星の女神の予言
星の女神は青の少年に未来を示す。私も占ってほしかったな。未来はもう無いけど。
「スタンバイOKですかー?」
僕は大きめな声で、廊下からカウンセリング室に呼びかける。
「うむ、準備OKじゃ。入られるがよいぞ!」
許可が出たので、僕らは扉を開けて部室に足を踏み入れる。
室内は暗幕で光を遮断され、部室の机には蝋燭が数本灯されていた。
仄かなアロマな香りと共に、煙が部屋に充満しており、足下は霧の様に覆われていた。
「あ、これ、ゼノヴィアの好きなアロマ線香の香りだ。それによく見ると、あの蝋燭もアロマキャンドルだし」
日嗣姉さんは無断でランカスター先生の私物を使っているらしい。ちなみに、杉村は元に戻っている。
「我が「星の教会」によくぞ参った」
心理部の部室であり、ここはカウンセリング室だろ。と思いながらも、僕はそれに触れないでおいた。机の中央には大きな水晶が設置され、その前に日嗣姉さんが座っている。棍棒の10さん(細馬先輩)は、警備員の様に突っ立っており、日嗣姉さんの両隣を「聖杯のQ」さんと「女教皇」さんが陣取る。
「そこにかけて下さい」
僕等は、日嗣姉さんに誘われるままに、水晶の前に設けられた2人分の椅子に腰掛ける。杉村は警戒してなのか、ずっと僕の腕を掴んだままだ。
「改めてご紹介させて頂きます。私、日嗣尊は「星の教会」の代表を務めております。今回同席しているのは我が教会の信者の3人でございます」
なんだろ、これ。
なんかの勧誘なんだろうか。
僕は少し、日嗣姉さんとの間に距離を感じた。
その表情を汲みとってか、慌てて日嗣姉さんが修正を入れる。
「いえ、その、勧誘目的とかじゃなくて、なんか、こう、雰囲気作りの為にていを取っているだけなんです。だから、そんな遠い目をしないで下さい」
涙目の日嗣姉さんに説得されて僕はその距離を再び縮めた。
「前回、私はシャッフルしましたよね?」
前回、僕を占う日嗣姉さんの姿を思い出した。
「はい」
「その結果をここで伝えようと思います」
「あ、占いの結果が分かったんですね!」
「はい、もうばっちりです」
「勉強したんですね・・・・・・」
小さい声で日嗣姉さんが「しておらぬ」と囁いた気がした。
「まずは前回の、占いの結果を復唱致します」
日嗣姉さんが、机の下からメモを取りだして、それを読み上げる。
暗記ぐらいしとけよって突っ込みたかった。
「石竹緑青君のタロット占い、ヘキサグラム法による占い結果はこうです」
(A)「13:死」の正位置。
(B)「剣:2」の正位置。
(C)「聖杯:2」の正位置。
(D)「0:愚者」の正位置。
(E)「棍棒:8」の逆位置。
(F)「4:皇帝」の正位置。
(G)「剣:8」の逆位置。
「そして、A~Gは位置を現し、その意味はこうです」
A・・・過去の原因を現します。
B・・・現在の状況を現します。
C・・・近い将来の見通しを現します。
D・・・問題に対する対応策を現します。
E・・・対人関係を現します。
F・・・本人の気付かない願望を現します。
G・・・その占いの結果です。
僕は前回のLessonを思いだしながら、日嗣姉さんの話を聞いている。そして、何やら水晶玉を手袋越しに触り出す日嗣姉さん。
「むむむ!貴方の運命が見えました!」
と横にいる「女教皇」さんに何かを耳打ちして貰う日嗣姉さん。
この星の教会の信者を今日呼び出したのは、占って貰う為だったんだな。何かを吹き込まれている道化師の様にしゃべり出す教祖様。
「石竹緑青君、貴方は過去に別離・・・・・・更に言うと、とても大事な人との永遠の別れがありましたね?それが今の貴方に大きく影響を与えている」
僕は両親の姿を思い浮かべる。
「はい、思い当たる節があります」
安心した様に微笑む日嗣姉さん。
「そして現状として、剣の2が出ました。これは、二重人格を現し、行き詰まりを感じているメッセージ性があります」
僕は、杉村の顔をおそるおそる覗き込む。
杉村は僕と顔を合わせると、そっと自分の顔を指さし、私だ!と嬉しそうに答えた。なんでやねん。
「このカードには、マイペースが吉ともとれますので、あまり流されすぎずに自分のペースを保つのもいいかも知れません」
僕はため息をつく。僕の周りには、変人が多い性でやたら他人のペースに巻き込まれているからだ。杉村からは、肩をポンポンと叩かれて、元気出せよって勇気付けられる。もうため息しか出ない。
日嗣姉さんが、隣の女教皇さんから占いの結果がリークされる。
「緑青君の近い将来の見通しですが、「聖杯の2」正位置は新しい友人と・・・・・・えぇ!」
急に日嗣姉さんが立ち上がり、顔を真っ赤にして挙動不審になりながら僕を警戒している。新しい友人って言うと・・・・・・日嗣姉さんの事か?
「新しい友達というか、それって日嗣姉さんの事ですよね?」
「ばっかもん!妾はそんな安い女では無いわ!」
なぜだか怒られた。日嗣姉さんとはLesson以降仲良くなれた気がしたのだけど、少しショックだ。そして小さい声で、早口でこう答えた。
「そしてこのカードは、初めてのチュウを暗示しています。私は君とキスなんかする訳ありません、だってまだ友達じゃないもん」
と子供の様に下を向いてぼそぼそと話す。慌てて女教皇さんが日嗣ねえさんに情報をリークする。
「え?そうなの?新しい友人とキスしちゃうって事じゃないの?な、なんだ」
日嗣姉さんがこっちに向き直り、言い直す。
「君とは仲良くなれそうですね、緑青君。しかしながら、私の初めては譲れません!」
再び女教皇さんからの口添えがある。
「(あの、友人の初めてのキスじゃなくて、あくまで石竹君の初めてです)」
驚いた様に目を丸くしてこちらを見る日嗣姉さん。
「さっきのも無しです!なんじゃお主、初めてのチューもまだナリかぁ。な、情けないのぉ。妾なんてもうそりゃすごいんだからぁ、ぶちゅちゅなんじゃから」
とよく解らない言い訳を並べ出す日嗣姉さん。僕は一回、杉村に初めてを奪われそうになったので冷や汗をかく。まさかな・・・・・・。
横から僕の横顔をずっと見ている杉村に気付いていたけど、今は危険なので振り向かない。
「さて、今、貴方が抱えている問題についてですが、芸術家風の友人や、新しい友達が解決策に繋がると出ています。又、型破りな恋愛も吉かと」
「芸術家風・・・・・・?アニ研3人組?いや、アニメって芸術か?新しい友人って、やっぱり日嗣姉さん?型破りな恋愛か・・・・・・ペドな友人なら兎も角、僕にはそんな性癖無いしなぁ」
またもや杉村からの熱すぎる視線を感じていたが、振り向けない。最近仲良くなって、芸術家風と言うと映画監督目指してた「木田沙彩」の事か?
「対人関係に於いては、思い通りに行かずにストレスが溜まって、先輩と何かしらのトラブルがありそうですね。ぬおっ!妾とのスキャンダラスな事はダメですからね!」
「いや、日嗣姉さんは先輩じゃありません「同級生」です」
「ぬがーーーーっ!」と海老ぞりながら頭を抱える姉さん。
倒れそうになる日嗣姉さんを周りの従者が支える。ご苦労様です。
「緑青君の隠された願望については、皇帝の正位置が出ています。これは厳格で寛大で公平さを現していますが、その力が強すぎてしまうと皇帝特有の残忍性や横暴性、冷酷な面が顔を出すでしょう。緑青君は何かを支配したいのかも知れませんね・・・・・・。杉村さん、石竹君に家庭内暴力の兆候が現れたら、すぐさま相談して下さい。その身柄、星の教会で保護します。そしてあなたは、月の女神として新教祖になって下さい」
今度は杉村の顔を確認すると、自分の体を抱き抱える様に震えながら、懸命に頷いていた。いや、結婚する前提かつ、なんで僕が暴力振るう感じになってんだよ。どちらかというと、暴力振るわれてるんですけど。
「そして最後に「剣の8」逆位置は、この占い全体の結果です」
何やら、女性3人組で円陣を組み、何かを話合っている。水晶いらなくない?そんで細馬先輩が立ちっぱなしで辛そうだ。足をしきりにマッサージしている。
日嗣姉さんが、身なりを整えて僕の事をまっすぐ見る。
その空間が時空から切り取られた様な静けさを帯びて、蝋燭の火が風も無いのに揺らめいた。
「昔の恋人と出会ったり、救い主が現れたりで、やっぱり新しい友達をこのカードはさしておる。これで決まりじゃな」
日嗣姉さんは、机に端に於いていたケースから、一枚のカードを取り出して僕に渡してくれた。
「これは、妾に見初められた者にしか配らぬ、特別なタロットカードじゃ。プレミアものじゃぞ?」
僕は、カードの図柄を確認する。
その絵柄は白と黒のコントラストの世界に紛れ込む様に姿を隠している道化師の絵だった。
「その「9:隠者」のカードは、最高の知性が闇の中に漂っている状態を指しておる。ただし、光を発するなら自分自身の行動でしかそれは成し得ない。消極的ではいつまでもその知恵と知識は発揮は出来まい。それでいて、自らが光を発する事により、周りの闇が一層濃く映し出されるという矛盾にも悩まされるだろう。疎まれる事の無いように自覚して行動するようにね?」
と綺麗な猫目の日嗣姉さんがウィンクを僕に送るので、僕はその愛らしさにドギマギしてしまう。
「貴様!」
と鋭い声が後方から聞こえてくる。
あ、やばい。働き蜂さんだ。