第一節
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ん・・・」
ふと目が覚めた。あの頃のことを夢に見るのは久しぶりだ。
思えばヒナと出会ってからもう2年も経つのかと染み染みと考え込んでしまう。
「あら!?お目覚めですか?」
そうやって声をかけてくるのはやはりヒナだった。時刻は深夜を回ったくらいだろうか、ヒナは傍で眠る俺をただ見守っている。
「ああ・・・。久しぶりに懐かしい夢を見てしまってね。」
「ふふふ。出会った時の事ですね。」
恐らくは俺の精神状態を探知しどのような夢を見たのか読み取ったのだろう。ヒナもまた懐かしそうに空を眺めながら呟く。
「本当に懐かしいですね。あの頃はつっけんどんで無愛想で無感情で、何をしても嫌味しか言わないような人でしたのにそんなウィルと過ごしてもう2年も経つのですね。」
サラッと人の嫌な部分を笑顔でダメ出しするのがヒナの特技でもある。しかし悪意はない。もはや趣味と言ってもいい程ヒナが関わった人にはこういう事をするのだ。こう言うとヒナは社交的な性格をしているように思われるがそうでもない。どちらかと言うと人見知りの気がある。これはヒナと過ごすうちに分かってきた事なのだが、初めて会う人には馴染むまで少し時間がかかるのだ。
「ふっ。ヒナと過ごせば俺だってこうなってしまうよ。」
ヒナの性格を知っている俺にとってはいつも通りの会話なので気にせず発言する。
「さぁ。もう少し眠ってください。明日には学園につきますよ。」
と、そこへ、可憐だが涼やかな声でヒナが眠ることを勧める。
「ああ・・・。そうするよ。」
そう答えると、俺の意識はまた眠りに落ちて行った。
今俺たちが居るのは森の奥だ。俺の今の立場は学園の生徒なのだが学生統括会と言われる、学園生徒の規範や風紀,行事の企画運営など生徒に関する一切を任されている組織より言い渡されたある任務の帰路にあるのだ。
本来生徒にそのような任務任せることはないのだが、学園の性質上国が定めた一定水準の学力や能力の保持者には学生期間における授業や訓練が50%免除される代わりに、国の特務機関が処理しきれない雑務レベルの任務を生徒個人の能力に合わせて受け持つのだ。
では、なぜ俺がそのような任務に就いているかと言うと、エリートだからと言うわけではない!それだけは断言しておく。今までの自己分析でも出来が悪い方だと自覚している。ただ、俺が家を出る前に受けた英才教育と言う名の元での強制学習や訓練によって学園で学ぶ殆どを身に着けていたからに過ぎない。
これだけは良かったのか悪かったのか判断に困る所だが・・・・・・
そうする内に朝が訪れたようだ。
「おはよう!ヒナ。」
「おはようございます!ウィル!」
朝日に照らされるヒナはとても綺麗だ。陽に当たり輝くのは地に届きそうな程伸ばされた翡翠のような色彩の髪,透き抜けるような肌は触れれば割れてしまいそうなガラス細工を連想する。それでいて整った顔立ちと黄金律で作り上げたようなプロポーションが相まって彼女が人間ではなく精霊なんだと改めて思い至る。
学園に隠れファンがいる程なのだから・・・
ヒナの笑顔で朝を迎えるのはもはや日課だった。
「もう少しで学園専用の転移陣ですね。頑張りましょうウィル!」
そうやって歩くこと2時間弱ようやく転移陣の前にたどり着いた。
今回の任務は特に達成期間は設けられていないのだが、自分の性格上面倒な事は早く片付ける主義のため、指定された事だけ行い帰ってきたのだ。
「はぁ・・・。気が重いな。」
「まぁまぁ。そう言わずに。」
一人心の中でゴチたつもりなのだが声に出ていたようだ。学園に着いた後の報告などを考えると本当に気が重い。しかし報告まで済ませなければ任務完了にはならないのでやらざるを得ない。
そしてヒナが俺の気持ちを察しながらも軽やかな口調で告げた。
「うふふ!それでは行きましょうか!!!」




