もしかしたら、私達ハルちゃんのこととっちゃうかもよ?」
「・・・遠慮はしないでって言ったけど、私、お姉ちゃん達に負ける気はないよ?」
「・・・ふふふ。そっか」
『ふふ、ユキ姉これはあれだね。生意気な末妹に姉たちの実力を見せつけてあげるしかないね』
「うん、そうだね」
「負けないからね」
そう言って私たちは笑いあった。
半分しか血のつながってない私達だけど、私たちは、今、今まで以上にちゃんと姉妹になれた気がした。
ハルタは覚悟するべきだろう。
世界最強の私たち音成三姉妹が本気で動き始めるのだから。
音成三姉妹ヒント②姉たち2人は自分たちの存在を普通でないと思っています。
音成三姉妹ヒント③三人の血の半分はちゃんと繋がっています。
今回若干シリアスになっちゃった気がしますが、ちゃんとコメディとのバランス見ながら進めるつもりです。
総合評価1000pt、ブクマ500、累計PV50000を突破しました!
日刊ランキングも現在総合で28位みたいで、今までの作品の最高記録を超えれてすごくうれしいです。
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