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『ねがいをかなえる』本(1)

 傘をさして家を出る。雨の日も、サヤとサヨは神社にいた。いつものようにおそろいのワンピースを着て、社の軒下で寄り添うようにうたた寝している。

 近くにはいつものバスケットが二つ並んでいて、寝ているサヤの手元には、難しそうな厚めの本があった。

 雨は上がりかけていたので、傘をたたんで雨粒を払おうとすると、傘を震わせる気配に、サヨがぱちりと目を開けた。お姉ちゃん、とサヤを揺すって起こす。傘をたたむのが面倒になって、広げたまま足元に置いて声をかけた。

「おはよう。今日は本を読んでたの?」

「うん。お父さんの部屋にあったんだよね」

 サヨがサヤに目を合わせながら答える。明らかに子供向けではない表紙に少し驚く。

「難しそうな本を読むんだね」

「うん、ちょっと難しい」

 そう言ってサヤが困ったように目を細めた。でも、とサヨは楽しそうに目を輝かせる。

「願いを叶える方法が書いてあるんだって」

 サヤの手にしている本を覗き込む。難解な文章だけが続く、眺めているだけで眠くなるような大人向けの本だった。思考を現実化させるとか、引き寄せるための法則とか、自分には理解できない内容だった。女の子が願いを叶えるために読む本には見えない。

「私達もよく解らないけど、願いごとを、引き寄せる方法っていうのがあって、叶えたい願いごとは、もう叶ったみたいにふるまってると本当になるんだって」

 サヤの説明に頭を抱える。『願いごと』を『引き寄せる』という時点で、言葉として理解できなかった。

「どういうこと? 意味が解んない」

「たぶん、願いごとが叶ったフリをすればいいんだって」

 曖昧に理解しながらも、サヨは楽しそうに笑った。うーん、と腕を組んで考える。

「難しいなあ。車屋さんになりたいなら、車屋さんのフリをするのか。どんなフリ?」

「トモヒコくんの願いごとって、車屋さんになることなの?」

「なんとなく、いろんな車に乗れそうだから」

 サヨの質問に答えると、今度はサヤが申し訳なさそうに聞いた。

「車屋さんのって、売る車だから、自分じゃ乗れないんじゃない?」

「うーん、乗ってから売ろうかな。でも、免許取れるようになるまであと六年あるのに、子供のうちからどうやって車屋さんのフリをしたらいいんだろう。僕が子供店長みたいなフリしてたら、願いごとが叶う前に、周りにびっくりされるよ」

 どういう想像をしたのか、二秒ほどしてサヤが吹き出す。それにつられて三人で笑った。

「そうだ、今日もポテトサラダのサンドウィッチ作ってきたよ」

 思い出したようにサヨが手をぱちっと叩く。いつかポテトサラダの話をしてから、時々二人はポテトサラダのサンドウィッチを作ってくるようになった。

「あとはいつもの玉子サンドにキュウリとチーズ、もう一つ作ったよ。なんでしょう」

 サンドウィッチが入っているらしいバスケットを抱えて、二人がにこにこしながら答えを待つ。カツサンドって感じでもないし、甘いやつかな?

「もしかして、ジャムサンド?」

「はずれー。ジャムサンドなんて食べたことないもん。正解は」

 サヨのセリフに合わせて、サヤがそれを取り出し、二人が声を重ねて同時に言った。

「ツナサンドでした」

「すごい。なんとなく難しそう」

「前にトモヒコくんが言ってたから、作ってみようかってお姉ちゃんが言ったんだよー。ちょっとだけ難しかったよ。早起きしてよかったよね」

「え、もしかして、そのために早起きして眠かったの?」

 嬉しいような、ちょっと申し訳ないような気持ちで二人を見る。さっきの本が難しくて眠ってしまったのかと思っていた。サヤが目を細めて笑いながら言った。

「そんなことないよね。早く目が覚めちゃったの。二人とも」


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