娼館の中の人
連れて来た男たちに言われたとおり、女の子は部屋で待っていた。裏口から通されたそこは格調高い部屋だった。
ドアは開けっ放しだったが、形式的にノックする音で部屋を眺めていた女の子は振り返る。そこにいたのは10を幾つか越えた少年。
「やあ、君、新しく入った子?」
コクコクと女の子は頷く。
「これからよろしくね。オレはソージィ。ここで働いている古株」
女の子は不思議そう表情でソージィを見る。
「え? 娼館でオレが何をしているかって? オレも客相手に身体売っているかって? んなわけ無いじゃん。じゃあ、下働き? 使いっ走り? 用心棒には見えないわけ? ん、まー、用心棒じゃないけどさ。とりあえずこっち来て」
ソージィは娼館の奥へと進んで行く。
「ちょっと、待って・・・」
女の子は慌ててソージィの後を追って、娼館の奥に足を踏み入れる。
ソージィは女の子が追い付いてくるのを待って、歩きながら話す。
「あの部屋は商談の場所」
商談と聞いて、少女はまた不思議そうな顔をする。
「しょうだん?」
「そう」
「しょうだんってなに?」
女の子の質問にソージィは喉で笑って答える。
「商談は・・・いろんな人と話す場所、かな。娼館だからって何もいかがわしい部屋ばかりじゃなくて、社交の場も提供しているんだ」
「へえ~」
「ここは魔法の国イストルだからね。盗み聞きや覗き見の魔法を気にせずに話せる場所が少ないんだよ」
「へえ~」
女の子はよくわからないまま相槌を打つ。
「この国は魔法でなんでもできるんだ」
「そう。この国は魔法でなんでもできる」
女の子の言葉で他国出身だと判断したソージィは悪戯を思いついたように目を輝かせる。後を歩く女の子はそれに気付かない。
ソージィは他国の者にこの国の話をするのが好きだった。皆、アッと驚くその顔が面白い。残念ながらそういう機会は少ないので希少だったが。
しかし、他国の者にこの国の話をするのが好きなのはソージィに限ったことではない。イストルの者はすべて自国に誇りを持っており、いささか持ちすぎて過剰気味でもある。
「だから、君もオレもここで働ける。君はどうしてここで働くことになったの?」
楽しげに話していたソージィは振り返らずに尋ねる。後半は気遣っているのか、声のトーンは抑え気味だ。
「人さらいにあったの・・・」
「ふうん。他国はおかしいから、よくわからないけど、人を攫ってどうするつもりなんだろうね?」
ソージィは興味なさげだ。
「・・・?」
自分も年上のソージィにもわからないことだったので、女の子は首を傾げて考えながら歩く。
「ほら、着いたよ。ここでオレたちは人形に魔力を入れる。その人形が客の相手をするから、オレたちはこのドアから出ちゃ駄目なんだ」
その部屋には幾つかの扉があり、続き部屋になっているようだ。
部屋の中には上はソージィよりやや年下の子から、下は女の子よりも年下の子まで20人弱の子供たちがいた。
外に出てはいけないと言ったソージィ自身が何故、商談の場所まで来ていたのか。女の子がその疑問を尋ねる間もなく、ソージィが手を叩く。と、子供たちはこちらを見る。
「みんなー、注目ー! 新しく入った、・・・えーと、名前なんだっけ?」
名前を名乗ろうとしなかった自分も悪いが、聞こうとすらしなかったソージィに胡乱な目を向けながら女の子は名乗る。
「サミー」
「サミー?」
聞き返され、女の子は頷く。ソージィは言い直す。
「サミーだ。皆よろしくな」
子供たちは歓声を上げて女の子に駆け寄ってくる。
人攫いから助け出されて保護されたものの、帰る場所のわからない女の子はようやく緊張を解く。何故なら、ここには自分と同じような年頃の子供が笑顔でいるから。
女の子は知らない。
ここは魔法の国イストル。
魔法の国の娼館で客の相手をするのは魔法人形たち。
魔法人形に動力となる魔力を込めるのは魔力の多い魔法使いの卵たちの仕事。
女の子はたまたま魔力の多い子だったので、そこで生活することになったことを。
魔法使いの卵として修行させられていることを。




