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サヤ(2)

「噓ばかりついていました。サヨは悪くないんです。私が噓をつかせていました」

「僕はなんとも思ってないよ。騙されたなんて思ってないし、誰が悪いとか考えたこともないよ。サヨちゃんだって、サヤちゃんがいたからあんなに嬉しそうっていうか、楽しそうだったんじゃないかな。実際楽しかったし」

 のんびりと言う智彦先輩にかぶりを振る。サヨに与えたのは、噓ばかりだった。

「そんなことはないです。私が余計なことをしなければ、サヨはもっと早く、救われていたんです。私が、歪ませてしまったから」

「……あの本だよね、願いを叶える方法が書いてある本。あの時二人が、何をお願いしていたのかやっと解った。サヤちゃん達も言ってたよね。『願いごとは、もう叶ったみたいにふるまってると本当になる』って」

 申し訳なさと恥ずかしさで言葉が出ずに下を向く。智彦先輩は少し悲しそうに続けた。

「二人は、本当の双子の姉妹になりたかったんだね」

 視線を落としたままうなずく。

「はじめから二人は、綾部沙也ちゃんと野口小夜子ちゃんだった。僕は双子だって思い込んでたから、ずっと勘違いしてた。調べてみても、そんな双子はどこにもいなくて、キツネに化かされたか、夢か幻なのかと思った。でも幻じゃなかった。君はいた」

 智彦先輩は少しほっとしたように笑った。化かすつもりはなかったけれど、噓をついていたのは確かだ。責めているんじゃないよと言いたげに、智彦先輩は心配そうな目をして続けた。

「よく考えれば不思議だったフレンチトーストの話も、お父さんはみんな忙しいんだって不思議に思わなかった。僕の父もそうだったから。いつだったかサヨちゃんは、自分が作ったフレンチトーストをお父さんが食べたかどうか、サヤちゃんに聞いてたよね。僕は、サヤちゃんが早起きして、サヨちゃんは寝坊したから、お父さんが食べるところを見なかったのかなって思ってた。でもそうじゃなくて、サヨちゃんが聞いたのは、『サヤちゃんのお父さんが、二人で作ったフレンチトーストを食べたのか』ってことだったんだよね?」

「……そうです。あの時サヨが言っていたのは、私の父の話でした」

 フレンチトーストと言われて、やっとなんの話なのかを思い出した。忘れていたことも、智彦先輩の話で鮮明に記憶がよみがえる。

「私のところもサヨのところも留守がちな家だったので、いつもお互いの家を行き来していたんです。あの時は私の家で夕食を作って、フレンチトーストが上手に焼けて、『あとでお父さんにもどうかな』ってサヨが言いました。私の父は時々しか帰ってこなかったんですが、あの日はたまたま帰ってきたので、サヨの焼いたフレンチトーストを温め直して、夕食にって出してあげたんです。父はまたすぐ出かけて行ってしまったけど」

「ああ、『食べてすぐ出かけちゃった』って、朝じゃなくて夜の話だったんだ」

 智彦先輩が手を打ってのんびりと言う。よく覚えているなあと笑ってしまう。やっぱり、その頃からトモヒコくんも違和感があったんだろう。

「あの本を見つけたのもサヨなんです。私の父の部屋を二人で掃除していたとき、サヨがはしゃぎ始めたんです。魔法の本みたいだよって」

 なんだかよく解らない、大人の読む自己啓発本。子供向けの本なら本気にしなかったと思う。でも、小学生より頭のいい、現実的な思考をするはずの大人が大人のために書いて、ベストセラーになった本。書いてあるとおりにすれば、きっとどんな願いも叶うはず。

「あの手の本のアオリってすごいよね。『全てが手に入り、人生が変わる!』とか、『叶わない願いなど存在しない!』みたいなさ。それにしても、二人とも、本の内容をよく理解できたよね。僕はいまだに無理だよ」

 智彦先輩が笑う。つられて少しだけ笑いながら言った。

「ちゃんと理解していれば、あんなことにはならなかったと思いますよ。一部分だけ強引に解釈して、双子でいたんです。双子になりきることでその現実を引き寄せるから、本気で信じないと叶わないから、すでに叶ってるようにふるまって、なりたいものになりきることしか考えていませんでした。だから、その邪魔になるものはなるべく排除しました」

 噓をつくのは怖くなかった。問題は、それにサヨを巻き込んでしまったこと。

 のんびりと智彦先輩が言った。

「二人が買い物に行くときも、どうして方角の違う遠い店に行くのか不思議だった。この神社の近くにも大きなスーパーがあったのに。でも逆だったんだね。自分の家の近くには、二人で行きたくなかったんだね」

「はい。私やサヨを知っている人達に会うと双子ではいられないし、面倒でしたから」

「だね、僕なんか何もなくても近所のおばちゃんが面倒だったよ。湯川さんとこのトモヒコくん、今日はお母さんどうしたの、学校は楽しい? 将来の夢は? とか。将来のことなんか答えられる小学生なんている? 高三の今でも答えられないのに」

 ちょっと本気っぽく智彦先輩がぼやいた。思わず吹きだしそうになる。それは、大丈夫なんだろうか。


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