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女嫁ぎしに文したためること

作者: 雪瀬ひうろ

 (原文)                   

 今は昔、男ありけり。あやしきもののふの、あららかなる子なりけり。また女ありけり。女も男のごとくぞあららかなりける。あてなき家の子、みそかに遊びけり。なれども、ある日むつめることあきらめらるに、あながちにぞかられける。その後、共にじかに見ゆべからざりけり。

 男、ねぶるままにゆゆしくたけくなり、身を立てけり。(いくさ)にて無数の首とりにけり。女、あらぬ家に嫁ぎけり。されども、男あらわれざりけり。女、うた一首のみの文したため、わたしにけり。


名にし負ふ忘れな草をつみにけり忘るる君はつみになるらむ


 男もまたうた一首のみの文をよこしにけり。


誓いてし幼きころとことなるは我が手を濡らすあしき血ばかり


 女ただ袖をぬらしにけるなり。






(現代語訳) 

昔、男がいた。身分の低いもののふの子で、やんちゃで暴れん坊の子だった。また女がいた。女も男勝りのやんちゃものであった。女は貴族の娘であり、(二人は)周りの目を盗み、こっそりと遊んでいた。しかし、あるとき二人で遊んでいたことが露呈し、強引に引き離された。それ以来二人は直接会うことはかなわなくなった。

 男は成長するとめきめきと力をつけ、出世した。戦場で数々の首級をあげた。女は(男の家とは)別の家に嫁ぐ事になった。そうなっても男は(女の前に)姿を現すことはなかった。女は(男に)ただ短歌一首のみをしたためた文を書いて、送った。


名にし負ふ忘れな草をつみにけり忘るる君はつみになるらむ

〈「忘れる」という意味の名前を持っている忘れな草をつみましたが、(私のことを)忘れてしまっている君はつみをうけているのでしょうか〉


 男からもまた一首のみが書かれた文が返ってきた。


誓いてし幼きころとことなるは我が手を濡らすあしき血ばかり

((将来を)誓った幼い頃とは異なっているのは、私の手をぬらしている悪い血だけだ)


 女はただ袖を濡らしたという。



※古語に誤りがある場合があります。ご了承ください。

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