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ふたごとサンドウィッチ(1)

 蝉の声が八方から降り注ぐ。杉の木に囲まれた社の階段に腰掛けていると、蝉時雨ってこんな感じなのかなと思う。

 サヤとサヨは、いつも小さなバスケットにサンドウィッチや飲み物を持ってきていた。それが羨ましくて、自分も弁当箱を持ってきた。サヤとサヨはそれが珍しいかのように、弁当箱を覗き込んでいた。サヤとサヨが持ってきていたのは、玉子のサンドウィッチと、キュウリとチーズのサンドウィッチ。あとは果物を持ってくることが多かった。

「ふたりともサンドウィッチ、好きなの?」

「うーん、好きっていうか、得意、かな?」

 サヨが目をくりっとさせながら答える。自分が持ってきた弁当と違って、二人が作ってくるサンドウィッチは大人っぽくてかっこいいように見えた。柄やキャラクターの入っている自分の弁当箱が少しだけ気恥ずかしい。

「いいなあ。僕は作れないよ。っていうか、お弁当って作られちゃうから、嫌いな物とか入れられてけっこう困るんだよ。そういうの、ない?」

 サヨが答えに困ったように不安げな顔になる。サヤがサヨの手を握って、言い聞かせるように笑いかけた。

「ほら、私達は女の子だし」

「……だよねー、私達、女の子だし、自分達で作っちゃうんだもん。トモヒコくん、何が嫌いなの?」

 ぱっと笑顔になったサヨが目を輝かせて聞いてくる。サヤも人の好き嫌いに興味があるのか、上目遣いで自分を見た。少し迷ってから、正直に答える。

「うん、実は、なんとなくネギが苦手でさ。野菜炒めとか、ポテトサラダに入ってると、なんとなくがっかりする」

 二人がきゃいきゃいと笑う。なにそれー、とか、またなんとなくだー、とか言いながら。ひとしきり笑ったあと、サヨは思い付いたように小さく手を叩いてサヤに言った。

「そしたら、今度はポテトサラダのサンドウィッチ作ってこようよお姉ちゃん。玉ネギが入ってないの。……どうかな?」

「ん、できると思うよ」

 うなずいたサヤが目を細めて微笑む。ちょっと不安そうな顔でサヤの返事を待っていたサヨは、目をくりっとさせながら、両手を上げて喜んだ。

「わーい!」

 サヨがあまりにも嬉しそうなので、こっちが喜ぶタイミングを失ってしまう。好みに合わせて作ってくれるんだから、喜んでみせるのはこっちなんだけど。

「じゃあ、今日はじゃがいも買って帰ろうか」

 キュウリのサンドウィッチを手に取ったサヤが笑顔で言うと、玉子のサンドウィッチを両手で持ったサヨが心配そうに聞いた。

「どこで買うの? 駅を越えたところ?」

 神社のそばにもスーパーはあるのに、わざわざ駅を越えたところにある店に行くのなら、サヤとサヨは駅の向こうに住んでいるんだろうか。

 尋ねてみようと思ったけれど、弁当のほうれん草をもごもごと噛んでいたので、黙ったまま二人の話をなんとなく聞く。

「そうだね、今日は逆に、梅の木がある歯医者さんの向こうに行こうか」

 一瞬考えるような顔をしたサヤが、軽い感じで答えた。梅の木がある歯医者さんなら知っている。梅鷲町にあるとはいっても駅からは遠くて、この神社からも遠い。二人の家が駅の向こうなら、逆方向だった。

 ここに遊びに来ているのに、どうして遠い所で買い物しようとするんだろう。全部違う方向にある店なのに。それでもサヨは、サヤの提案になんの不安も抱かなかったらしく、嬉しそうに笑って同意した。

「うん!」

 女の子は買い物が好きみたいだからなあ。女の子ではないけれど、自分の母親のことを思い出し、二人にいちいち聞くのをやめて素直に誉める。


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