左の靴
幾重にも重なる屍。その燃えかすを頼りに辿り着いたその先で君は見つけた。黄金の少女の軍靴と銀色の刃。
普通の女子高生は制服にローファーを合わせるはずなのだが、彼女の場合はブーツ……しかも女性が履くオシャレなブーツとはかけ離れていて、例えば密林などの湿地を闊歩するのに適したデザインの方だ。
僕はそのジャングルブーツの片割れ(左)を抱えて階段を上がっていく。靴底にはブービートラップ対策に鉄板が仕込まれている為、やや重い。恐らくこの内臓された鉄板が活躍する日は校舎内ではやって来ないだろう。
次にもう片方の右ブーツに出会ったのは、2階から3階への折り返し地点だった。そこである違和感に気付く、先程まで散々倒れていた生徒が誰も倒れていないのだ。
「杉村が……倒された?そんなまさか?」辺りをもう一度入念に見渡す。階段から廊下に差し掛かる地点に銀色に光る物体が目の端で輝きを放っていた。
「……ナイ……フ?」
「どうしたんだい?石竹くん?」
間髪入れずに後方から声をかけられる。慌ててナイフを上から足で踏みつけてその存在を隠す。
そこには階段を上がってくる英語の教師「小川」先生が居た。この教員はアメリカ人と日本人のハーフで、その長身と健康的な容姿から女子生徒からの人気も高い。30代なのに。赤いフレーム眼鏡の奥でいぶかしむ視線が僕を貫く。誤魔化さないと。
「えと、これは……その……」
誤魔化しきれてない僕の肩を小川先生が叩く。
「もうすぐ僕の授業が君のクラスで始まるのにこうして出ているって事は……例の金髪の転校生だろ?」
素直に頷く僕。さすがもの解りがいい。が、ナイフには気付かなかったようだが。
実は、彼女の件については他の教師もその問題性を認識してはいるが、彼女の特性や立場がその問題を難しくしている。そこで、幼馴染という情報がどこかから漏れて(多分あの赤髪のカウンセラーだ)この僕に白羽の矢が立ったという訳だ。
だから僕は例外的に授業中だろうが彼女を保護する許可を公式に得ているようだ。何故かは解らないが、彼女は僕に対しては危害を加えた事は無い。あ、女生徒でも彼女は平気で叩きのめします。変わり果てた彼女に、陰鬱ないじめを仕掛けようとした女生徒が、あられも無い姿で黒板に磔にされている姿を見せつけられてから、そういうのはぱったりと無くなった。
「まぁ、たいへんだろうが、今は耐えてくれ。今日授業を受けられなかった所は、同じ部員の若草か佐藤、もしくは学年長の田宮君にでも聞いといてくれ、僕からも伝えておくよ」僕は頭を軽く下げる。歌を口遊びながら歩いて行く小川先生。なんとか乗り越えた。一度深呼吸をすると、慌てて足底にある銀色の物体を拾い上げる。そこには刃渡り15cm程度のグリップの無いナイフが鈍い光を放っていた。手元のナイフを確認すると、僅かながら血痕が付着していた。慌てて自分の指を確認するが、切れている所は無い。
という事は、誰かがこのナイフを使用して誰かを斬り付けたのだ!って、多分、僕の幼馴染だろうけど!