ふたごとサンドウィッチ(2)
「それにしても、二人は買い物も自分でするんだから、すごいね」
「えへへ、私達、買い物だけじゃないよね。お掃除も、お洗濯も、お料理もしちゃうよね。そうだお姉ちゃん、私が作ったフレンチトーストって、お父さん食べてくれたのかなあ? あれ、今までで一番上手に焼けたんだけど」
「私が焼いたのより、きれいに焼けてたもんね。お父さん、あっため直して食べてたよ。忙しかったから、食べてすぐ行っちゃったけど」
「もう、お父さんもお母さんもなんとかして欲しいよねー」
そう言いながらサヨが無邪気に笑った。いつもサヨは本当に嬉しそうに笑う。弁当の玉子焼きを飲み込み、会話に加わった。
「お父さんって、どこも忙しいんだね」
「トモヒコくんのお父さんも忙しいの?」
なぜか嬉しそうに聞いてくるサヨに、うん、とうなずいて一気に話す。
「帰ってこない日ばっかりだよ。帰ってきても、僕が寝てからだったりで、全然顔なんか見られないから、うちのお母さん、顔を忘れないためにって、お父さんの写真を、ごはん食べる時テーブルに飾るんだよ。なんとなくヘンだよね。ごはん食べるとこに置くなら、ソースとかフリカケでよくない?」
なんとなく、のところでサヨがまた笑い出す。サヤまでも飲みかけの水を吹き出しそうになっていた。
「なんだ、そうなんだ。みんな忙しいんだねー」
サヨがサヤの手を取って、踊り出しそうなほどごきげんで笑う。
サヨは不安になりやすいみたいだ。サヨが不安そうな顔をすると、サヤと自分がサヨを笑わせる。それはこうだよってサヤに教えられたり、僕のうちも同じだよって言われたりすると、すごく嬉しそうだった。サヨはサヤに目配せして笑う。
「でも、トモヒコくんとこ、ヘンじゃないよね。私も、お父さんの写真持ってるよ。お姉ちゃんも持ってるし」
「え、そうなの?」
ヘンじゃないのかな、と首を傾げていると、サヨは自分のバスケットから手帳を取り出し、そこから小さな紙片をつまんでみせる。それは一般的なサイズの写真とは違っていて、よく見ると半分に切ってあるからだと解った。写っているのは、お父さんと思われる大人の男の人と、その前に立っているサヤだった。あ、と思わず声が出る。
「これってサヤちゃんだ」
「あたりー。私がお姉ちゃんの写真を持っていて、お姉ちゃんは私の写真を持ってるの。お母さんも写ってるけど」
「なるほど、サヤちゃんがこの半分を持ってるのか」
写真から顔を上げ、サヤを見ながら聞いた。目を細めてうなずいたサヤも、もう片方の写真らしき紙片を一瞬ひらひらさせて、すぐにバスケットに隠してしまう。
「でも、恥ずかしいからだめ。トモヒコくんのお母さんの写真見せてくれたら、見せてもいいよ」
「え、それだけは勘弁して」
お父さんの写真はいいけれど、お母さんを見られるのは、なんとなく恥ずかしかった。そういうのは男子だけだと思っていたけれど、そうでもないらしい。
「あ、でもね、サヨ」
サヤが思い出したように言う。サヨは目をくりっとさせたまま、サヤの言葉を待った。
「トモヒコくんとこと違って、私、さすがにサヨの写真見ながらごはんたべたりしないよ?」
サヤが目を細めて笑うと、もう一度、三人で笑った。