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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
救世主と藻。あと蜂と星。
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S地区侵攻

少年は憤り黒衣の亡霊と黄金の傭兵はその裁きを民に下す。


この物語はあくまでフィクションです。

物語中登場する人物や団体は実在しません。


おかしいな、私達はちゃんとここに居るのにね。

市内最大のスーパー「サジマ」にて。


 「こちらアオミドロ。ホーネット聞こえますか?どうぞ」


 携帯用無線機を通して、くぐもった杉村の声と共に店内の陽気なBGMが聞こえてくる。


 「こちらホーネット。聞こえます。現在、正面入口、自動ドア付近で待機。オーバー」


 現時刻は朝の6時。スーパーサジマは早朝から営業しております。


 作戦前の車内会議で、僕は、キャベツ2玉と卵1パック、うどんの麺6袋、玉葱を奪取し、合流ポイントまでそれを届けるという命令を受けている。


 対する杉村は、バーベキュー用のお肉と鮭の切り身、アルミホイルを補給する手筈だ。


ちなみに、作戦会議の結果、お好み焼きと焼うどんと鮭やきのこのボイル焼き、他、肉や野菜のバーベキューと決まった。


 「こちらアオミドロ、店内に進入した。経路Aオールクリアー。人影無し、どうぞ」


 僕は地を這いずるように身を低くし、ここから一番近い野菜コーナーへと素早く移動する。


ちなみに僕の食べ物の好みも、没個性化しており、特に好きなものも嫌いなものも無い。

 「こちらホーネット。了解。こちらも潜入する。最優先事項は、お肉の奪取。第一部隊の動きはどうだ?オーバー」


杉村はお肉が大好きです。


 遠くで店内の自動扉が開く音がする。潜入には成功したようだ。


 僕は陳列棚の影に隠れつつ、レジの通路まで引き返す。のろのろと、カートを押す荒川先生とその周りに佐藤と若草、喪服で一番目立つ日嗣姉さんの姿が見えた。

 

 目立たなく、ステルス能力の高いはずの僕の姿をすぐに日嗣姉さんは見つけ、補足する。そして、嬉しそうにこちらにハンドサインを送ってくる。(手を振っている)


奴はニュータイプか。


 僕はそれに少し照れながら、手を上げて返事の代わりとする。


日嗣姉さんは、キノコが好きです。


 「こちらアオミドロ。第一部隊は予定通り、大通路を直進。調味料コーナーへ向かっている、どうぞ」


 「こちらホーネット。了解。店内に敵影は無し。フラッシュ」


 「サンダー」


 僕は、近くに置かれていた買い物カゴを片手で掴むと、素早くキャベツが置かれている場所まで滑り込む。


 あとは、玉葱とうどん麺と卵1パックだ。


 幸いな事に、夏休みの早朝、店内に客は少なかった。


佐藤は、鮭が好きです。


焼きうどんと、お好み焼き?を指定したのは、若草で、それなら御飯の代わりになるだろうと言うことだ。


若草は、大阪にも一時的に住んでいた事があり、粉ものが好物なのだ。


 僕はそろそろと玉葱の区画に侵攻し、隔離された野菜棚に手を伸ばすと後方から年輩の女性達の話声が聞こえてくる。


 僕は反射的に野菜ゲージの影に隠れる。


 話し声に耳を傾けるとどうやら年輩の女性3人組の様だ。


 なんとしてもこの格好で見つかるのだけは嫌だ。この年になって、こんな所で戦争ごっこしてるなんて思われたくない。


 (姿を見られたく無いが為、結果的に杉村と潜入ミッションごっこをしている訳だが)


 「ねぇ、さっきの子見た?」


 「さっきのって?」


 「喪服を着た、白髪の女の子よ」


 「あぁ、例の子ね」


 「確か、あの事件に巻き込まれた被害者の女の子。事件のショックで髪の色が戻らなくなったんですってね。かわいそう」


 「それにしても、こんな場所で喪服なんて気味が悪いわね」


 「事件の後、世間から注目されて、まだ目立ちたいみたいね。人と違う事してまで」


 「奥さん、知ってるかしら?あの子、登校拒否らしいの」


 「そうそう、毎年留年して、もうすぐ大人の仲間入りな年齢だっていうのに」


 クスクスと言った笑い声が、不快音を伴い耳の中に伝達される。


 ふつふつと僕の中の何かが反応する。杉村から通信が入る。


 「こちらホーネット、応答せよ、応答せよ、アオミドロ!オーバー!」


 僕は静かに無線を切ると立ち上がった。

 僕が野菜棚の影から変な格好で現れたので、驚いて後ずさる三人組の主婦。


 「あ、あら、誰かと思えば石竹さんとこの甥子さんじゃない」


 「そんな格好でどうしたのかしら?」


 3人組の主婦達が取り繕うように、僕に質問する。僕は構わずに口を開く。


 「姉さんだって、日嗣姉さんだって好きで、登校拒否してる訳じゃありません!本当は皆と同じように・・・・・・」


 主婦3人組が、呆れた様に顔を見合わせる。


 「全部、全部、犯人が悪いんです。姉さんは悪くない!犯人さえ居なければ、姉さんだって!」


 クスクスと顔を見合わせ、笑い合う主婦達を見て、僕はその意図が理解出来なかった。


 「確かにそうね。けど、君は学校に通えてるじゃない。あの子の根性が足りないのよ。いつまでも世間に甘えて・・・・・・」


 僕はたまらずに、手にしていた玉葱を床に叩きつける。鈍い音と供に半壊した玉葱から独特のツンとした匂いが漂う。


 「彼女も苦しんでいます。でもどうしようも無くて、前に進めなくて、そんな子供に手を差し伸べてあげるのが大人達の役割では無いんですか!」


 僕はたまらずに叫ぶ。


 最初は驚いた顔をしていたものの、再び顔を見合わせて笑い合う。


 「それを、君に言われてもね・・・・・・。貴方のお父さん、妻殺しの遺伝子を持つ君に。それに、何より、あなたも・・・・・・」


 リーダー的な振る舞いをする主婦が言葉を言い終わらないうちに、一瞬にしてその場から姿を消す。


 言葉が途中で途切れた事に違和感を感じた他の主婦2人が、後ろを振り向くが、カートに放り込まれた商品を残し、本人がその場から忽然と姿を消していた。


 何が起きたんだ?まるで神隠しの様に消えたけど?


 辺りを見渡す主婦を後方から、ブーツの足音を響かせて、黒衣の亡霊がその姿を揺らめかせながら現す。


 「高田佐智子、37歳。高田明さん40歳との間に2人の子供を設ける。この夏休みを利用して、今日は早朝から夫とその息子2人は市内の湖まで一緒に釣りに出かけている」


 日嗣姉さんが、じろりともう一人の主婦を悪戯っぽく見やる。


 「垣本春奈さん、32歳。最近、高校時代からの同級生である垣本淳二さんと結婚し、現在、妊娠5ヶ月。娘さんの名前は確か、由芽ゆめと決めたところですよね?」


 にっこりと、猫の様な笑顔をその主婦に向ける日嗣姉さん。2人を交互に観察し、止めの様に釘を刺す。


 「高田さんには、金銭的な秘密があり、垣本さんには、婚約してからの男性関係で人には言えない秘密が複数ありますね?」


 青ざめていた主婦2名が、さらに血の気を引かせて、今にも倒れそうだ。


 「倒れるのならお好きに。どちらにしろ、これ以上、この青年の過去をほじくるようなら、私の背後で姿を隠す金髪の少女が・・・・・・貴女達を浦部さんの様に消します」


 「そ、そんな事をしてただで済むと!」


 主婦の一人が憤り、肩を振るわせる。

 余裕の笑みでそれをいなし、指を鳴らす日嗣姉さん。


 その背後から、音もなくトンファーを両手に構えた杉村がぬるりとその姿を現す。


 「アオミドロからの応答無し。敵との交戦状態に移行したと判断する。これより、全力で敵勢力を殲滅し、同部隊のアオミドロの救出作戦を遂行する」


 突然現れた、異国の姿をした少女の、解き放たれた殺気に腰を抜かす主婦の二人組。


 「そんな事して、ただでは」


 「すみませんよね?」


 と、耳元で何かを囁く日嗣姉さん。

 多分、例の秘密がハッタリで無いことの確認だ。


 主婦の2人が、天井を見上げて何かを探している。


 その間にも、姿を現した杉村が距離を詰めてきている。


 「無駄です。監視カメラの位置はこちらでも把握しています。影響のありそうなカメラは、ペイント弾で視界を塞ぎましたから」


 用意周到すぎる杉村に、退路を断たれた主婦2人が大きな悲鳴をあげる。僕はさすがにやりすぎだと感じ、声をかけようとする。


 そこに、荒川先生が現れて、主婦の二人の肩に手を置く。


 「ども。荒川静夢です。いつぞやは、お世話になりました。最近は、この子達の担任をしていましてね。何かご無礼ありましたか?」


 何故か短く悲鳴をあげる主婦2人組。


 そして、手荷物をそのままにその場から逃げ出していく。


 「ごきげんよう」と、やんわりと手を振る荒川先生。


 杉村の方を見る荒川先生。


 「いつのまにペイント銃を、私から取り返したんだ?」


 「私のバックパックには、あと6丁予備が入ってますから」


 杉村は、僕ら全員と撃ち合いごっこ楽しむつもりだったらしい。


 「で、消えた主婦は?」


 「私を怒らせたので、軽く拘束して、スタッフルームに寝かせています」


 「そうか、まあいい。ルール違反を犯そうとした相手も悪いし、ほっておこうか」


ルール?ルールってなんだ?


さっきのリーダー格の主婦が、何かを犯した?そして、僕の方に向き直ると厳しい顔をして、僕に近づいてくる荒川先生。この騒ぎを起こしたのは僕の性だ。


これは殴られそうだ。


 僕は身構えて「すいません、つい」と目を瞑る。


 しかし、いつまで経っても殴られる気配が無いので、目を開けると、床に放置されている僕が半壊させた玉葱を優しく拾い上げていた。


 「うん、まだ食えそうだ」


 カラカラとカートを押す、佐藤がのんびりと合流ポイントに到着する。


 少し離れた所から、佐藤の呼び声が聞こえてくる。


 「必要なもの、放り込み、ましたよー?皆、どこ行ったんですかー?」


 「皆ここにいるぞー?あとは、玉葱と卵を放り込んで買い物終了だ」


ちなみに、ああ見えて、荒川先生は軽いベジタリアンです。


佐藤がカゴ一杯になったカートを、よろけながら方向転換する。


 「あれ?若草君はそこに居ないんですか?」


 この時、若草は、店内をさまよっていた小さい女の子と一緒に母親を捜していて、幸せな時間を過ごしていたらしい。


 「行くぞ?お前らー」


 僕は戸惑いつつ、荒川先生に返事をしてその後に続いた。


 杉村のすごさは相変わらずだが、日嗣姉さんの底の知れない情報力にも一種の怖さを感じた。


 日嗣姉さんの横を通るとき、頭を下げて礼を言う。


 「よ、よい。お主は、わらわの事をかばってくれたんじゃろ?」


 「そ、そんな。ちょっと怒りがこみ上げてというか・・・・・・」


 急にその場で体勢を崩し、床にへたりこむ日嗣姉さん。目には涙を浮かべている。僕は戸惑いながら、体勢を低くして姉さんのか細い背中を支える。


 「こ、怖かったよー」


 と、泣きながら僕に抱きついてくる。


 あ、そうか。


 僕が日嗣姉さんへの悪口に腹を立てた様に、日嗣姉さんもまた、僕への悪口に腹を立てたのだ。


 僕は立てなくなった日嗣姉さんを負んぶして、駐車場へと向かった。


 「二回目じゃの」


 「そうですね。ごめんなさい、俺、もっとしっかりします」


 姉さんは泣きながら「お主はそのままでよい」と慰めてくれた。


 「ところで、あんな情報どこで仕入れてきたんですか?」


 「そうじゃな、わらわも学校に行かぬ時間を無駄に過ごしている訳ではない。暇ついでに、市内の個人情報を興味本位で・・・・・・」


 「なんて迷惑な人だ!」


 日嗣姉さんは、弱々しく、白い花の様な笑顔を僕の背中に咲かせた。


 後に分かる事だが、市内の大手スーパーにも、黒衣の亡霊と金髪の傭兵が出没したという噂が流れる事になる。


 そして、店内の注意書きに、「監視カメラに悪戯しないで下さい」という警告が追加される事となった。


 買い物をするだけで、こうなのだから、先が思いやられる話である。


 あと、歩く度におんぶする日嗣姉さんの鞄から突き出している懐中電灯が、僕の脇腹を突き刺すので痛かった。にしても、何に使う気だ?これ。


 そんな僕は、発煙筒や暗視ゴーグルを鞄に忍ばせているので、あまり強く言えない。


 荒川先生のワゴンに到着して、日嗣姉さんを降ろすと、今度は杉村が背中にしがみついてきた事は別に触れる事ではないか。


なんだろ、今日の杉村はいつも以上に絡んでくる気がする。ちなみに、フル装備の杉村は、かなりの重量でした。

良い子は真似するでないぞ✡

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