スマホに大魔導師が住み着いた件
コーデリウス・サンザンド・アウグスタス
そう名乗った大魔導師(自称)である目の前の球は、今もなお誇らしげに体? を揺らしている。
「…で? 誰なんだ?」
だが、残念なことにそんな名前は聞いたことがない。
聞いた感じ、完全にヨーロッパ風の名前でなのだが、下手な日本人よりも日本語がうまい。姿さえ目に入らなければ、日本人と言われても信じてしまうレベルである。
いや、そもそも誰とか名前以前に人ではない。球だ。
『嘘だろ!? コーデリウスだぞ!? あの、最後には魔王とまで言われたあの!!』
「いや、まったく」
俺の反応に信じられないといった様子(多分)のコーデリウス(球)。
ていうか魔王って…響きが凄くやばそうなんだが、俺は一体どんなリアクションをとればいいのだろうか?
『クソッたれが…! この俺が転移に失敗するとは、なんたる不覚! 場所も分からねぇし、人に聞いても役に立たねぇしよぉ…』
先ほどから偉そうなことを言いつつ、人をディスるといった器用なことをしている目の前の球に頭が痛くなってくる。
なるほど、これがストレスか。将来ハゲると言う人がいるわけだ。
『あぁもういい!! おい、お前! ちょっとこっち向け!』
「…何だよ、俺は今お前のせいで疲れて…」
『記憶をここに』
相変わらず偉そうな口を叩いていた球に文句を言おうとした俺であったが、球が何かを呟いたその瞬間だった。
「ッ!?!? オエェッ!? ゥェップッ……!?!?」
まるで何かに頭を掴まれたかのように感じたその直後、激しい頭痛と吐き気が俺を襲った。
形容しがたいその間隔は、あえて言うならば、脳みそをかき回されたらこんなんだろうというもの。
直前まで食っていたカレーが、食道を逆流しそうになるのを必死で堪え、口を手で押さえて顔を伏せる。
暫くして、漸く吐き気が落ち着いてきたところで口から手を離す。途中まで逆流してきた胃液のせいで、喉の奥がヒリヒリと痛みを感じている。
『…なんてこった、完全に別世界じゃねぇかよ…』
涙目になりながらも、元から食事で用意していたコップに手を伸ばす。
一方、あちらさんはと言えば、勝手に一人で何かを呟いている。世界がどうやらと言っているが、今の俺は、水を飲むことが最優先事項であるため、割とどうでもいい。
『おい、そこのお前。一つ聞きたいことがある』
「ハァッ、ハァッ……な、何だよ…」
先ほどよりもマシになり、苦しかった呼吸が整ったところで聞き返す。
『魔法は使えるか?』
「魔法…ってのはあれか? ファンタジーやらゲームに出てくる?」
『…わかった。その反応で十分だ。記憶見た限りじゃ、物語の中だけの話みたいだし、向こうと常識も考え方も違ってるみたいだな』
「な、何なんだいったい…」
俺が答えずとも、一人で話をどんどん進めていくコーデリウス(球)。俺も俺で未だに話が見えてこないし、頭が現実に追い付いていない。
灰なら分かるかもしれないが、こんな案件を俺にどうしろというのだろうか?
『おい、お前。頭は大丈夫か? まだ吐き気とかがあるなら言え。緊急だったとはいえ、かなりキツい魔法をかけたからな。侘びといっちゃ何だが、治してやるよ』
「…やっぱり、さっきのあれはお前の仕業か…!」
『だーかーら、俺が治してやるって言ってるんだろ? さっさと理解しろよな。俺も暇じゃねぇ』
こいつが原因だろうという疑念が確信に変わり、沸々と怒りが込み上げる中、反省のはの字もないような口調で文句をたれるコーデリウス(球)
「治療ならいらん。大分落ち着いたからな」
『そうかい。そりゃよかったぜ。慌てていたとはいえ、不完全な魔法を使ったとあっちゃ、天才大魔導師の名折れだからな。……つーか、このままってのも話し難いな』
何故か称号が付け足されたコーデリウス(球)は、そう言って何か考えるようにテーブルの上を転がり始める。
しかし、転がり始めてすぐ、コーデリウス(球)は俺がネットニュースを見ようと取り出していたスマートフォンにぶつかった。
コツンッ、と硬い音がなる
『ん? おい、これなんだ?』
「スマートフォンだよ」
『そうか、これが記憶の中にあった遠くの奴と話せる魔導具か。……よし、これにするか』
何がだ、と俺が尋ねるよりも先に、ちょっと借りるぜ、と俺のスマートフォンに飛び乗ったコーデリウス(球)。
そのまま何か始まるのかと思い、黙ったその瞬間、それは起きた。
ドップンッ
そんな音をたててコーデリウス(球)は俺のスマートフォンに飲み込まれた。
……
「……ファっ!?」
思わず腰を浮かせて飛び上がってしまった。
慌ててスマートフォンを手にとって見てみると、画面には球が沈み込んだ場所を中心に、波紋が広がっていた。
こ、これ、大丈夫なのか?
「お、おーい……コ、コーデリウス……さん?」
恐る恐る呼び掛けてみるが、反応はない。
暫くして波紋が収まってくると、今度は電源を入れていないにも関わらず、いきなりスマートフォンが起動する。
しかし、画面に表示されたのは、見慣れたメーカーの名前ではなく、どこの言語なんだと言いたくなるような文字列。
更には、その文字列の奥に表示される幾何学な模様。魔方陣、と言われても納得しそうなものだった。
そして、俺の眼前にまで浮かび上がったそれは、中の魔方陣が光るようなエフェクトを放つ。
次の瞬間、画面には見慣れない金髪の若い男が写し出された。
『よう、改めまして、コーデリウス・サンザンド・アウグスタスだ。取り合えず、お前の名前を聞いておこうか?』
「……こ、近藤 尚也…です…… 」
そんなこんなで、これが俺とコーデリウス・サンザンド・アウグスタス。通称、コーディとの邂逅となるのだが、今後俺が面倒事に会うのだろうということは、うっすらとだがこの時既に感じていたのだった。