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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
蜜蜂と接合藻類
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一年前の僕

君は黄金色に輝く彼女との思い出を胸に立ち上がるんだね。


挿絵(By みてみん)

……あれから七年経つんだよな……。


 現時刻は2012年5月20日、火曜日の午前8時10分だ。すでに授業は始まってしまっている。僕は在籍する2年A組の教室を見渡すが、やはり「例」の彼女の姿は見えない。


僕はだれだっけ?


あ、思い出した。このクラスの没個性君、石竹(いしたけ) 緑青(ろくしょう)だ。


 席に座る品行方正な僕の両脇にクラスメイトの「若草わかくさ 青磁せいじ」と「佐藤さとう 深緋こきひ)」が僕を見降ろしながら立っていた。左に”つり目で優男な若草”が。右に”低身長かつ童顔まな板の佐藤”。このサイドアタックからは逃げられそうにない。


 「聞いてるか?緑青?担任の荒川から出動命令が出てるぞ?」


若草が少し面倒臭そうに僕に用件を伝える。


 「……石竹君に罪は無いはずなんだけど、誰も彼女に近づけないから今日もお願いね?ちなみに全教員と生徒会からの要望でもあるから内申点跳ね上がりねっ!」


佐藤の小芝居をスルーして僕は椅子を引き、席から立ち上がり、交互に視線を送る。


 「えっと、僕の身の安全は誰が保証を……」


 悪友二人は顔を見合わせ首を傾げ合う。そんな事は知らないとでも言いたそうな表情だ。クラス棟3階に位置する僕等の2年A組の教室の窓から男子生徒達の阿鼻叫喚が流れ込んでくる。既に日常光景の一環となっているそれに対し、僕の脳内選択肢が[にげる]から[たたかう]に切り替わる。佐藤が申し訳なさそうに僕の肩にその小さな手を置く。溜息を吐き、教室を見渡すと38人居るクラスメイト全員が早く行けと目で訴えかけてくる。高校入学以来、こんなにも頼りにされた事があっただろうか。否。


 どうやら僕はチェスにおける騎士にあたるらしい。


 この「2年A組」という白の王が黒の女王にチェックメイトされ無い為に身を差し出す白の騎士。やめてくれ、せいぜいポーン位の動きしか出来ないさ。


 諦めの溜息を吐き、若草青磁に視線を送る。


「遺言だけどさ……もし僕が死んだら」

「殺されるわけ無いだろ?金髪のあいつとお前は幼馴染、つまり、お友達だろ?」

「いや……でも今更友達面して近付いてさ、貴方誰?とか言われたら一生立ち直れない」


「ぐだぐだ言ってないで早く行きなさい!」


 佐藤にチョップされて僕は自分の席から追い出される。さっきまでの申し訳無さそうな態度はどこへ消えた。


事の始まりは丁度1カ月前、昔、一緒に地元の森でよく遊んでいた幼馴染の「ハニー=レヴィアン」が僕の前に姿を現した事に起因する。どういう訳か自己紹介時は「杉村すぎむら 蜂蜜はちみつ」という偽名を名乗っていたのだけど。多分、同一人物だ。あの蜂蜜色をした優しい黄金の輝きと僕と同じ名前の色をした瞳は見間違えるはずがない。年齢も僕と同じだし、僕の前から突然姿を消した彼女本人に間違いは無いはずなんだけど……色々あってその確認を本人に取りづらい状況下になってしまっている。


 転入当初は、普通の女の子の状態で、また仲良く遊んだり出来るかと期待していたのだけど……現在進行形でその可能性は限りなく零に近付きつつある。


 「……何でこんなことに?」


 僕は廊下を蹴り上げて校舎内を駆け抜ける。彼女の蜜の香りに群がる虫どもを「助ける為に」。


この時の僕は知る由も無かった。


僕と幼馴染との再会はほんの始まりに過ぎなかった事を。


これは僕等が前に進む為の贖罪に至る一年間の記録。まさか僕があんな事やこんな事になるなんて誰が予想し得ただろうか。


字数換算したら百万文字超えそうな旅の始まり、良ければお付き合い願えないだろうか?報われない彼女達の弔いを込めて……。

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