第二ゲーム (川村仁美 と 矢口智子)
それは第二の儀式。笛吹き男は贄の狂気に震える。私はお前を許さない。
< 2003年3月19日:北白 直哉>
「私は、川村 仁美、11歳」
「……私は、矢口 智子、私も11」
僕はようやく、2人をなだめる事が出来た。
前回の失敗を踏まえて、最初から電灯はつけていた。
そして、前回よりも僕の座る椅子を遠くに置いた。
これで、女の子に不意を突かれて突進される事も無い筈。
顔から転ぶのは流石に僕でも痛い。僕は、これがゲームである事を宣言する。
仁美ちゃんと、智子ちゃんは互いに顔を見合わせて戸惑っている。
僕は被験者に考える余地を与えない為に、制限時間の宣言と、どちらかが生き残れる可能性がある事を2人に説明する。
その表情からルールは理解したみたいだね。
僕は2人の間に、小ぶりなナイフをそっと置く。
微動だに出来ない2人。
そうだよね。今回はあえて仲良く遊んでる友達同士を狙って、この山小屋に連れてきた。僕は救世主様の合図を待つ。
小屋の壁が2回叩かれる音がする。
「始め!」僕は〝僕の浄化の為の儀式”の始まりを宣言する。
女の子二人は、呼吸を合わせるように同時に僕に飛びかかった。でも残念。あともう少しという所で鎖に引っ張られて、変な態勢で床に転がった。
痛そう。
「あと、もう少しなのに!」
「死ね!この豚!」
女の子達が僕に悪態をつく。僕は怒ってしまいそうになったけど、我慢した。僕が取り乱すと、この儀式自体が失敗する可能性が出てくるって、救世主様に教えられたからだ。冷静に、冷静に。
僕は、大体の感覚で、「1分経過」って声を出す。
また2人が見つめ合う。
それは最初の、同意の確認じゃ無くなってた。
お互いが相手に殺されないかどうかの、疑いの眼差しだった。
2人の少し離れた所に、寂しくナイフが転がっている。
僕はわざとらしく、僕の持っているナイフを振り回す。
怯えた2人は、血相を変えて小屋の壁際に避難していく。
「2分経過、あと1分しかないよ?神様への生贄はどっちかな?」
僕の華麗なナイフ捌きを彼女達の前で見せびらかす。
シュッシュッ!空を裂くかっこいい音が小屋中に反響する。僕は早く、この新品のサバイバルナイフの切れ味を確かめてみたい。おっと、これじゃあ趣旨が変わってくる。
僕は人殺しに興味は無いんだ。
本当に信じられないよ。
世の中には、他人を殺すことで、自分の快楽を満たす異常な人間がいる。
その殺人犯の中には、殺した人間の血を飲んだり、体の一部を切り取って記念品にしたり、大事な部分を焼いて食べちゃう人もいる。死体を弄ぶ人もいるって、インターネットで見た事があるなぁ。
もう別次元だ。
さてと、そろそろ儀式の始まりかな?
僕は、壁の方を向く。
おかしいな。合図がまだ無い。とっくに時間は過ぎてるのに。
鈍い音が近くから聞こえてくる。
これは壁からじゃない。女の子達の方からだ。
智子ちゃんが、仁美ちゃんを殴っていた。
僕はゲームの勝敗を彼女達に預ける事にした。
だって、ようやく彼女達は生き残ろうと頑張ろうとしたんだから。
「今、ナイフを拾おうとしたでしょ!」
「そんな!ひどいよ、智子ちゃん!私達親友でしょ?」
「今は関係無い!この裏切り者」
「ちが……!」
また智子ちゃんが、仁美ちゃんに殴りかかった。
殴り慣れて無いのか、殴り続けている智子ちゃんの拳も、傷ついて血まみれになっていく。あまり血は流さないでほしいな。それは僕の儀式に必要なものだから。
「やめ……てよっ!」
仁美ちゃんが智子ちゃんを突き飛ばして、引っぺがす。
仰向けに倒れた智子ちゃんに今度は仁美ちゃんが、何度も蹴って、反撃に移る。背中や太股を蹴られている智子ちゃんから鈍い音が部屋に響く。ゴスゴスって。
「お前は、いつもそうやって、自分の事しか考えない!クソ女!」
あーあ、完全に仁美ちゃん、キレちゃった。知~らない。
「ご、ごめん、やめて……仁美……ちゃん……」
今度は智子ちゃんのお腹を踏みつけ出した。溜まらずに智子ちゃんは嗚咽を漏らす。仁美ちゃんの笑い声が、部屋の中に響く。勝負あったかな?あれ?苦しむフリをして、智子ちゃんがナイフを手に持って、仁美ちゃんの足にそれを突き刺した。深くそれは刺さった。苦しんで、床に尻餅をつく仁美ちゃん。顔からは嫌な汗を流し始める。
「い、痛い!いだい、いだいいだい!」
ナイフを自分の太腿から、悪戦苦闘しながら引き抜く。腿に空いた穴から、次々と血が噴き出している。その光景を眺めながら仁美ちゃんは、片膝をつきながら笑っている。
「やりやがったな!」
「そっちが、私を蹴るからでしょ!」
仁美ちゃんのナイフが、一閃、空を裂く。
数秒遅れて、智子ちゃんの叫びが小屋に響く。ピュピュッ!て、智子ちゃんの顔面から血流れてくる。鼻筋を切り裂かれたみたいで、鼻から洪水みたいな血がどんどん流れて床を汚していく。やめてほしいな。掃除するの僕なんだけど。
ゴポゴポと、苦しそうに息をする智子ちゃんは、仁美ちゃんに体当たりをする。腿から血を流している仁美ちゃんは、それに耐えられずに床に倒れる。ナイフを持つ手に、余剰分の鎖を素早く巻き付ける智子ちゃん。
そして、何度も、何度も、手を踏みつけて、指の骨を砕いて、ナイフを奪い取る。今度は智子ちゃんの笑い声が、小屋に響く。そして、穴が開いて無い方の太股にナイフを何度も突き立てる。
「これで動けない……だひょう」
智子ちゃんの鼻から流れ出る血が、仁美ちゃんに降り注いでいる。そして今度は、仁美ちゃんの砕かれていない方の手にナイフを突き立てて、床に磔にする。
「私の勝ひ!」
智子ちゃんの両手が仁美ちゃんの首を締めつけていく。もう抵抗も出来ないくらいに弱っていた。僕は、勝負がついたと思って、2人に近付く。殺される前に、切り裂かないと血が一杯噴き出ないからだ。
2人は血を流し過ぎているから、少し……心配だけど。
2歩ぐらい進んだ所で、仁美ちゃんのナイフが刺さっている方の手が動いて、そのまま智子ちゃんの脇腹を刺した。あれ?まだ勝負はついてない?その痛みに自分の脇腹を確認する智子ちゃん。そこにあるのは、手の平から突きだしたナイフの柄だった。
手の甲から突きでたナイフの刃先部分で智子ちゃんの脇腹を刺したのだ。
その刃先を、ゆっくりとねじる仁美ちゃん。蛇口の様にひねられたナイフの間から、血がどんどんと流れだす。ナイフを動かす激痛に耐えられず、智子ちゃんが仁美ちゃんから体を離す。
「うごご、ごおぉ……!」言葉にならない声で床を転げる智子ちゃん。
仁美ちゃんは両足からの出血がひどくて、身動きはとれないみたいだった。それでも這いずる様に智子ちゃんに近付いていく。智子ちゃんからは完全に血の気は無くなっていた。鼻と脇腹から絶えず洪水の様に血を垂れ流しているし。
仁美ちゃんは力を振り絞って、自分の手に刺さったナイフの刃先を使って、智子ちゃんの左目を突き刺した。その激痛にもがき苦しむ智子ちゃん。
でも、手の厚さが邪魔して、眼球から脳に至る深さに届かない。ナイフの刃先を抜いて、もう片方の目にも同じことをする。
ちなみに左目からはナイフを引き抜く時、何かがべチャッて床に落ちたけど、僕はそれを見ない様にした。もう片方の目にも同じことをする。すごく痛そう。仁美ちゃんの腕を掴み、その状態をキープさせる智子ちゃん。なんでだろう?痛いはずなのに?
そして仁美ちゃんの腕を片手で掴んだまま、手の平から突き出ているナイフの柄を、空いてる方の手で掴むと一気にそれをひっこ抜いた。
仁美ちゃんの腕を強く握り、抑えたまま再びナイフを手にする智子ちゃん。もう、多分目は見えていないので、勘で勢いよく仁美ちゃんに向かってナイフを突き立てる。
そのナイフは血をまき散らしながら、仁美ちゃんの頭に突き刺ささる。悲鳴すらあげる事無く仁美ちゃんの体が崩れていく。智子ちゃんの笑い声が、小屋に響きわたる。僕は智子ちゃんに近付いて、声をかける。
「おめでと……」
僕の声を頼りに、仁美ちゃんの頭に刺さっていたナイフを引き抜くと、今度は僕のお腹にそれを突き刺した。
僕が太っていなかったら、死んでたかも。
「い、痛い……」たまらず僕は声をあげる。
「ざまぁみろ!……どうだ!痛いだ……ろ……」
智子ちゃんの体が急に硬直して、そのまま動かなくなった。
多分、智子ちゃんは数瞬前に既に死んでいたんだと思う。それを、僕に一矢報いたいが為に、気力で命を引き延ばしていたんだと思う。僕は神の御業を垣間見た気がした。
彼女には生きていてほしかったな。もう遅いけど。
僕は、ポケットから鍵を取り出すと、彼女の手枷を外してあげた。
そして丁寧に、怪我した所に包帯を巻いてあげて、手当てをした。
両目と鼻と脇腹が包帯でぐるぐる巻きになって、ミイラみたいになった。
もう、死んじゃったけど、君は勝者だ。
僕は彼女の体を、小さな棺に丁寧に寝かせてあげた。
もう一人の彼女は、ゲームに負けた方だから、解体して、山に生息する野犬にでもあげようかな。血はもう流し切ってる様だし、僕が浴びる分は少なくなりそうだ。今回はまぁいいか。
あ、思い出した。僕もお腹を怪我してた。病院行かないと。
小屋の壁を3回ノックする音がする。
救世主様も満足したみたいだね。よかった。世は事も無し、エィメン。