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変なおじさん

友人を救う為に<太陽>と<審判>は森へと向かう。呪われし森の入り口で居合わせたのは……?お久しぶりですね。

 私と若草君はそれぞれ、石竹君が捨て置いたであろう背嚢と、杉村さんが身を軽くする為に置いた鞄を手にしてから、北白家の私有地の境界線まで戻ってきた。


 私達は私有地へ入る為に、特別に警察の許可を条件付きで貰った。


 最初はなかなか許可が下りなかったが、杉村蜂蜜さんがこの森に無断で侵入している旨を話すと緊急事態としてその電話の相手の責任において特別に許可を貰った。


 但し、条件として今から応援をよこすというので、警察の人間を待たなければならないのだ。


 その時間がやけに長く感じた。


 警察が今から人員を用意して現場に向かわせたとしても最低、1時間以上はかかると思う。


 その状況に絶望しつつ、私は若草君と森の境界線でしばらくうずくまっていた。友達を助けたいのに、助けられないもどかしさが私達を苛立たせる。


 薄暗い森の中を2人で待っていると、思いの外早く応援が駆けつけてくれたようだ。人影が向こうから近付いてくる。


 「ん?君達は確か……?」


 私達の顔にライトをあてる人物が何かを思い出すように私達の名前を口に出す。


 「佐藤さんのところの娘さんと、確か、石竹君の友達、若草青磁君だね?」


 私達2人は、同時にその人物の名前を口にする。


 「杉村おじさん!」


 私達の応援に駆けつけてくれたのは、杉村誠一さん。杉村蜂蜜さんのお父さんだった。


 「早かったですね!応援って、おじさんの事だったんですね!」


 おじさんはその言葉に首を傾げる。


 「いや、私は30分ぐらい前に匿名で連絡を受けて慌ててここまで来たんだよ」


 「匿名で?」


 「そうだ。八ツ森タクシーの本部に”杉村蜂蜜の命が危ない”って連絡が入ってね。同僚の無線を受けて急いでこの山に駆けつけたんだ」


 市内を巡回しているタクシーとはいえ、この道のりを数十分で来れるのは神業としか言えない。しかも、車が乗り入れられるのはキャンプ場の入り口までだし。40近い男性の体力とは思えない。


 「命が?杉村さんに危険が迫っているんですか?」


 おじさんが心配そうな顔つきで首を横にふる。


 「分からない。だからこうして駆けつけたんだよ。君達は?」


 「私達はここから私有地なので立ち入れなくて、警察の人に立ち入りの許可もらったんですけど、警察の人が誰かと同伴しないと入れないって……」


 杉村おじさんが私達の手元にある鞄に目を落とす。


 「それは?」


 「杉村さんと石竹君の鞄です」


 「どこでそれを?」


 私は言い掛けて、言葉を詰まらせる。

 この鞄はフライング気味に私有地の森で見つけて、途中で引き返して持ってきたものだったから。石竹君が恐らく残したであろうマーカー弾が道標になって迷うことは無かったけど、名目上警察の指示に従う為にここまで戻ってきたのだ。


 若草君が無線で呼びかけていると、人の声がしたのでそちらに向かってみたら石竹君の鞄があって、その中から若草君の自分の声が聞こえていただけだったのだけど。


 だから、二人の居場所は今分からない。


 「深くは言及しないけど、森の奥に石竹君も居るという事だね?」


 私は申し訳なさそうに頭を垂れる。


 「日嗣さんと石竹君が、昔の事件現場の小屋に向かって、それを追う形で杉村さんが後を追いかけたみたいなんです」


「日嗣さんのところのお嬢さんもか……すごい状況だね。いつの間に2人は仲良く……」


 杉村のおじさんがコートの下から1丁の拳銃を取り出す。えっ?本物?


 「君達は引き返しなさい。後は私が……」


 それを強く拒否する若草君。


 「友達が3人も危険な目にあってるんだ。このまま何もせずに指をくわえてなんかいられない!」


 おじさんが何かを思考する様に目を瞑る。

 そしてゆっくりと若草君の額に拳銃を突きつけた。


 私は動揺して、おじさんの腕を掴んで若草君の額から銃を外そうとするがビクともしない。先程までの穏和なおじさんの表情はどこにも無かった。


 「万が一にも死ぬ覚悟は出来て……」


 おじさんの言葉を言い終わらないうちに、若草君が杉村さんの鞄から銃を引き抜き照準をおじさんに合わせる。


 「殺す覚悟も出来ています」


 その意志の強さにおじさんの方が呆れたように折れる。


 「石竹君もいい友達を持ったね。まぁ、二人ぐらいなら私一人でも守れるから大丈夫か」


 若草君が手にしていた銃を下ろすと同時におじさんも銃を懐にしまう。


 「ちなみにそれ、玩具の銃だからね」


 おじさんは玩具の銃である事を見抜いていた。


 「知ってます。でもおじさんは撃つ気なんて無かったでしょ?」


 にやりと笑う若草君に降参したようなポーズを取るおじさん。


 近くに置いてあったおじさんの四角いケースが開き、何かを手際よく組み立て始める。


 「分かっていると思うけど、時間も無いし、娘の命最優先で動かせて貰う。足でまといと判断した段階でその場に置いていく。いいかい?」


 私達二人は、顔を見合わせてから静かに頷く。


 ものの数秒で、先程おじさんが手にしていた拳銃の4倍ぐらいの大きさの銃が組み立てあがる。


 「ん?珍しいかい?」


 私はその物騒な物を日常品の一部としてとらえている感覚に、杉村蜂蜜さんとの共通点を見いだす。


 「これ、普通に文房具屋さんで買えるんだけど、アサルト・ライフルのM16シリーズの最高傑作と言われるM4A1で、全長840mm、重量3480g、毎分700~970発の発射速度で・・・・・・」


 「文房具屋でそんなもの売ってねえよ!」


 と商店街で暮らす若草君が突っ込みを入れて、私は「あ、M16シリーズね」と曖昧な相槌をうつ。


 長くなりそうなので早く会話を打ち切らせたかった。


 時間が無いんですよ!


 そして、コートの懐から拳銃を2丁取り出すと、それを私達にそれぞれ預けた。


 「もしもの時は、迷わず撃て」


 私達は戸惑いつつも、どこか現実味の無い鉄製の物体を手に受け入れる。


 私のは「M9(M92FS)」というらしく若草君のは「SIG P226」という拳銃らしい。


 簡単な説明を私達は受けたあと、銃に安全装置をかけておじさんに貰ったガンホルダーを腰に装着してそれを納める。


 こんなの使いたくない。


 「どちらも弾数は15発。残弾に注意して取り扱うように。予備弾倉も鞄にあるが必要かい?」


 私達は同時に首を横に振った。


 えと、この目の前に居る人はこの町でずっと市内タクシーを運転している人ですよね?


 私達三人は、それぞれの背中に石竹君と杉村さんの背嚢を背負うと、杉村おじさんを先頭に歩き出し・・・・・・。


 「早い!」


 おじさんは歩いているつもりなのだろうけど、こっちは走らないと追いつけないぐらいに歩行速度が違い過ぎている。


 遠くの方で私達が着いてきて居ないことに気づいた杉村おじさんが、一言私達に謝る。


 「すまない、うちの娘や緑青君と君達は違うんだったね。これでは君達の保護者失格だ」


 照れた様に頭を掻くおじさん。


 杉村さんはそうだとしても、おじさんに軽く着いていく石竹君の姿が想像できない。体育でもそんな成績を残した記憶も無いからだ。


 「石竹君って、そんなに運動神経いいんですか?」


 杉村おじさんが、私有地の森の前方を警戒しながら答えてくれる。


 「いや、娘に比べたら天と地の差だよ」


 「やっぱり」


 「けど・・・・・・君達と比べたらそれなりに良い方じゃないかな?運動能力を補う様に、娘の背中を守れるぐらいのアドバイスはしたつもりだけど」


 私達は話しながら歩くおじさんの背中を、必死に走って追いかけている。石竹君、そんなすごかったっけ?


 「あ、それより、娘さんの居場所わかっているんですか?」


 若草君が疑問点を口にする。


 「あぁ、それなら常に把握しているよ」


 コートから、何かのパネルを取り出すと地図のような画面に切り替わる。


 「まさか、GPS機能?」


 「そうだ。娘にプレゼントした簪にマイクロチップを埋め込んで居てね」


 あ、筋金入りの親馬鹿だ。そう私は思いました。


 私達が呆れながらも前進して20分ぐらい経った頃しょうか。暗がりでも分かります。


 たくさんの犬の死骸が、森一面に塗りたくられるようにこびり付いていました。血の色に赤く染まる森に、私と若草君は吐き気を催します。


 そんな中、途中で力尽きたのか、川の近くで変わり果てた杉村さんを発見しました。


 杉村さんの体は、引きちぎられ、ほとんど骨だけになった状態で見つかったのです。


 私達三人は膝をつき、その結末に涙を流します。月の光を受けて、血が付着したかんざしが鈍い光を放っていました。


 

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