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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
救世主と藻。あと蜂と星。
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ぶんぶんぶん♩

響く黄金の歌声過ぎ去りしは番人の心。そういえば少し彼女の様子がおかしい?

 ♪Summ summ summ! 

Bienchen summ herum!

  Ei, wir tun dir nichts zu leide,

  Flieg nur aus in

Wald und Heide!


  Summ, summ, summ!

Bienchen summ herum! ♪


 静かに、息を吐き、目を開く杉村。

 英語の歌詞ってやっぱりかっこいいな。


 日嗣尊が「裏切り者ー!」と叫び、荒川が「ブラボー!」と拍手する。佐藤は目を丸くして驚いている。石竹は笑顔で杉村の肩を叩く。


 「ろっくん。いけそう?」


 「うん。音楽の先生と相談して、英語の歌詞で歌わせて貰おう。そうすればきっと!留年にはならなそうだ!」


 裏切り者!と、また日嗣尊が叫ぶ。


 拍手喝采、歌への賛辞が鳴り止まない。

 横を走っていた家族連れのドライバーさんからも拍手を貰う。


 照れて、それに会釈する杉村。


 音楽は何とかなりそうだな。


 「で。石竹?美術の方は杉村はどうなんだ?」


 石竹が困った顔をする。


 「その、なんていうか、一回、美術の先生に杉村が提出した作品を拝見させてもらったんだけど・・・・・・すごい狂気を感じたよ」


 歩く凶器なだけにな。


 「フフフ!私の出番じゃな!そこのカイ=シデンよ!後ろに私が置いている四角いバッグをよこすのじゃ!」


 カイって、俺の事ね。


 俺は後ろを向いて、荷台スペースから大きめのオレンジ色の四角いバッグを石竹に渡す。結構重い。


 石竹経由で荷物が日嗣尊に渡る。


 そのバッグを開き、スケッチブックを取り出すと「動くで無いぞ!」と杉村に号令をかける。


 「なんだ?お絵かきタイムか?なら私は煙草休憩だ」と、荒川が車を道の脇に止めて、外で煙草を吸い出す。


 車内にカリカリという音が響き、鉛筆が紙面の上で軽やかに躍る。

 そしてものの10分で杉村の少し寂しげだが美しい横顔が完成する。


 普通に上手い。


 的確に描き写しただけではない、本人の持つ内面の危うさや、純粋さも見事に表現した画となっている。


 石竹もそれに感動して、拍手する。


 「姉さん、占い(シャッフル)だけで無く、絵も描けたんですね!」


 満足そうに、日嗣尊が「もっと誉めるのじゃ」と催促する。

 

 「独学ですか?」


 「うむ。やること無くで、外に出るのが嫌いだからの。自然と絵に走るようになった結果じゃ」


 「いや、学校に登校してくださいよ!」と、佐藤に突っ込まれる日嗣尊。


 「し、してるもん!テストの時だけだけど!」


 「日嗣さん、確か学年でもトップクラスですよね?テスト点

いいなら・・・・・・」


 日嗣尊が、下を向いてうなだれる。


 「それが出来ておれば、大人一歩手前まで高校生やっとらんわい」


 佐藤が「ご、ごめんなさい」と謝罪する。


 「よい、第4の少女の姉よ」下を向きながら日嗣尊が呟く。第4?何のことだ?


 佐藤がしばらく首を傾げた後、驚いたような顔になる。日嗣尊を驚愕の表情でみつめている。なんだ?


 「第4、姉って・・・・・・まさか」


 日嗣尊が「迂闊じゃった?」と佐藤に謝るが、それを否定する佐藤。


 「いいんです。既に多くの人には知られていることですから・・・・・・」


 石竹も何かピンときたように佐藤に向き直る。


 「あれ?僕も確か、日嗣姉さんに第4の少年って言われたぞ?エヴァ的な何かだと思ったけど?違う?」

 

 「どえぇぇえええ!日嗣さん!迂闊すぎぃ!!」


 勢いよく日嗣尊に突っ込みを入れる佐藤。


 「ほら、あれじゃあれ、”私の4番目の友達”って事じゃ!」


 「そうそう、日嗣さんって友達少ないから、石竹君が4人目の友達って事よ!!」


 「そ、そうじゃ。妾は友達が少ないから、はがないなんじゃ!ひーん」


 涙目になりながら、佐藤の意見に合わせる日嗣尊。混乱する石竹を余所に、杉村が日嗣に渡されたスケッチブックに何かを描いていたらしく、それを石竹に見せる。


 「見て?ろっくん描けた!」


 なんかもう、地雷臭しかしないんだが。


 驚愕の表情をする石竹。


 「・・・・・・何これ??」


 後ろから覗き込んでいる日嗣尊が驚きの表情をする。


 「妾の負けじゃ。妾では何一つ、天使に勝てないというのか!ララァ!私を導いてくれ!」


 そのスケッチブックには写真の様な精巧さで、石竹の上半身がそこ描き留められていた。血管の一本一本、毛髪の一本一本に至るまでの精密な描写力。


 日嗣尊といい、杉村といい、芸術の分野で十分活躍で・・・・・・。


 「で、これ、若草」


 紙をめくる杉村。


 呻きをあげる石竹。


 「これ、尊さん」


 悲鳴を上げる日嗣尊。


 「これ、佐藤さん」


 佐藤もその絵を確認して短い悲鳴を上げる。


 「これ、荒川先生」


 「ん?呼んだか?」


 丁度戻ってきた、荒川が振り返り杉村の似顔絵を見る。


 「嫌がらせかーーー!」


 の叫びと供に、画用紙が破かれ、荒川の顔が四散する。


 「なんでだ?あんなに上手い絵を?」


 佐藤が横から俺を指で突いて「あんたの似顔絵も見せて貰いなさい」と促す。


 杉村に「見せて?」とお願いすると、俺のページを開いて手渡してくれた。


 「なんだこれ!」俺は思わず声を上げる。


 そこには、顔がバグってどうしようも無い俺が居た。

 ぐちゃぐちゃの線からかろうじて、目や鼻が伺い知れるがゾンビの様に崩れた顔はただの肉塊と化している。周りには、何故かお花畑が広がっていた。


 小学生の絵である。


 「ふざけて、描いたのか?」


 首を振る杉村。真剣に描いたようだった。

 にしては幼稚園児並の画力である。


 あの彫像の様な石竹を描き写した同じ手とは思えない。なんかもう、病んでる人が描いたような絵だ。確かに病んでるけど。


 「もしかして、僕の事だけあんな風に描けるのか?」


 それに、顔を紅くして頷く杉村。


 「私の目には、私の世界には、ろっくんしか居ないから。いつもろっくんを見てるから、脳が覚えているの」


 石竹も一気に紅くなる。


 「「うごおぉぉーーー!」」


 と佐藤と日嗣尊が声を重ねて頭を手で押さえる。まぁ、とにかく、目処はたったな。


 「美術の課題は”緑青をデッサンする”にしてもらえばいけそうだな」


 その提案に戸惑う石竹。


 「私と約束したよな?最後まで杉村の力になるって?」荒川が、にやけながら石竹の頭に片手を置く。


 しぶしぶ頷く石竹。


 「分かりました、デッサンモデルやりますよ、やればいいんでしょ!?」


 半分やけくそな石竹に、杉村が迫る。


 「ろっくん。脱いで?」


 「はっ?ここで?」


 「うん。だって、モデルになってくれるんでしょ?」


 「モデルでも脱ぐ必要ないだろ!」


 「なら、二人きりになった時にでも」


 「そういう問題じゃねえよ!」


 「芸術の為に!」


 「完全に杉村の為じゃないか!」


 「ばれた?」


 「ばればれじゃ!」と、杉村から石竹を庇う日嗣尊。


 「妾なんて、この男とベッドを共有し、全部この男に見られたんじゃからの!幼馴染みだからって調子に乗るで無い!天使よ!」


 「「「「えっ?」」」」


 珍しく、俺と佐藤と荒川、そして杉村の声が重なる。


 「あ、しまった!」という表情で顔を紅くする日嗣尊。


 「言ってはまずかったかのぅ?」


 「よけいに誤解を招くような事は言わないでください!ベッドの上って、たまたまベッドの上でタロット占いとババ抜きしただけだし、あの時だって、部室で水着に着替えてる日嗣姉さんが悪いんじゃ・・・・・・」


 「いやーーーっ!!」


 佐藤が渾身の一撃を石竹にぶつける。


 佐藤の右手ストレートを食らった石竹が座席の下に沈んでいく。


 そんでもって杉村から”働きウォーカー”さんが現れて、石竹を攻撃するパターンだな。


 杉村は、危機を感じた際、自動的にもう一人の攻撃的な人格が現れる。


 このパターン、実は石竹の時だけ違う。

 石竹に羞恥心を突かれたり、ひどい事をされた際にも、それが引き金(トリガ―)となり、もう一人の人格が現れるのだ。


 杉村の顔から血の気が引いて、うなだれる。


 「わ、私の知らない所で、そんなことがぁ・・・・・・」


 ショックを隠せない杉村。


 ん?あれ?少し違和感。

 いつもなら、”働き蜂”さんが現れるのにいつまでたっても出てこない。


 「杉村?今、ショック受けたんだよな?」


 杉村が虚ろな顔で声をかけた俺を見据える。今にも死にそうな顔だ。


 「うん、受けた。世界が終わるような感覚。私もろっくんに全部見られないと……」


 「・・・・・・働き蜂さんはどうした?」


 そういえば、というように他の全員が杉村に着目し、警戒態勢をとる。石竹だけは座席の下の方で既にダウンしている。


 「働きウォーカーさん?誰それ?

  私がショックを受けたら、何か起こるの?」


 俺たちは、その言葉に驚いてしまう。


 どういう事だ?


 杉村はなんで自分(働き蜂さん)の事を知らないんだ?


 俺たちと何回も対話してきた、もう一人のお前は、確実に存在していただろ?お前を必死に、守ろうとしていたあいつを、なんでお前が知らないんだ?


 俺の事を”ソーセージ”と呼ぶアイツはどこへ行ったんだ?

 

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