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物語は動き出す

「神埼の奴が・・・目の前でいなくなったんだ」



神妙な面持ちでそういった灰の言葉に、俺は一瞬、その言葉の意味をよく理解できなかった。


「いなくなったって・・・どっかに行ったのか?」


「違う、言葉道理の意味だよ。僕が・・・その、ちょっと気になってトイレに入ったとき、そこにいたはずの神埼が消えたんだ。・・・ほ、本当なんだ!」


「だから、見間違えたんだって。そもそも、トイレには神埼はいなかったんだろ」


まだ灰のいつもの中二妄想だと思っているのか、亮はもう興味はないとばかりに歩き出す。


「だから、これは冗談抜きの話だって! それに、この世には本当に・・・」


「しつこいぞ、灰。なぁ、尚也からも何か言ってやってくれよ」


 「・・・いや、案外本当の話かもしれないぞ」


 うんざりした様な顔で、こちらに同意を求めてくる亮だったが、今日一日であったことを考えると、あながち、すべてが嘘だとは言えなかった。

 俺の言葉に、亮はマジかよ、といった顔になり、対照的に灰の表情は嘘だといわれなかったことによる安堵なのか、どこか嬉しそうにしていた。


 「俺たち以外にまともな友達がいない、更には他クラスのお前たちが知らないのは仕方ないが・・・」


「おい、尚也。喧嘩売ってるなら買うぞ? ん?」

「俺も、眼の封印を解く」


手を組んでゴキゴキと音を鳴らす亮に、左目の眼帯をはずそうとしている灰。


後者はどうでもいいとして、前者は割りと洒落になりそうもない雰囲気だったので、落ち着くように手で制す。

見た目は不良、心は善人。されどパワーはかなりのものなのだ。自ら受けようとは思わない。

最も、金筋のそれは亮を超えてくるのだが。


「明日には全学年、他校まで広まるだろうから言っておくが、今日の授業、途中から神埼が無断欠席。教室を出たあたりから誰も見ていなかったらしいが、それ以降、神埼は鞄もそのままに戻ってこない、なんてことがあった」


多分、今頃、教室では神埼の取り巻きが教室に残ってその帰りを待っているのだろう。ついでに、ファンクラブの奴らも。


「マ、マジかよ・・・」


神埼消失についてそれが事実だと知った亮は、驚いたような口調で俺を見る。

対して、灰はといえば・・・


「フン、どうやら俺はとんでもない場面に出くわしてしまった唯一の存在のようだな。おそらくは、誰の目にも触れないよう、人払いの結界が張られていたようだが、この俺。そう! この俺の持つ魔眼<堕天使の邪眼ルシフェル・アビス・アイ>の前には無力だったようだな!」


調子に乗っていた。


指→眼


ので黙らせた。


「なぁ、それ、かなりやばいことなんじゃないか?」


隣で眼を抑えてコンクリートの地面を転げまわる灰を完全にスルーする亮。

自分でやっておいてなんだが、こいつもこいつで酷い奴だ。


「分からん。明日には何事もなかったように神崎が戻ってくるかもだしな。そもそも、灰の言ってたことが本当だという確証もない。・・・と、まぁ俺たちがここで考えたところで、意味もない話だけどな」


「事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったもんだな。ほら、いつまでもそんなところで寝てんなよ」


「あぁ・・・まったく、俺の眼が覚醒しなかったらどうしてくれるんだ」


目を抑えながらも、ふらふらと立ち上がった灰は恨めしそうに俺を見ると、転げて位置のずれた眼帯を元の定位置に戻す。


「大丈夫だって。いろんな意味でお前は覚醒してるから」


「そ、そうか・・・? フ、フッ、よく分かっているじゃないか」


チョロイ


先ほどまでの痛みを忘れたかのようにかっこいいポーズ(自称)を決めている灰。

そんな灰を残念な子を見るような目で見る亮に、ファイトッ、とジェスチャーを送る。


「んじゃ、俺はここで。また明日な」


「おう、お疲れさん」


「ではまた会おう。何、明日にはこの俺の魔眼がすべて解決しているさ!」


「・・・俺はまだまだ疲れそうだ」


後ろで高笑いしている灰に一瞬だけ視線をやった亮は、ボソリ、と俺に聞こえるように呟いた。

多分、次の分かれ道に入るまで、奴の中二ワールドという固有結界が展開されるのだろう。


亮を生贄に捧げているような気分になったため、軽く合掌だけしておくのだった






「何だこりゃ?」


亮たちと別れて十数分。一人暮らしを営む我が家へと帰還した俺だったのだが、そこである物が目に入った。

家の玄関のドアの前。そこにいかにもな雰囲気をかもし出す、最初から居ましたみたいな態度で鎮座しているそれ。


「・・・球?」


よく見ればそれは球だった。それも、黒・・・というよりも、これは漆黒、か?

掌サイズに収まるくらいのそれは、持ってみると、案外軽い。色からして、もっとずっしりとした重さがあると思ったのだが、そうではなかったようだ。


「・・・何ともまぁ、如何にも灰が喜びそうな代物だな」


『我が魔眼の力を具現化せし宝玉よ!』とかいって嬉々としているその姿が容易に想像できる。そのあと、うるさいと言われて亮に蹴られる姿も想像できた。


まぁでも、面白そうだし、明日会ったときに渡してやろうか。


そう考えた俺は、一度その球の全体を見回してから家の中に入る。

漆黒ということ以外、特にこれといった特徴のない球だ。あえて特徴を話すとすれば・・・傷らしきものがまったく見られない、ということだろうか。こんなとこに転がっているものだから、傷の一つや二つ、ついていそうなものだが。


「まぁ、いいか」


色々考えたが、自宅の目の前で悩んでいても仕方ない。


思考を放棄した俺は、とりあえず後回しにしようと考えて鍵を開けるのだった。


『・・・・・・』


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