アイアム無印仮面
見下ろす手の中には舞踏会の招待状が。
宛名は【アーデルベルト・ベッカー】と、確かに俺の名だった。
愛着はもっていない。
無理もないんだ、まだ生まれてもいない。
大理石に響く高価な革靴の音。
気品のある佇まいは容易いものだ。
なに、見よう見まねで学べばいい。
五体満足のこの体があれば、俺は華族にだって、騎士にだってなれる。
「アーデルベルト・ベッカー男爵、本日はお忙しい中ご出席いただきありがとうございます」
受付の女性は、招待状を受け取り記帳を促してくる。
何一つ疑ってはいないのだ。
【アーデルベルト・ベッカー】
俺は今、一人の男の仮面を被る。
「今日はいい夜になりそうだ」
彼女はお辞儀をし、慎んだ笑みを浮かべた。
「いってらっしゃいませ」
新しい名前かあ、
横文字のカッコイイのがいいかな。
ゴンザレス・ロドリゲス。
なんか濁点多いな。