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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
救世主と藻。あと蜂と星。
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愛 と 真

黄金の少女と2人の青の少年。垣間見えるは過去の残像。緋の少女の片割れ、それは私?

「杉村?」


 僕と若草が温泉を出ると、入口近くの木陰で三角座りで膝に顔を埋めている杉村蜂蜜が居た。


 僕と若草は、女性陣の方が遅いとふんでいたが、違ったようだ。辺りを見渡して荒川先生達を探すが、見当たらない。


 「ろっくんと、若草君?」


 杉村が顔を伏せたまま、僕らの気配を察する。匂いで判別したのか?するりと腕が伸びてきて僕の上着の端を掴む。


 気の性か元気が無い様に思えた。


 若草が何かに気付いたのか、杉村の横に同じように座る。


 「何か風呂場であったのか?」


 若草が前方を向いたまま、杉村を気遣うように言葉を添える。


 「若草君・・・・・・私、昔っからそうなの。不器用で空回りばっかりして、そして、気がつかないうちに誰かを傷つけて・・・・・・」


 杉村は顔を伏せたまま、懺悔の様に言葉を垂らしている。


 「私は、普通に、ただ他の人と同じように暮らしたいだけなのに、私の事なんかほっておいてほしいのに・・・・・・」


 若草が、同意するように優しく微笑む。その表情は杉村には見えていない訳だが。


 「私は、ただ、ろっくんと、いつまでもこの町で遊んで居たかった。それだけなのに!」


 杉村が顔を上げて僕の方を強く見つめる。杉村が突然、僕の前から姿を消した過去を思い返す。


 そうか、杉村の意志とは関係無かったのか。

 

 若草が優しい顔をしたまま杉村を叱咤する。


 「甘ったれんじゃねぇよ。誰だって生涯平穏無事に暮らしたいに決まってる。けどな、大概それはかなわねぇんだよ!」


 杉村と僕は驚いた表情で若草を見る。


 「残念な事に、この世の中には、他人に悪影響を及ぼす奴らがいる。そいつらが消えない限り、今、この瞬間に苦しんでいる奴らは居なくならない」


 杉村が縋るように若草に答えを求める。

 「なら、私達はどうしたらいいの?もう、どんなに足掻いても、何も変わらない様な気がして」


 若草が自信満々に鼻を鳴らす。


 「俺にもわからん」


 僕と杉村は、がくっと肩を落とす。


 そして、ニヤリと怪しい笑みをこぼす若草。


 「俺から言えるのは、ただ、死ぬまで諦めるなとしか言えない。諦めなければ、いつかはそいつらに一回位は一矢ぐらい報いる事はできるだろう。と、俺は思っている」


 杉村の肩を勢いよくはたく若草。

 元気の無い、若草なりの杉村への激励だろう。


 杉村が目をこすりながら、若草にお礼を言う。

 さっきまでの虚ろな表情はもうどこにも無い。


 「ありがとう、若草君。私、諦めない。死ぬ最期の瞬間まで」


 若草が照れ隠しに、にやにやしながら目を瞑る。


 「おう。これは俺からの餞別だ。10秒目を瞑ってやる」


 「「??」」


 「お前が元気になる為には、俺の力じゃ無理だ。目の前の幼馴染の協力が必要なんだろ?」


 杉村が素直に僕の方に向き直り、僕の方を見つめたまま、小さな声で「うん」とうなずいた。


 気のせいか、頬が紅い気がする。


 僕が首を傾げていると、若草が目を瞑りながら声を張り上げる。


 「風呂場でも話しただろ?お前にそれが無くても何か一つ、気持ちに答えてやることぐらい出来るだろう?」


 杉村が若草の方を向いて、口をわなわなさせてうち震えている。


 「緑青!」


 思わず改まって「ハイっ!」て答えてしまう。


 「男を見せろ」


 「え、それって」


 杉村と僕の視線が交差する。

 この感覚はなんだか久しぶりの気がする。


 杉村が転校してきた当初、彼女から時折感じていた視線だ。

 働き蜂さんが出てこなくなった事により、以前の杉村に戻っているのだろうか。という事は、杉村はこれから普通の人生を歩めるという事なのだろうか。


 杉村が目を瞑り、口を閉じる。


 あ、いや、まぁ・・・・・・・うん。

 そうなるよね。


 気持ちで答えられないなら、行為で。

 若草の言い分も一理あるし、一般的もそれは間違いでは無いと思う。


 僕は、杉村の震える肩に手を添えて、いや、これ、震えてるのは僕だ。


 お、落ち着け。落ちつけ。


 ただ単に、皮膚の一部が、ちょこっとくっつくぐらい訳ない。


 大丈夫だ。問題無いはずだ。


 杉村は僕の事を間違いなく愛してくれている。


 だから、せめてその気持ちに、今、答えられるだけの全てを!


 頭の中でいろんな事が、ぐちゃぐちゃにぐるぐる混ざって混濁していく。


 杉村との顔の距離を縮めていく。

 杉村の黄金の睫が、儚げに震えている。


 僕の服の裾を掴む手の力が強まっている。


 僕は杉村の唇と自分の唇の距離を目測で測ると、目を瞑って距離を縮めていく。


 頭がうまく回らない。もう、これは、勢いに任せるしかなさそうだ。


 杉村の気持ちに応えてやりたい、これは、愛、僕が無くした感情。


 愛、愛って、なんだ?

 遠い昔、解ったような気がしたんだけど、いつだ?いつ?


 誰かの声がした。


 「こんな私を愛してくれてありがとう」


 これは、母の声だ。


 そう言い残し、父に刺されて、刃物を抱き抱えたまま死んだ母。ほとんど僕は母に相手にされていなかったのに最期の最期で、母は僕にお礼を言った。


 そうか、僕はかつて人を愛していたんだ。


 そして、ずっと、横には杉村が居てくれて、僕を支えてくれていたんだ。昔も今も変わらずに。


 いつだ?いつ僕は、愛を無くした?


 母が死んだ日?いや、違う、あの時はわずかにまだ残っていた。


 いつ・・・・・・だ?


 誰かの声が聞こえた気がした。


 「緑青君、大好きだったよ。ごめんね。忘れて?私の事は、全部忘れていいから、貴方は・・・・・・生きて?」


 暗い闇の中で、目に見えない淡く優しい光で僕を包んでくれた女の子の姿が見えた気がした。


 あの子だ。


 僕が時折、夢に見る、名前も顔も思い出せない子。


 いや、思い出したくないのか?


 「だから、私を殺して?」


 鮮明な声が、僕の耳を貫いた。


 僕は目を見開き、入道雲が占拠する青空をその目に焼き付ける。


 ここはどこだ?


 山小屋?いや、違う、皆と山にキャンプに来たんだ。


 激しい動悸が僕を襲い、目眩を起こし、よろめく。


 異変にいち早く気付いた杉村が、涙を流しながら、勢いよく立ち上がり、僕の額にある傷に軽く唇を合わせる。


 「ごめんね、ろっくん。今はこれで十分だよ」


 若草も異変に気付き、僕の背中を支えてくれる。


 「緑青、お前、人を好きにならないんじゃない、なれないのか?」


 僕は、全身に夏の暑さとは関係のない汗をかいて、膝から崩れ落ちる。

 目眩に襲われながら、この辺り一帯を囲む森に視線を巡らせる。


 目の前には、大きくなった杉村が居る。


 昔、森で僕らは遊んでいた。


 通り雨が少し降って、幼い杉村は僕がプレゼントしたお気に入りの黄色いレインコートを羽織って森でサバイバルゲームに興じていた。


 杉村が姿を消したのはあの日?か?


 何があった?いや、何かあったのだ。何が?


 見知らぬ男の声が、脳に直接響いてくる。


 「これは、ゲームなんだよ。君と僕の生贄ゲームさ」


 意識が遠のきそうになるところに、誰かの声が僕の脳を貫く。


 「しっかり意識を保つのじゃ!石竹緑青よ!お主ならやれる!」


 うなだれる僕は、目を見開いて状況を確認する。

 目の前には銀色の髪をした少女が居た。

 髪を両サイドにまとめ、黒いワンピースを着た、猫目で黒目がちな瞳。


 日嗣尊ひつぎ みこと姉さんだ。


 続けざまに僕を励ます日嗣姉さん。


 「負けるでない、過去の出来事などに!お主は今を生きる人間じゃ!」


 僕は、杉村に向き直り、膝に手を置いて力強く立ち上がる。

 杉村を抱き抱えたまま。


 そうだ、僕は、もっと足掻かなきゃいけない。

 僕らの人生を邪魔し続ける何者かに一矢報いる為にも。


 汗だくで、青ざめて、みっともない、そんな僕を見上げる杉村。


 僕はそっと、杉村の額に、唇を合わせた。


 「にゃえーーーっ!!」


 という、すっとんきょんな奇声を発しながら、杉村がその場に崩れ落ちる。かなり戸惑っているようだ。なんかごめん。


 日嗣姉さんが、僕の肩を叩き、言葉をかける。


 「第4の少年よ、第三段階はクリアーじゃの。お主は今、一歩、前に進んだのじゃ」


 混濁する僕の意識の中、佐藤の真っ赤になっている顔が目に入る。


 僕は言葉になってない何かを必死に絞りだす。


 つっかえてる何かが、喉を潰して、声にならない言葉が漏れ出る。


 佐藤がその僕の言葉を聞いて、驚愕した表情になる。


 何か、何か僕は言葉を発したのか?

 わから・・・・・・ない。


 僕は、杉村に抱き抱えられながら、気を失った。


 誰かが、僕の背中を後押ししてくれた様な気がした。


 僕の知らない、僕を知っている女の子が。


少年は次のステップへと駒を進める。

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