蟄居者a
壱拾畳程のspaceに漫画から小説、技法書、資料、参考書やら週刊誌、月刊誌、問題集、対談集等々の書籍が乱雑混雑とし堆く櫛比した模様は宛がら高層buildingが連立する街である。
漆黒の宙空を微かに照らす蛍光灯の残滓を、ぼんやりと眺め乍ら畳に敷かれた布団の上で仰臥する青年。
(尤も、ここの床はflooringである。
連結した四畳がmattress的用途からflooringの壱部に敷かれているのだ。)
彼は弐十弐歳だった。ヒッキー、フリーター、ニート等と時代変遷によって呼称の流行はあるにしろ、詰まり無為徒食の蟄居者である。
緩やかにM字を描く低反発性枕の付近に幾つかの磁器式cardが散らばっている。
格差社会の誘因剤として時に討論のkey wordにもなる派遣業務会社の大手数社名が記載された磁器式cardが目立つ辺り、両親の資本許りを彼は糧にしていないらしかった。
反対派の弾圧が増す一方のcigarette boxに手を伸ばすが生憎、空だった様である。
続け様に彼は暗闇に輪郭を僅かに映す灰皿を瞥視したが自尊心から、その卑賤的行為は否定しかった。
再度、薄まりつつある蛍光灯の残滓に視線を固定する。
面皰が密集し、ざら付いた肌を指先で軽くなぞる。
弐年前には想像が及びもしなかった筈の老化現象である。
偏えに弐年前、彼の嗜好に喫煙は存在しなかった。
紫煙と私怨は比例し朋友に喫煙者は存在し得なかった。