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新着メール:1件 (2:29)


私の知合い?なんで貴女はそんな事を?


============


[ 件名:星の女神 ] 


============


 内容:八ツ森市連続少女殺害事件、被害者、佐藤浅緋。


その当時の交友関係をなるべく詳細に教えて下さい。


どんな些細な事でも構いません。

一緒に歩いていた程度でも構いません。


私に、もしもの事があった場合はそれを「佐藤深緋」さんに伝えてあげて下さい。


夜分遅くに、申し訳ありませんでした。


============


<太陽と審判>


 私達は全員目を覚まし、八ッ森高原オートキャンプ場のスタッフルームで待機している。森への捜索の手配を進め、明日の朝一番にでも現地に向かえるように待機してくれているのだけど……。


 「どういう事だ!生徒が危険な森にいる!そんで命に関わる事態なんだよ!なんで動けない!」


 目を赤くした荒川先生が、キャンプ場の若い青年に突っ掛っている。


「ですから!キャンプ場の敷地内でしたら、我々も今すぐ捜索隊を派遣出来ますが、生徒さんが向かった先は私有地です。無断でそこへ捜索隊を派遣する訳には……」


 スタッフの襟を掴んでいた荒川先生が乱暴に男の人の襟を離すと、机の上に置いていたレシーバーを手にして部屋を出ようとする。


「もういい!私が行く!」


 それを今度は他の捜索隊の面々が抑える。


「離せっ!」


「駄目です!夜の森は危険です。ましてや貴女のような素人が……」


「うるさい!富士山なら少し登った事ある!」


「なんですかそれ!?それでも駄目です!昔から夜になるとあの辺は野犬が徘徊して危ないんです!」


「なら、尚更行かないといけないだろ!」


こんなやりとりが、何度も繰り返され、私達は結局身動きが取れないでいる。若草君は隙を見て、石竹君のあとを追おうとしたけど、荒川先生に見つかって、足を縛られている。


 その時だった。


 メール着信音が、私と若草君の携帯から流れる。その音に、周りの大人達が身構える。


 「あ、ごめんなさい。私達の携帯にメールが……」


 若草君の携帯も同じタイミングで着信がなっていたのでもしかしたら同じ人からの転送メールかも知れない。


 これは、日嗣尊さんからのメールだ。


 件名に[星の女神]とあるので、これは星の教会の教祖として信者にメールを一斉配信する時のテンプレートの様なものだ。


 その内容を確認する。


 「え?なんで?」


 なんでこのタイミングで私の妹の交友関係を信者さん達に聞いたんだろう。妹、佐藤浅緋の交友関係は私ならほとんど把握しているつもりだった。


 事件後も何か手掛かりが無いか、頭を下げて何人もの人の下を訪れた。けど、事件に結びつくものは何も得られなかった。


 この日嗣さんのメールアドレスは、タロットカードの「太陽」を渡された時に交換したものだ。同じく若草君も「審判」のカードをもらった時に交換している。


 なぜこのタイミングで、それを私に?


彼女は何を私に託そうとしているのだろう……まさか、彼女も気付いたのかな?


私はずっとあの連続少女殺害事件の犯人を北白と決めつけ、石竹君がどう妹を殺し、妹は最後に何を思っていたのかを探し続けてきた。


妹がもし、失意のうちに石竹君に殺されたのだとしたら、私は石竹君を殺そうと思っていた。もちろん、北白にはきちんと死んで貰うけど。


精神異常者の男が起こした少女殺害事件。


そう難しくは無いと思っていた。


警察の人も事件は調べていたし、私も特別に妹や石竹君の情報を提供する見返りとして捜査に参加させてもらっていた。


 あらゆる殺人事件のファイルに目を通し、北白の犯行パターン、動機などに着目し、なぜこんな事件が行われたのかという背景を探っていた。けれども、調べれば調べるほど分からなかった。


 北白の犯行パターンは、快楽殺人者における秩序型に分類されるはずなのに、北白自身の持つ性質がどうしても事件の犯行方法と結びつかなかった。いわゆる無秩序型の傾向が強い性質なのだ。


 そして、浴場にて杉村蜂蜜さんから一つの可能性を示唆される。


 当時の八ツ森市連続少女殺害事件には、北白の他に共犯者が居たらしいと。その推論は、今まで私が事件と向き合ってきた時に感じた違和感を意図も簡単に溶かしてくれた。


 北白自信は心神喪失状態で、ターゲットとなる子供を選定しつつ、自分の身の安全を確保しながら、意図的なゲームの運びなんて出来なかったはずだ。


 誰かが何かの目的を持って、北白をコントロールしていた。


 そう考えた方が色々と合点がいく。

 でも、杉村蜂蜜さんは確かにこう言っていた。


 「その事実は私しか知らない」のだと。


 日嗣尊さんは、もしかしたら自力でその答えに辿り着いたのかも知れない。もしくは何かを思い出したのか……。


 メールの最後の一文が気になる。私にもしもの事があったら。


 これの意図するところは、夜の森を石竹君と一緒に探索し、事件現場に向かった。


 だから、危険?


 青ざめている私の横に、若草君が近寄ってくる。


「おいっ、このメールって、日嗣尊を女神と崇める星の教会のメンバーに配信されてんだよな?俺は「審判」のカード保持者で、お前は」


「太陽」


「俺の見立てだと、俺達の教室を襲った犯人は膨大なネットワークを持つ人間だ。石竹や杉村の動向を簡単に察知できるような。もしかしたら、星の教会の誰かのメールがその犯人に意図せず渡ってるかも知れない」


 私の頭の中で、教室を襲った犯人と七年前の事件の共犯者が繋がった。無闇に私の妹の情報を得ようとする行為は、日嗣さんの身に危険が迫る馬鹿な行為……いや、違う。


 このメール自体が日嗣さんにとってすでに博打なのだ。


でもこれ、私も危なくない?


いや、逆か?


今、この時点で情報の流れは二つ出来た。

日嗣さんと私への流れだ。


大々的に私の名前が出てしまえば、犯人にとっては逆に手が出しづらくなる。私の存在がより多くの人間に周知されてしまったからだ。

日嗣さんはよくつまづいたり、子供っぽいところがあるが、馬鹿では無い。


このメール内容は犯人が他にもいる事に感づいたという事を自らが宣言した様なもの。


それは犯人にとってすごく都合の悪い事。


 しかし、それを探知される事を承知であえて配信したのだ。


 彼女と石竹君は、記憶の差異があれど同じ境遇にある。


 そんな2人が時間を共にして、過去の事件現場に出向く。


 更には、その後を杉村さんが追いかける形になる。


 この状況……ホントに偶然?


 両足を縛られている若草君が床を這って、部屋を出ようとするのを私がその上に乗って阻止しようとする。


 「どけ」


 「どかない」


 「あいつが、あいつの命が危ないかも知れない」


 「杉村さんを信じよ?彼女ならきっと何とかしてくれる」


 「あほか!奴がゴリラ女でも、あいつの心はただの17歳の女子なんだぞ?過去の事件と全く同じ状況下でまともに立っていられるはずなんてないんだ」


 若草君は私なんかよりも、杉村さん、日嗣さん、そして石竹君の心の方を心配していた。若草君は、私の体重が軽い事をいい事に、私を乗せたまま移動を始める。


 周りの大人達は騒ぎ合って一向に、進展しない。

 

 ふむ。


 私はそっと、荒川先生の近くに転がっていたレシーバーを握ると若草君の両足のロープを解いてあげた。


 「佐藤?」


 「野良犬が相手なら、私は杉村さんの心配はしてない。けど、もしも、私達の教室を襲撃した犯人が関わっているとしたら、ほっとけない」


 私達2人は、こっそりと小屋を抜けだした。

 テントに戻り、装備を整えてレシーバーを若草君に渡す。

 

 「これは確か、杉村さんと石竹君が通信に使う為の無線。定期的に呼びかけ続けてみて?」


 「お、おう」


 「私は、知り合いの人に連絡してみる」


 携帯を開き、私は警察の知り合いの人に電話をかけた。



<悪魔>


 本国に帰り、自宅での睡眠を邪魔するメールの着信音で目を覚ます。


 「むぅ、何?こんな時間に、メール?」


 私はそのメールの内容に困惑する。

 これは心理部員の日嗣尊さんからのメールだ。


 なんでこんな時間に?


 確か彼女達は、荒川教員とキャンプ場に行ってるはず?


 えぇ?

このメールの内容は危険すぎる。


 いくら石竹君と杉村さんが携帯を持たされていないからといって、この名前を貴女が出すのはよろしくないはずだ。


 幻の第四ゲーム。


 私は当初、その内容を知らなかった。


 本国に帰って刑事事件を取り扱う人達の伝手使って調べてみても、ほとんど何も出て来なかった。


 結局、無理矢理電話で頼みこんで、杉村さんのお父さんに第四ゲームの概要を教えて貰った。


 私はその内容に愕然としながらも、人間の持つ限りの無い「愛情」を感じた。


 八ッ森市には破ってはいけないルールがある。

 日嗣尊さんはそのギリギリのラインで情報を得ようとしている。


 一体なんのために?


 今、このタイミングで、この質問を星の教会のメンバーに流すのはおかしい。何か切羽詰まる事が、彼女自身の命に関わる事態に……。


 私は当初、荒川先生が心理部員を連れて海に出掛けるものだと思っていたけど、寸前で行先が山へと変更されていた。


 最初は気にもとめていなかったが、その決定が誰かの意思によるものだとしたら?


 ハニー=レヴィアンの身に起きている記憶の喪失。それも半身である「働き蜂」の限定的な記憶喪失。


 これは喪失というよりも、意図的なプロテクトをハニー自身がかけている、もしくはかけられていると言った方が近いかも知れない。


 この複雑な状況下で、何も起こらないはずがない。


 私は心配になって荒川先生に、ダメもとで電話をかけてみた。


 電話のコール音に耳を澄ます間、手帳に挟んである日嗣さんから貰った「悪魔」のカードを取り出す。


 これは私「ゼノヴィア=ランカスター」とあの子「日嗣尊ホシのメガミ」との信頼の証でもある。


 けど、悪魔ってひどくない?

 恋人とか、女帝とかがよかったな。


 <棍棒の10>


 「うおおおぉぉぉー!なんだこのメールは!まさか星の女神様のピンチでは?!」


 俺は居ても立ってもいられずに、布団から飛び上がる。


 と同時にもう一件、メールが入っていた。

 これは「杉村蜂蜜愛好会」のメンバーからの転送メールだ。


 何?杉村蜂蜜……月の女神様の命が危ない?







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