働き蜂
黄金の蜜を護る番人。それはもう一人の彼女?その嘆きは憂いを湛えて嵐はやってきた。
女王が7年前に暮らしていたとされるこの「八ツ森市」は東京都に内在されている市にも関わらず、その名の示す通り樹林に囲まれている。その為、どこか周囲の世界と遮断されたような独特の時間の流れが存在する。
7年という月日はこの町になんら影響を与える事は無かったようで発展と退廃、伝統と革新、その両方を抱えるこの土地は独特の歩みで町を発展させてきたようだ。
路線も貧相だが、その分バスは充実し、近年特例で八ッ森市内を葉脈の様に駆け巡る専用の無料タクシーなるサービスが実施されたらしい。
そして7年前はサラリーマンだった女王の父親は、市内無料タクシーの運転手に転職されていた。報酬は国から支払われる為、その額は上々だそうだが拘束時間は長く、同じ家に住んでいるにもかかわらず滅多に顔を合わす事は無い。女王が不憫でならない。
その父親と”彼の安否”を確かめる為にはるばる英国から家を飛び出してきたというのに本末転倒だ。しかも、その”彼”にもなかなかお近付きが出来ていない状況だ。なんとも情けない、称賛に値するよ愛する私の半身、私の女王蜂よ。
確かに彼は、7年前に比べてキュートにはなっていたが、話す事ぐらい女王蜂にも出来るはずなのだが……全てを私に委ねてしまっている。私はあくまで戦闘要員だ。交渉人では無い。
こちらは孤独な幼少期を互いに埋めあった幼馴染同士だというのにそこを武器にしないでどうするのだ。もたもたしていると、あの小さい同級生に妻の座を奪われてしまいかねない。由々しき事態だ。
まぁ、あまりモテそうにない雰囲気なので私は安心しているが。
それにしても……彼が生きてて良かったな女王蜂よ。
ん?なんだ?そこのお前、私は誰かと聞きたいのか?
宜しい。
その質問を特別私から許可してやる。
私は働き蜂、女王蜂を守護する者だ。
ん?私達は二重人格なのかって?
うむむ……だが記憶の一部は共用していて、彼女がとった行動はこうして脳内の記憶を探ればある程度思い出す事が出来る。ただし、女王蜂が防壁をかけている記憶は共用出来ないし、またする気も無い。貴様は勝手に記憶を覗かれていい気分がするのか?しないだろ?
それと女王蜂と働き蜂の間にはいくつかの制約が存在する。
この私が表層に出て来られるのは、彼女が恐怖心や危機感を抱いた時だけだ。
故に、今私がこうして自由に行動を許されているという事は女王蜂に危険が迫っているという事で間違い無いと私は考えている。
よく解らない?まぁいい。貴様には関係の無い事だ。
こうして主である女王蜂を守る為に生まれた私は、ただ女王の為に働く蜂。こうして存在している事を誰も否定する事は出来ないはずだ。
さてと、脳内検索はこの辺にしておくとするか。
再起動完了、現状況下における、「働き蜂」である私が考えなければいけない事は、この女王蜂に群がる虫共の駆除だ。女王蜂にとって敵か味方か、有害か無害か、それが大事だ。
八ツ森高校に通う煩悩だらけの男子生徒達よ!お前達は女王蜂に触れる事すら出来ずに意識を失うだろう!この私の背中に忍ばせてある2本のトンファーでな!
この後の生徒達の私の詰問への返答次第で腰にあるスタンガンか、腿にベルトで固定している何本もの鋭いナイフがお前達を捕らえるだろう。女王蜂に危害を与える者は許さない、それが誰であろうとも。
最悪、お前達には死んでもらう。
「さぁ……所属と氏名、そして目的を答えろ!反論は許されない!!」