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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
蜜蜂と接合藻類
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八ッ森市立高等学校

その手紙、黄金の少女へと愛を謳った文。

されど想いは忘却の彼方へと散りらん。


あ、どうも、金髪の幼馴染を捜す石竹緑青(いしたけ ろくしょう)です。


 さてと、僕の在籍するこの八ツ森市立高等学校は、市内でも有数の資金力と敷地面積を誇り、茶色い煉瓦造りの壁を基調とした建物は歴史を感じさせる。

 校内の一番大きい5階建てのクラス棟を筆頭に、教員棟、部室棟と立ち並び、運動場は長距離走とサッカーと野球と槍投げが同時に行える程のすごい広さを誇る。


他にも、多目的棟、体育館、室内プール等と専用の棟毎に分けられ、それぞれの棟を煉瓦造りのアーチが設けられた幅の広い廊下で繋がっている。


今大事なのはそこだ。この廊下、全て1階にしか設けられていない。例えば、クラス棟の3階から、教員棟の3階に行く事は建物が繋がっていない為出来無い。一度、1階まで階段を降りて、1階の廊下を渡るルートでしか教員棟3階へは行けない。学校のデザインを優先させた結果生じた非合理性。まぁそのおかげで未だクラスに姿を現さない杉村蜂蜜の進行ルートを予測するのは容易くなる。生徒が最初に寄る場所と言えば、まずは下駄箱だよね?土足でそのまま入って来る生徒はまずいない。

 転校初日、杉村蜂蜜が臆する事無く土足で教室に入って来たのを除いては。その時のクラス全体として彼女に対する評価は、少し天然な金髪美少女だったのだが……今となってはなんだか遠い昔の話である。

教室棟の1階に設けられた大きな玄関には、棟内に生徒用の下駄箱が立ち並んでいる。その中から2年A組の靴置場を目指す。


 ここまでの道のりで「杉村蜂蜜」と遭遇する事は無かった。彼女の上履きがある所まで辿り着くと、深緑色のブレザーを着た男子生徒がうつ伏せに倒れていた。


 おっと、第1被害者発見である。


 ふいふいやーやー ふーいぇいえい♪←?


 制服マニアのあなたの為にお伝えしておくが、ブレザーのデザインは男女で違う。


 女子のは、4つボタンのピーコート風。男子は2つボタンのダブルで、色合いも少し違う。女子は少し暗めで男子はそれより明るめの色合いだ。さて、目の前で気を失っている男子生徒を裏返すと、首に巻かれているネクタイが緑色だと判明する。3年生だ。(ちなみに、黄色が一年、赤色が二年だ)


 「あのちょっと、先輩?倒れて気を失ってるとこ悪いんですけど、起きて下さい。授業も始まっちゃいますよー?」


 何度揺さぶっても起きる気配無し。一応、脈と瞳孔を確かめる。命に別状は無しと。


 顔を上げて周囲の状況に何か手掛かりが無いかを観察する。すると杉村の下駄箱は開いたままになっていた。そこにあるはずの靴は無い。下履きも上履きもだ。


 この倒れている3年の生徒の近くに、四角い封筒が落ちていた。中を確かめてみる。


 「拝啓 杉村 蜂蜜 様


  その後、いかがお過ごしでしょうか。

  新しい環境にいくらかの戸惑いがあるかも知れませんがここ八ツ森高校はとてもいい所です。一日でも早く杉村さんがこの学校に馴染める事を願って。ところで、今度映画見にいきませんか?初めて貴女のお姿を拝見させて頂いた時から黄金に輝く髪やその緑青色の瞳の美しさに心を奪われてしまいました。

  7年ぶりの日本、何かお困りの事がありましたら何でもお手伝いさせて頂きます。


  あなたの恋人、生徒会会長 二川 亮」


 これは恐らくラブ・レターなるものだ。

 なんていうか、見てごめんなさい。


 多分彼女は、自分の下駄箱に投函されたこの封筒を、爆発物か何かと勘違いして、それの確認に来たこの先輩を不審者として叩きのめしたのだろう。ん?……靴を履き替えたのなら、どちらかの靴は残るはず……。


どちらも無いって事は、杉村自身がどちらかを履いて、残った方の靴を持ち運んでいる?

辺りの地面を見渡すと、特に汚れた様子は無い。土埃も特に無い事から、上履きには一度履き替えたのかも知れない。


 他に残っている可能性として……杉村蜂蜜の熱烈なストーカーが「杉村の靴を奪い去ってしまった」というケースだ。だとしたら、かなりヤバい奴だろう。


 下駄箱には各々専用の鍵とダイヤルが設けられている。


 本人以外が開ける事は難しい。だから、靴がほしいなら上履きに履き替える瞬間しか無い。今でこそ、その数はそれなりに減少したものの、転入当初からその美貌を輝かせてきた彼女の回りには、一目見たさに常に取り巻きで溢れかえっていた。

 杉村の所有物をコレクションする輩が出ても不思議では無い。とりあえず玄関を後にして、校門の方まで歩いてみる。


 おぉ、第二、第三、第四……被害者発見!


 校門から校舎内まで綺麗に男子生徒が将棋倒しに地面に転がっていた。揺すってもピクリとも動かない。外傷は無い為、恐らくすぐに目を覚ますだろう。綺麗に並ぶ隊列は人間ドミノ倒しを思わせる。それは、中央玄関を逸れ、東側の校舎入口まで連なっていた。


「倒れた生徒を辿れば杉村蜂蜜に辿り着けそうだ。この学校の生徒はどんだけ暇なんだ。外人の女の子を追いかけ回すよりも、するべき事があるだろう(自分も含む)」


 まだ上履きの僕は、外からでは無く、中の廊下を抜けて東側校舎への入口へと急ぐ。


 クラス棟東側の階段に辿りつくと、杉村の体の一部……では無く、ブーツの片割れが転がっていた。

 

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