魔法、のその前に
魔法って何? と聞かれたら、あなたは何と答えるだろうか?
多くの人は漫画やアニメにありがちな魔法を想像するのではないか?
俺もそんな人間の一人だったりする。
だがしかし、この魔法というものは所詮は二次元世界のものであり、フィクションなのである。
故に俺たちが生きるこの現実世界においてはあり得ないものなのだ。
そう、あり得ないもの。
だからこそ、我々人間はそんな空想の産物に憧れを抱くのである。
現に身近に一人、そんな奴がいるのだが…まぁ、誰とは言わないでおこう。
で、だ。
「魔法の素質ってのは?」
『ん? そりゃそのままの意味だぜ。素質がない奴ってのはとことんねぇからな。あるかないかの判断なんてのは、この俺にとっちゃ造作もないことだ』
なんせ天才だったからな! と付け加えたコーデリウスは画面の中でふんぞり返る。
どうでもいい話なのだが、こいつはいちいち自慢話をしなければ生きられないのだろうか?
『でだ。見たところお前にもそこそこの素質がある。まぁ、俺程じゃねぇのは当たり前だが、こと魔法の素質だけを見るなら、俺が筆頭を務めてた魔法師団の中でも、それなりの位置にはなるだろうよ』
「…お前のいた世界の基準で言われてもなぁ……」
『まっ、要はそれなりに凄いってこった。だが、安心しろ。この俺が教えてやるんだ。素質以上になることを約束してやる』
偉そうに、そして自信満々に言うコーデリウスの言葉に、俺はへぇ、と淡白な反応を返してしまう。
確かに、魔法という言葉につられてホイホイと話を聞いている俺も俺なのだが、事が事なだけに未だに現実味がわかないのだ。
何せ魔法だ。あの、アニメや漫画のあれだ。灰程とまではいかないが、そんなフィクションが使えると、こんなフィクションから出てきたような奴に言われれば、ちょっとはその気になってしまっても仕方ない話ではないか。
『話してても始まらねぇな…。取りあえず、お前の適性を調べてやるよ。何か書くものと紙はあるか?』
フワフワと俺の周りを飛び回るコーデリウスがそう催促してくるので、俺はのっそりと体を動かして机の上にあった紙と鉛筆を持ってくる。
「あるにはあるけど…お前、手もないのにどうやって書くんだ?」
『もちろん、魔法を使ってだが?』
目の前に置いてやった鉛筆と紙が、音もなくふわりと浮かびあがる。
『おぉ…お前の知識で知っちゃいたが、実物見ると、お前らの世界の科学ってのがどれだけすげぇかよくわかるな…』
浮かび上がった紙と鉛筆の周りを飛んでしげしげと見つめるコーデリウス。彼の話に寄れば、コーデリウスの居た世界では紙はあってもこちらと比べると粗悪品だったらしく、普及していたのは貴族間で使われていた羊皮紙。ペンはインクを用いた羽ペンだったとか。
そんなことを思い出していると、いつの間に見ることを止めたのか、紙にさらさらと何かを書き込んでいくコーデリウス。
見ると、それは見たこともない文字の書き込まれた円形の魔方陣。コーデリウスがスマホに憑依した際に現れたあれによく似ている。
『よし、こんなもんか。尚也、この魔方陣の上に手を置け』
フワッと浮かび上がり、俺の目の前に移動する紙。
改めてみると、細かい文字が正確に、しかもバランスよく書き込まれており、どこか美術品めいた印象を受ける。
灰が描くようななんちゃって魔法陣とは大違いだ。
言われた通りに魔方陣の上に手を置く。
『んで、ここに魔力を流すわけなんだが…できねぇだろうし、ちょっと手伝ってやるよ。取りあえず俺を持て』
「わかった」
目の前で浮いていたコーデリウスをヒョイッとつかむ。
そういえば、こいつが俺のスマホに憑依してから一度も触れていなかったが、別に見た目や形が変わってしまった訳ではないようだ。
…まぁ、中身は月とスッポンほど違うのだが。
『んじゃ、今から俺が魔力をお前に流し込む。上手いことそれを感じ取れれば、後は簡単だ』
流すぜ、と一言発したコーデリウス。
それを合図に、俺も意識を集中させる。
右手に持ったスマホを中心に、徐々にではあるが体が温まっていく感じがする。
慣れない感覚に、どこか戸惑いを覚えるが、不思議と安心できるのはこれが俺の魔力であるからなのだろうか。
『おぉ…! やっぱお前、素質あるわ。しかも、俺の魔力との親和性も高いときた。普通だったら吐き気やら、発狂やらの拒絶反応が出たりするんだが…俺の子孫だったりするのか?』
「先祖が異世界出身だなんて話は聞いたことがないな。…待て、お前、そんな危険なこと今やってたの?」
『まぁな。素質ある奴ってのは自然と魔力の扱いを覚えるが、尚也はそもそも生きていた世界が違うからな。魔法扱うなら、多少のリスクは当然だろ?』
「…それ、言ってなかったよな?」
『結果オーライなんだ。良かったじゃねぇか』
このスマホ野郎ぶっ壊してやろうか。
とはいえ、コーデリウスの言う通り、結果的に起こらなかったことについてグチグチ言っても仕方ない。
引き続き、作業を続ける。すると、体中の熱が少しずつであるが体の中心部に集まっていくように感じる。
やがて、体の熱は完全に引き、代わりに体の中心で俺の何かが蠢いているような感覚があった。
『それがお前の魔力だ。まぁ、上々、といったところだな。後は、それを手を通して紙に送れば、お前の適正…つまり使える属性が分かる』
「わかった。やってみる」
言われたとおりに、まず意識を体の中心に向け、そこで蠢く何か…魔力を引っ張り出す。
といっても、何をどうすればいいのか分からないため、それっぽいことをやるだけだ。
後は、これを腕を通してこの紙に流し込めば完了…
『おっと、言い忘れてたが、流し込みすぎると紙が魔力に耐えられずに爆発…』
ボンッ!! と凄まじい音がして紙が爆ぜた。
『するから気をつけろ、って言いたかったが、遅かったな。悪い』
コーデリウスの見つめる先に居た俺は、紙の爆発に巻き込まれ、顔は煤け、髪の一部が焼けていた。
「だから、そういうことは先に言えよ!」