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1・おとなりさんちの次女

新連載書いてみます。

なろうじゃちょっと受けないノリだと思いますが、読んでくれると幸いです。

『・・・きて、・・・ぇ、起きて。お兄ちゃん起きて!』


声が聞こえる。

今何時だ? まだ起き上がり切らない頭で、うっすら開けた目で確認すれば、窓から入ってくる光は弱々しかった。

太陽の光には見えない。外の街灯だろうか。つまりまだ夜なんじゃなかろうか。


『早く起きろ! お兄ちゃん!』


「・・・うるさい黙れ。というか不法侵入するなっていつも言ってるだろうが・・・」


声の相手はいつものことなので一旦無視する。

窓の外の光で今の時刻を確認するのは辞めて、時計で時間を確認する。

時刻は三時。俺が目覚まし時計にセットしていた時間は五時だ。


俺は一度目が覚めてしまうとそのあとなかなか寝付けないタイプだ。なのでこの二時間を二度寝で取り戻すことはできない。


『おはよう! いい朝だね。お兄ちゃん!』


「・・・さっきから言ってるそのお兄ちゃんってのはなんだ?」


二時間分の休息を失った怒りを抑えながら、俺は声の主の相手をすることにする。

無視したら無視したであとあと面倒になる相手だからな。

しかし、新しいスマホにしてしばらく持っていたのに、とうとうこのスマホもダメになってしまった。

ここしばらく続いていた平穏な日々もとうとう終わりか。これからまた騒がしい毎日が続くのだと考えると、少し悲しい。


『ほら、幼馴染の女の子が近所の少し年上な男の子をお兄ちゃんって呼んで慕う漫画とかアニメあるじゃん? 私もせっかく幼馴染属性あるし、できるだけ毎日幼馴染の部屋に起こしに行くように心がけてるし、こういう妹属性つけるのもありかなって思って』


「いや、そのセリフにはツッコミどころが満載でどこからツッコンでいいかわからん。もう少しボケを整理してから出直してこい」


『なんだよー。せっかく可愛い幼馴染が起こしに来てやってるのにー。冷たいなぁ』


「・・・わかった。ツッコミどころというか、俺が怒りたい部分を一つ一つ説明してやろう。まず一つ目だ」


『はいはいなーに、お・に・い・ちゃ・ん?』


くっ、コイツ、俺がこんなにも怒っているのにそれをよくわかっていないらしい。

これは今まで言わずに耐えて来た俺の思いをハッキリ・きっちり・ガツンと伝えてわからせてやる必要があるな。

幼馴染だからと軽く許していた日々はもう終わりだ。これ以上、コイツの勝手な行動には耐えられない。

だからここはキチンとケジメをつけてやるのが幼馴染としての俺の義務なのだろう。


俺は、大きく息を吸い込んで、それを一気に言った。






「現実ではあんまりに露骨すぎるあざとさは逆に萌えないからな!」







『・・・はい?』


俺のあまりの至言がすばらしすぎて反応が遅れているのか、自称かわいい幼馴染はポカンとした顔をしている。

このまま畳み掛けよう。


「現実にはあざとすぎる子は萌えない! 何故ならあまり露骨すぎると、美人局みたいに何か裏があるのではないかと勘ぐってしまうからな! あの露骨さはそういう心配のないフィクションとか、テレビの向こうとかでやるから許されることなんだ! そこらの女子がいきなり露骨にあざとさを出しても、意図がわからないから素直に萌えにくい! 現実でそれをやるなら、せめて出会いの時点からキャラ作りしてからやれ!」




『・・・・・・』


言ってやった!

ふっふっふ、俺の言葉の効果は覿面のようだ。

言われた相手はポカンとした顔でこちらを見つめている。

恐らくは、自分の行動の至らぬ点を指摘されたショックで言葉を失っているんだろう。


『・・・やっぱハルタって頭おかしいよね』


「おい、なんでそういう結論になる」


『いや、どう考えても頭おかしいでしょう。自分で言うのもなんだけど、朝と言うかこんな深夜に起こしてるとかそういう問題をまず置いておいて、シチュエーションが萌えないって点をまず指摘ってどうなんだって思う』


「お前にまさか時間帯を配慮するという人間として基本的なマナーの知識があるとは思わなかった」


『失敬な! マナーくらいわかってるよ! 守る気がないだけだよ!』


「なお悪いわ!」


『別にいいでしょ? こうやって可愛い幼馴染が起こしに来てるんだよ? プラマイゼロだよ』


「頼んでないというか逆に迷惑だ。俺は別に目覚めが悪くないからお前に起こされなければ目覚ましでちゃんと起きれるんだ。なんなら目覚ましが鳴る前に起きることだってある。だから起こしに来なくていいと言ってるんだ」


『そう、それだよ! めざましなる前に起きちゃうことあるから、こういう確実に寝てる時間じゃないと起こしにこれないんだよ! ハルタがもっとだらしなければ起こしてあげてる感だせるのに、これじゃあただの頭のおかしい幼馴染キャラになっちゃうよ!』


「なっちゃうもなにもまぎれもなくそうだろうが! 毎回毎回人のスマホ勝手にハッキングしやがって・・・しかもお前、ハッキングしたスマホのスペックを最大限に使おうとしすぎるから、スマホの寿命が毎回マッハでなくなっちまうんだよ! 今年に入ってスマホ変えたの3回目だぞ!」


そう、この自称かわいい幼馴染は俺の部屋まで直接侵入して俺を起こしに来ているわけではない。

侵入されているのは俺の部屋ではなく俺のスマホだ。

テレビ電話とかアプリとかそういうちゃちな方法でこうやって会話しているんじゃない。

スマホ自体を自分の支配下におき、着信音もこちらからの応答なしも関係なく、勝手にスピーカーと画面を通して自分の顔と声を送って俺を起こしに来ているのだ。


これはスマホの電源を切る程度では回避できない。

仕組みはよくわからないが、自動で電源がついてしまう。

最終手段として電池を抜いたときはパソコンが、パソコンの電源を抜いていたらテレビが、テレビの電源も抜けば、エアコンやらその他の家電の電子音を操り、それが声のように聞こえるという現象を起こしてくる。

ならばいっそのことと家のブレーカを落としてしまえばドローンが窓を突き破って入ってきた。

ここまで来たらもはや電子機器によるホラーである。


まあ、あのときは俺もどこまでやればこいつは止まるのかという境界線を楽しんでいた部分もあったので別にいいのだが、普通の人にやれば発狂ものである。


『まだ3回目ならいいほうじゃん。去年は合計12回で今6月だから去年の半分くらいのペースでしょ?』


「それは日々スマホの性能が上がってるからで、お前が自重したからじゃねぇよ! いくらなんでも壊れ過ぎだからってお店の人に顔覚えられてるレベルなんだからな!」


『毎回ちゃんと買い替えるスマホ代出してるでしょ? 細かいこと気にしない気にしない。可愛い幼馴染とのラブコメには必要な犠牲だよ』


「どれだけ対策とっても電子機器を乗っ取ってからかいに来る幼馴染が出てくるラブコメなんて、この国の文化にはねぇよ」


『アーカムあたりでは普通だよ?』


「ラブってラブクラフトのラブかよ! 発狂させる気満々じゃねえか!」


ヒロイン登場のたびにSANチェックするコメディとか・・・いや、どこぞで見たことある気がするな。

この国の萌え文化は業が深すぎるからな・・・この件に関して深く言及するのはよそう。


「しかし今回は買い替えてからしばらくハッキングできてなかったな。やっぱり、最近のスマホはガードが硬いとかか?」


ひどい時には買って店を出た瞬間に声が聞こえてきたこともあったからな。

3、4日もハッキングされなかったというのは初めての経験だった。

・・・いや、よくよく考えればハッキングされないのがおかしいって感じるって俺も相当毒されてると思うけども。


『いや、ハルタも男の子だし、二、三日ほおっておけばエロサイトめぐりとかエロ動画集めとかしだして、からかうネタが増えるんじゃないかと思ってたんだよね。実はスマホ自体は契約した瞬間に管理下には置いてたんだけど、いつまで待ってもそんな様子ないからもういいかなって思って』


「バカ言え。いずれ女性にハッキングされるってわかっててそんなの見るやつがいるわけ無いだろ」


あぶねぇ。5日ハッキングがなかったらチラッとだけ覗いてみようとか思ってた!

こいつにそんな情報知られたらその日のうちに拡散されてしまう。

そうなったら大事だ。


『つまり、私がスマホを覗かなきゃ見るの?』


「・・・黙秘権を行使する」


『フッフッフ、そんなハルタくんに朗報です! なんとワタクシ、そんなムッツリハルタくんの為に役立つアプリを開発しました!』


「ムッツリ違うわ! アプリ・・・どうせまた碌でもないものを作ったんだろう」


『失敬な! 私が作るものがまともなわけ無いでしょうが!』


「どの方向に向けた怒りだそれ。んで、いったい何を作ったんだ?」


『テレレレッテレ-『全自動アイコラアプリ』。このスマホで人物の画像を見ると、すべての女性の顔が私の顔にすげ替えられるってアプリだよ!』


「・・・マジでか」


何のためにそんなものを作ったのかというツッコミは置いておいて、とりあえず試しにネット検索アプリでアイドルと打って画像検索をかける。

表示された女性アイドルの顔が一瞬で全て自称可愛い幼馴染の顔に切り替わる。

つなぎ目や影、表情、肌の色、全てが元の写真に違和感なくはめ込まれている。

年代が違う人物には、その年齢に合わせて幼馴染の顔も年齢層を調整されるという徹底ぶりだ。

数人、数十人組のアイドルグループの画像を見れば、全員同じ顔になってる。

正直キモい。


「また無駄に洗練された無駄のない技術の無駄遣いをしやがって・・・」


『すごいでしょ! 最近数日ハルタをからかう・・・もとい、ラブコメで起こしたりしてなかった分、時間ができたからその時間で作ってみたの! ちなみにこのアプリは私以外が削除しようとすると、スマホが起動出来なくなるように作っているぜぃ!』


「凶悪すぎるだろうその仕様!! ・・・うぉ、アニメ画像までデフォルメされたお前の顔に切り替わるのかよ・・・芸が細かいと言うか、マジで超絶に無駄な技術というか・・・」


『生きるためには必要ない無駄なことに全力を注ぐことを、人は文化と呼ぶのです!』


「いいこと言ってる風にいうな。無駄なことでも人々に好かれた上で後世に残ってから初めて文化だアホたれ」


『つまり、このアプリを世界中に広く拡散すれば文化になるんだね! さっそくやってみるよ!』


「マジで大事件になるからやめろ!」


こいつの場合、たぶん本気でやろうと思えば本当にそれができてしまうからな・・・。

それこそねずみ算式に世界中に拡散して大パニックなんてことになりそうだ。


『ウソウソ、ナツちゃんのキュートなお顔はハルタくんだけが独占したいんだよね? もう、ハルタっちったら独占欲が強いんだからぁ』


「ウザい幼馴染をクーリングオフしたいんだが、どこに電話すればいいんだ?」


『いやー、残念ながらクーリングオフの期間過ぎちゃってるねぇ。引き取りとなると、購入時の倍額を手数料としてもらうことになっててねぇ』


「たちが悪いな!」


『あらまあまだ若いのに勃ちが悪いなんて大変ねぇ』


「いや、女の子の露骨なシモネタはドン引きだからマジやめて?」


『現実の女の子には、そういう男子の幻想みたいなものはもう品切れしてるんだよ。そういうのほしいなら、きちっと追加料金払ってもらわないと』


「そういう絶望的なこと言うなよ! もっと夢を見せてくれよ!」


女子の幻想は金で買えとか、実際そうであっても聞きたくない。

きっと世界には、俺が求めてやまない理想の女の子がいるはず。そんな夢を見ていたいんだ。


『マジキモい』


「一言で一蹴された!」


『そういうのはもっと高身長で、イケメンで、何故か私のことが大好きで、些細な成功を過剰に褒めてくれた上で失敗して落ち込んでるときは表面に出さなくてもなんとなく気づいちゃう、それでいて私よりちょっと馬鹿で可愛い愛され幼馴染になってから言いなさい。そしたら追加料金3割引きにしてあげるから』


「そこまでやっても3割引き程度かよ! というかそれはそれで男子に幻想求めすぎだろ! そっちこそ追加料金払いやがれ!」


『お金払えば高身長イケメンになれるというなら払うけど?』


「・・・この世の中には整形とか骨延長という手段があってだな」


『・・・そうだったね、この話は業が深いから辞めておこう。誰も幸せにならない・・・』


「そうだな。世界には触れないほうがいい暗部がたくさんあるからな・・・」


会話の流れで世界がほんの少し暗く感じてしまった俺達は、静寂の中でその哀愁を味わった。




「・・・まあ、とりあえず、せっかく早く起きたし、今日の弁当と朝食はちょっと凝ったものでも作るか。アプリありがとなナツ。さっそく今晩あたり使わせてもらうよ」


『いいってことよ! 朝食は満漢全席がいい・・・っと、えっ・・・流れでなんか普通に流しちゃったけど、ハルタ今、なんて言った?』


「朝食は凝ったもの作ると言ったが、流石に満漢全席は数時間じゃ無理だ。あれは数日準備がいる」


『そっちじゃない! 数日あれば作れるのかとかツッコミたいけどそっちじゃない! アプリって何のアプリ?』


「ん? お前の作った顔ハメ込みアプリだけど?」


『それをどうするって?』


「今晩あたり使わせてもらう」


『・・・え? 使うの?』


「え? そのために作ったんじゃないのか?」


『いやいやいやいや、純粋に無駄に手の込んだいたずら目的で、使用を前提としたものじゃないよ! 使われたらなんか複雑な気分だよ!』


「こういうのって身近な人の使ったほうが、いろいろといいじゃん? お前だってそうじゃないのか?」


『同意を求められても困るよ! というか女の子にそういうの聞いちゃダメだよ! 答えないから! 女の子同士だってそんなことそうそう話さないよ!』


「だけど、俺が最も信頼する身近な女性は答えてくれたぞ? 身近な人間を使うのがいいって」


『えぇ・・・マジで? ちなみにそれ誰?』


「マイマザーだ」


『聞くんじゃなかった! 今後おばさんにどんな顔して会えばいいかわからないよ! 顔を見るたび今の話が頭をよぎっちゃうよ!』


・・・こいつ、マジに盛大に勘違いしてるなぁ。

俺は単純に加工写真をアルバムにでも使うつもりだったのだが、明らかに変なことを想像してやがる。


ナツは重度の引きこもりだ。自室から一歩も出ることができない。

学校も特例でネット通信上での受講や通学が認められるほどの引きこもりである。

引きこもるのにはどうしようもないわけがあるのだが、まあ、今はその話はおいておこう。


そんなふうな引きこもりだから、ナツの写真はとても貴重なのだ。

前々から幼馴染の音成三姉妹とのアルバムに、ナツの写真だけが殆どないことを気にしていた。

このアプリの写真はナツの写真そのものではないが、ほしいのは写真よりも思い出だ。

ちょっとずるい気もするが、何もないよりはいいだろう。


さて、画面の中で顔を赤くして誤解し続けている幼馴染に真実を伝え、自分のムッツリさを自覚させるか。

口を開いて真実を伝えようとした俺に対して、ナツが急に慌てただす。


『あっ、ヤバイ!』


「ん? どうしたんだ?」


『ユキ(ねえ)が起きた・・・』


「なんだって!? すぐに隠れな・・・」


慌てて避難しようとした俺は、部屋の外でドドドドドと猛スピードでこちらに向かってくる何者かの足音を聞く。

急いで衣装棚あたりに隠れようとしたのだが、間に合わず、部屋のドアがバタンと開いた。


「ゆ、ユキ姉落ち着・・・」


「夜中にガヤガヤうるさいんじゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁ・・・っ!」


そう言いながら、ユキ姉の芸術品のようにきれいな足が振り上げられる。

その美しさに見惚れた俺の頭に、きれいにカカトが落ちてくる。




その後すぐに、俺の意識は闇に途切れた。

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