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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
青い傘と黄色いレインコート
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2学期

 山小屋から帰還した彼を待っていたのは?みんな無事でよかったね!

 私が目を覚ますと、そこは白い霧に包まれた世界だった。

 えっとマジカント?


 「違うわよ!」


 私の頭を軽く拳骨するお姉ちゃん。


 「痛い!お姉ちゃんがぶった!」


 「もう、そんな大げさな」


 お姉ちゃんがあきれたように私に微笑む。


 「久しぶりね」


 私は首を傾げる。

 あ、そうだ。お姉ちゃんはあの事件に巻き込まれて死んだはずだ。

 会えるはずなんてない。


 私が状況を飲み込めずに辺りをキョロキョロ見渡していると、昔のままのお姉ちゃんが私を抱きしめてくれた。


 「もういいのよ。もう私の為なんかに苦しまなくていいから」


 姉の目から涙が溢れる。


 「お姉ちゃん、私、がんばったよ」


 姉が背の高くなった私の頭を撫でながら何度も頷く。


 「知ってる。ずっと見てたから」


 姉にはたくさん伝えたい事がある。

 悲しい事はたくさんあったけど、嬉しい事もそれなりにあった。


 「お姉ちゃん、私ね」


 ずっと頷いていた姉が今度は首を横に振る。


 「うん。後でね。後でいっぱい聞いてあげるから今は

・・・・・・」


 姉が私との距離を空け、辺りの霧が一層濃くなる。


 「お姉ちゃん!私ねずっとお姉ちゃんの方が生き残るべきだと思ってたの!私なんかよりお姉ちゃんが生き残っていた方が価値があったと思う。私は何をやらせてもダメだし、勉強も運動もお姉ちゃんにかなわない!だから、私!」


 遠ざかっていく姉が、呆れたようにこちらに歩いてきて額を勢いよくぶつける。痛いっ!


 涙目の私に言い聞かせる様に指を立てるお姉ちゃん。


 「ううん。それを言うなら、あなたの方が生き残る価値はあった。だから私頑張ったんだからね!」


 全力で私はそれを否定する。


 「貴女は気づいていないだけ。私に劣等感なんか抱く必要なんて無い。私は尊よりもほんの少し器用だっただけ。一定以上の事は優秀でも、そこから先に進む才能も意志も併せ持ってはいなかった。あなたは自分でダメだと思いこんでいただけ。今、貴女の才能は空中をさまよっているだけ。それに貴女が気づいて、その一つ一つを繋ぎ合わせる事が出来れば、貴女は私なんかよりも上にいける」


 姉が私の額に背伸びしてキスすると、両肩を持って顔を引き離す。


 「世の中は理不尽で、怖いものばかりかも知れない。でも大丈夫、私はいつでも貴女の背中を見守っているから。前だけ向いて進みなさい。お姉ちゃんの最後のお願いよ」


 私は涙声で姉の名前を呼ぶ。


 そして嬉しそうに反対方向に振り返ると、後ろで手を組んで軽い足取りで歩いていく。


 霧がお姉ちゃんを包み込む間際、思い出した様にこちらに振り返る。


 「あ、尊はそそっかしいから念の為に言っておくけど、間違ってもこっちに歩いて来ないでね?ここは恐らく死者と生者が交錯する境界線。八ツ森の結界が作り出した偶然の産物。貴女が進むべきは生者の世界。彼が貴女を待っているわよ。あと、これは私からのプレゼント・・・・・・」


 ウィンクして、元気よく手をこちらに振る。

 その手は姉自身が自ら切り落とした手。


 ありがとうお姉ちゃん。

 私、この命、無駄にしない。

 

 私は立ち上がり、泣きながら彼の待つ世界へと歩き出した。


 遠くからお姉ちゃんの泣き声が聞こえてくる。


 いつもそうだ。


 お姉ちゃんはいつも私の前ではやせ我慢する。

 年も変わらない妹の為に。


 もう私は死ねない。

 

 *


 僕の聴力が次第に回復の兆しを見せ始めた頃、病院で残りの夏休みを消化した僕等は二学期が始まった学校へと登校する。


 個別の集中治療室に運ばれた僕と杉村は、久しぶりに学校で再会する。


 校門前で待っていた杉村が右足を引きずりながら僕に抱きついてくる。痛めた左肩と折れた鎖骨に激痛が走るがそれを必死に我慢する。


 あの後、僕等がどうなったかは気を失っていたので知らない。気がついたら病院のベッドで眠っていた。


 杉村の左手と右足には包帯が巻かれていて、痛々しい。

 杉村が涙目で僕の眼をのぞき込む。


 その白く綺麗な顔に、いくつもの傷跡と痣が浮かんでいた。

 僕を助ける為に彼女の顔は傷ついてしまった。


 僕の聴力はまだ完治していないので言葉を話すのも困難だ。

 ちゃんと発声出来ているか心配だけど僕は杉村に礼を言う。


 彼女が小屋に駆けつけてくれ無ければ、目出し帽の男に脳天を割られていたからだ。


 「杉村、ありがと。助かったよ」


 その言葉を聞いて杉村が再び僕を抱きしめる。鎖骨がすごい痛い。

 それはともかくとして、僕のこの一ヶ月間の心配事は日嗣姉さんがどうなったかという事だ。ずっと心配していたけど、事実を確かめるのが怖い気持ちの方が強かった。正直、耳がほとんど聞こえない事を理由にそこから逃げている。


 校門前で僕らがイチャついて(?)いると、正面玄関から田宮稲穂がやってきて僕に拳骨げんこつを頭から降らしてから抱きしめられる。

 クラスメイトにもこの事は知れ渡っているらしい。


 って、また左肩と鎖骨が軋む音が体内から聞こえてくる。やめてぇ!

 しばらく田宮に抱きしめられた後、後ろから心理部のメンバーである若草と佐藤も合流する。


 佐藤は顔を赤くして何かを訴えている。


 「(私は石竹君を抱きしめないわよ!)」


 といったところだろう。

 その代わりに若草が僕の怪我してない方の肩をバンバンと叩いてくる。

 

 早速、山小屋での出来事を確認したいが、僕の体に気を使ってくれているのか聴力が回復するまでお預けだそうな。


 授業が始まるので、僕と杉村は足を引きずりながら下駄箱を目指す。


 校舎の中に入ろうとするが、人だかりが出来て入れない。


 僕の事に気づいた一人が僕の名前を呼んだようだ。

 その声が周りに伝播していき、その人だかりが全員こちらを向く。


 なんだ?


 そしてその人混みをかき分けて、一人の少女が僕の前に現れる。


 誰だろう。見たこと無い顔だ。

 転校生かな?


 この学校の生徒は本当に転校生の美少女に弱いらしい。

 彼女が僕に軽く会釈をすると、その長い黒髪が艶やかに揺れる。


 軽く僕の体を全身見回した後、気の毒そうな顔になり、猫目がちな瞳に涙を溜めている。


 僕は同情される言われは無いので、それに構わず、僕は体を引きずりながら教室へと向かう。


 それを後ろから引き留める杉村。

 そっち、怪我してる方の肩だから!


 杉村と転校生が何かを話している。


 聞き取りにくい僕は自分の状態を説明する為に声をあげる。


 「初めまして、2年A組の石竹です。今、耳が聞こえにくい状態ですので、何か用件があるなら紙に書いて貰えませんか?」という旨を伝えられたと思う。


 その言葉を受けて、驚いたような顔をして、杉村と顔を見合わせる転校生。ん?二人は知り合いか?


 杉村が何かを示す様に。

 胸元を指さす。


 ん?杉村の胸?


 僕はそれにつられて杉村の左胸に手を置く。

 しばらく硬直状態を保っていた杉村の顔がどんどんと赤くなっていく。


 そんな僕を見て、転校生の女の子が僕の頭を呆れながらはたく。


 痛い。


 いや、仕方ないか。


 そして杉村がぎこちなく自分の左胸ポケットから一枚のカードを取り出す。それはタロットカードの様で、<月>の絵柄が描かれていた。


 反射的に僕も自分の胸ポケットから一枚のカードを取り出す。


 これは<隠者>のカードだ。


 周りを見ると、心理部の佐藤と若草もそれぞれ<太陽>と<審判>のカードを手に掲げていた。


 前を見ると、それに気づいた転校生の取り巻きがそれぞれの所持するカードを手にしていた。


 あ、普段の制服姿で分からなかったけど、この人達は「星の教会」の会員さん達なんだ。


 ん?それが今、なんで関係しているんだ?


 転校生が呆れたような顔をして、制服の胸ポケットから同じように一枚のカードを取り出した。


 見覚えのあるカードだ。


 ある事を思い出して、転校生のカードの柄を確認する。

 そこには<星>を示す柄が描かれていた。


 黒目がちで、奇麗な猫目の転校生の瞳が微笑み、ウィンクする。

 よく見れば右足と左腕には僕らと同じように痛々しい包帯が巻かれていた。


 そして何より、この百合のような甘い花の香りは・・・・・・!


 僕は驚いて、様変わりした目の前の人の名前を叫んでしまう。

 言葉になっていたかは別だが。


 「日嗣姉さん!?」


 銀色の髪から色が戻り、本来の漆黒の黒髪へと戻ったのか?!

 制服も八ツ森高校のものを着用し、喪服姿でない彼女を視るのは久しぶりだ。


 日嗣姉さんが、聞こえにくい僕の為に精一杯の感謝の印として、抱きついて額にキスをしてくれる。


 銀髪の姉さんもよかったけど、黒髪の姉さんもなかなか素敵だ。

 彼女はこうして、過去と決着をつけて前に進むことが出来たのだと思う。


 あの山小屋での一件で、僕も何かを得た様な気がする。

 聴力は奪われたけど。


 どこか暗い場所で倒れ込んでいる小さい頃の僕がいる。

 そこに、扉をぶち壊して現れる杉村蜂蜜。


 僕の近くにあった大きな影が蠢き、杉村を追いかける。


 僕と目を合わせた杉村は何かを決意したように、きつく口を引き締めてどこかに走り去っていってしまった。


 今の僕になら分かる。


 杉村はあの時、逃げたんじゃない。

 僕を助けるために囮になったのだ。


 杉村の方を視て拙い言葉で感謝する。


 「ハニーちゃん、ありがとな」


 杉村はしばらくきょとんとしていたが、何かを悟ったように「いいよ」とだけ僕に分かるように口の形で伝えてくれた。


 横には日嗣姉さんが居て、杉村が居る。

 そして周りには心理部員にクラスメイトが居る。


 森の山小屋で非日常を体感した今、この状況がどれほど恵まれているという事かを気付かされた。


 そしてこの日常を潰そうとする人間がいるなら、僕は全力でそれを阻止しようと思う。


 校舎から何名かの教員も顔を出して、僕を迎えにきてくれる。

 その先頭には我らが心理部の顧問、ランカスター先生と荒川先生が居た。


 あぁ、こりゃ滅茶苦茶怒られそうだ。

第一部 完 的な?

丁度ここが折り返し地点かも知れない。


僕等はどうなっていくのだろう。

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