スマホの大魔導師はスマホに永久就職(物理)するそうです
…うん、感じてはいたんだよ
『おう、尚也! このカレー? とかいうの、すっげぇうめぇな!!』
そんな歓喜の声を上げて、俺の名前を親しげに呼ぶのはスマホに取り憑いた自称天才大魔導師であるコーデリウス・サンザンド・アウグスタス。
本日、俺が家の前で拾ってきた球であり、元異世界の魔法使いな元魔王。
あれからコーデリウスから元の世界のこととかを色々と聞くことになったのだが、あまりの出来事に脳みそやら思考回路やらがショート寸前で困惑していた俺がすべてを理解できるはずがなかった。
なので、理解できたところを簡単に言えば、大陸制覇に貢献した彼が国に危険分子と見なされ、最終的に国から魔王認定された挙句、異世界から召喚した勇者とやらにやられたのだと。
てかよく考えたら、話のほとんどは彼の自慢話と愚痴だったような気がする。
ちなみに、落ち着いた俺の「やられたのに、何でここにいんの?」という質問に対して、『この俺が、簡単にやられて終わるわけ
ねぇだろ』という、いかにも主人公たちに潰された組織のボスのような台詞を吐いたコーデリウス。
なんでも、やられる寸前、魔王認定されてから研究を始めた魂の転生の魔法を使用したらしい。
魔法とか、非現実過ぎてよく分からないのだが、彼の説明をそのまま使うと、魂のみをどこかの胎児を寄り代として転移させ、自身の人格を有した新たな生命として誕生させる魔法、とのこと。
まぁ、結果的には失敗し、憑依転生するどころか、異世界に魂を封じた球の状態のまま、見知らぬ場所に放り出されるという事態になってしまったそうだが。
いつの間にか名前呼びになっているコーデリウス(in スマートフォン)に一瞬だけ視線をやると、たまらずため息をついた。
灰が好きそうな話であるが、これはフィクションではなく現実だ。まったく嬉しくないことではあるが、現に、目の前には宙に浮かんでいる俺のスマホと、その画面に表示されている金髪のイケメンの姿。
認めたくはないが、認めるしかなさそうだ。
『おい尚也! これ、もうねぇのか!?』
考えるのをやめてコーデリウスのほうを見ると、俺の皿の中に半分ほど残っていたカレーがすっかり空になってしまっていた。
説明が終わると同時に、腹が減ったと言い出したこいつはあろうことか無断で俺の食いかけのカレーを食べ始めた。
…いや、食べた、というよりも吸い込んだ、か。
どこのピンクの悪魔だといいたくなる光景に、もう頭痛が痛いです
「あぁ、それならそこの鍋の中『ヒャッホォォォ!!』……に」
言い終わる前にコンロの鍋に向かって突撃をかますコーデリウス(in スマートフォン)。
その様子に呆気に取られつつも、鍋のほうを見てみる。
『ヒャッハァァァ!! こいつは最高だぜぇえぇ!!』
ハイな声を上げながら、鍋に中身を吸い込んでいくコーデリウス。
そんな様子を眺めながら、俺は疲れた顔で掃除に使えそうだなぁ…とかいうくだらない事を考えているのだった。
「ん……」
顔を射す陽射しに、思わず顔をしかめる。
どうやら俺は風呂の後、部屋のベッドではなく、リビングのソファーの上で眠ってしまっていたようであった。
まだ五月。暖かいときはいいのだが、時折肌寒くなる時期だ。下手をすれば風邪をひいてしまう。
のっそりとまだ睡眠を欲する体を黙らせて起き上がると、ふと、テーブルに置きっぱなしになっているスマホが目に入った。
とたん昨夜起こった出来事が思い出される。
普通に考えれば、頭おかしいんじゃないかと思えるような昨夜の一件。
あれは…
「夢…」
『おっ、起きたか尚也』
「…ですよねー」
いきなり起動し、画面に現れた金髪の男。
名をコーデリウス・サンザンド・アウグスタス。元魔王で魔法使いの昨夜の一件の元凶である。
「…夢だったらよかった……」
『ん? なんか言ったか?』
「いや、何も」
コーデリウスの呟きに、そう返した俺は洗面所で顔を洗ってから自分の部屋へと向かい、制服に着替える。
が、昨夜の一件が余程堪えているのか、自室に入ったとたん、ベッドにダイブすることになった。
「…今日は、休も……」
学校では真面目で大人しい生徒として通っているだろう俺が、ただの疲労で欠席するというのは気が引けるのだが、昨夜は色々と大変だったので仕方ないと自分に言い聞かせて枕に顔をうずめる。
『おーい、尚也…って、また寝てんのかよ』
コーデリウスの声がしたため、チラリと扉のほうに視線を向ける。
するとそこには、ふよふよと宙に浮かぶ、画面に金髪の若い男を表示するスマートフォンが一台。
黙って目を伏せた。
なんかもう、俺の中でいろんなもんが音を立てて崩れていきそうな気がする。
『おい、いいのか尚也。学校? ってのがあるんだろ? 行かなくて良いのか?』
「…うるせぇ。大体、誰のせいで追うなってると思ってんだよ…。今日は休む」
俺の顔の隣で浮かぶスマートフォン。
見てみると、その画面の中ではコーデリウスであろう男が、心底つまらなさそうに寝転んでいた。
『なんだよ、異世界の学校、結構楽しみにしてたんだがな』
やれやれといった様子で肩をすくめてため息をつくコーデリウスに若干の殺意を覚えるが、次の瞬間にはどうでもよくなり、ポフッ、ともう一度枕に顔をうずめた。
『まぁでも、今日に関してはそっちのほうが都合が良いな。色々と話せる』
「話せるって…昨日のあれで終わりじゃなかったのかよ…」
『馬鹿言うんじゃねぇよ。話し相手が理解していないのに、終われる筈がねぇだろ。まぁ、途中から話が脱線して俺の自慢話やら愚痴になっちまったことについては謝る。』
どこが謝っているんだといいたくなるような態度であるが、ここで突っ込むとまた話が進まないような気がしたため、黙ってコーデリウスの話を聞くことにする。
『つってもまぁ、大事な要点は昨日言ったとおりだ。だから、今後世話になるだろうお前との仲を深めるため、何か聞きたいことがあれば答えてやるぜ?』
「ちょっと待てなんだそれは。今後とも、だと?」
コーデリウスのその言葉に、俺は思わず顔を上げた。
何だ、その不気味な今後とも、は
『しゃあねぇだろ。俺今ここに憑依してる状態だし、行動にも制限かかってんだからよ。こうなった以上、俺はお前の世話になるしかねぇんだ』
「……なんてこった」
『だがしかし喜べよ、尚也。その代わりといっちゃ何だが、この歴代最高にして最強であった天才大魔導師であるこのコーデリウス・サンザンド・アウグスタス直々に、お前に魔法を教えてやる。見たところ、素質ありそうだしな、お前』
「…その話、詳しく聞こうか」
『…俺が言うのもなんだが、単純だな。お前』