トモヒコ、小六の夏(2)
「ここ、いいところだよね」
向かって右側にいた女の子が言った。よく見ると、右側の子は目がくりっとしている。なんて答えようかと言葉を探していると、目のくりっとしている方の子はちょっと焦ったように左側の子を見た。そんな二人を観察しながらゆっくりと答える。
「そうだね。だから、なんとなくいるんだよね」
こっちの言葉にのんびりした雰囲気を感じとったのか、左側の女の子が小さく吹き出した。それを見て安心したように、目のくりっとしている方の子も、楽しそうに笑って言う。
「そうなの。わたしたちも、なんとなくいるんだよね」
自分の言葉を拾ってくる女の子に、親しみを示すように笑ってみせる。現実的なことをいろいろ聞いても仕方がないし、こっちもあんまり聞かれたくない。ただ、二人の区別くらいははっきりしてもいいんじゃないかなと思って、まずは自分が名乗ろうと思った。
自分のことを『僕』と言おうか『俺』と言おうかちょっと迷う。見知らぬ女の子に『俺』と迷わず言えるほど大人でも野性的でもなく、親や学校など周囲に応じて使い分けていた。
この場所と今の状況に現実味がなくて、親や学校の男子達とも接点がなさそうなので、なんとなく自然に『僕』になっていた。
「僕はトモヒコ。なんとなく思ったんだけど、二人は双子のきょうだい?」
なんとなく、のところで、二人がころころと笑う。『なんとなく』がウケるかも、という手応えを密かに摑んでいると、二人は恥ずかしそうに目配せして、目がくりっとしている子が嬉しそうに笑った。
「えへ、わかっちゃった? わたし、サヨ。お姉ちゃんが」
「サヤ」
お姉ちゃん、と言われた左側の女の子もほんのりと笑顔で言った。見わけがつかないほどそっくりというわけではないけれど、名乗ってもらってやっと二人の区別がついた。
『お姉ちゃん』と聞いたせいか、『サヤ』はちょっとだけ大人っぽく見える。顔のつくりというより、話し方や性格でそう見えるのかもしれない。つねに穏やかな表情で、『サヨ』ほどはしゃがない。二人とも全く同じ髪型なのに、長めの髪も大人っぽく見える。
妹の『サヨ』は姉に比べてちょっと快活で、それが表情に出ているみたいに目がくりっとしていて、少しだけ幼いような印象だった。明るいけれど気が強いわけでは決してなく、姉のサヤにくっついていることで、安心してはしゃいでいるみたいだ。
「仲がいい姉妹だなあ。いつも一緒だよね」
「うん!」
サヨはなんだか、すごく嬉しそうに笑った。