表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
星の女神と接合藻類
42/319

最後のLesson✡

LastLesson?私も緑青君に淹れてほしいな。

 紅茶を入れる石竹緑青いしたけ ろくしょう

 それを啜る日嗣尊ひつぎ みこと


 再び、紅茶の優しい香りがカウンセリング室に漂う。


「お主、わらわの〝紅茶入れ係”と“カード拾い係”を任命してやってもよいぞ?」


「お断りします」


「そうか、まぁよい」とさして残念がる様子も無く、クッキーに手をつける日嗣姉さん。


「それにしても、なんでこんな日にそんな恰好でここにいたんですか?」


 日嗣姉さんが自分の格好を見下ろし、思い出す様に答える。


「ふむ。そんなに変かの?」


「いえ、一応ここは学校ですし、その格好は少し不味いかと……」


「お主は嫌いか?」


 薄着女子は好きです。とは答えられないので僕は、「相応しくないと思います」と答える。


「ふむ……なにぶん、学校生活が浅い故、一般の女子の格好が解らんのでな……。

 迷ったあげく、そのまま来た」


 この人すごいな。部屋着で学校まで来たのか。


「いつも着用している喪服はどうしたんですか?」


何かを思い出した様に、苦しい顔をする日嗣姉さん。


「夏場の真昼の日差しはきつくてのぉ……ただでさえ、黒色は熱を吸収する故、リタイヤしたのじゃ。あ。もちろん、夏休み前は、きちんと正装で来ていたぞ?今は夏休みであろう?それぐらい許してくれても良かろう」


……僕等の学校指定の制服も、下は黒色である為、太陽の熱を吸収してしまうが、日嗣姉さんの言う正装とはおそらく喪服を指している。

確かにこの日中を黒一色で過ごすのは地獄だろう。


「許すも何も、僕は風紀委員では無いので気にしませんよ」


「そうか、お主、将来は大物になるぞ」


「ありがとうございます。でも、その格好は……目に毒です」


 日嗣姉さんが、不思議そうに自分の体を見下ろす。


「そんなに……醜いというのか……」


 ちょっと涙目になる日嗣姉さん。意味を完全に取り違えている。


「そうじゃなくて……肌色の部分が多いと、年頃の男の子は……」


「ん?えぁ?え?!」


 慌てて日嗣姉さんが、カーテンの向こう側に姿を隠す。そして乱暴に奥の方のロッカーが何回も開いたり、閉じたりする音がする。


「いいか!お主、今、絶対にカーテンのこちら側に来るでないぞ!絶対にだからの!(え~っと、確かにこの辺に……予備の制服を入れといたはず……)」


 小さな声が向こう側から聞こえてくる。


「(……あった!まだ一回しか着てないから、綺麗!)」


 カーテンの向こう側から、ガサゴソと物音がする。


「まだ、だめだからの!」と念押しの声がかかる。


 僕はその間に散らかった机の上を片付けていく。


「り、リボンの付け方は……こうかな?スカートは……こっちが前?」


 食器類も片づけ終わった僕は再び中央のソファーに腰をかけて日嗣姉さんの仕上がりを待つ。


「(よし、後は上着を着て完成じゃ……あ!)緑青君!」


 奥から僕を呼ぶ声がした。


「このホットパンツは、今時の女子高生としては脱いだ方がよいのか?」


 僕は、日嗣姉さんの履いていた、短いピンクのホットパンツを思い出す。脱いで下さい。とは言えないので、そのままでお願いします。と答えた。


「よし、少し脱臭剤臭いが肌色の部分は減った様に思う。これでよいかの?」


 カーテンの向こうからひょっこりと、制服姿の日嗣姉さんの姿が現れる。なんというか……決まりすぎている。


 緑を基調としたピーコート風の上着に、鮮やかな黄緑の細いリボン。

そして布が折り重ねられた黒色のスカートは、完全に儚げな美少女の雰囲気を醸し出している。その姿は、清純さと大人の色気を同時に合わせ持っている様だ。杉村の制服姿も似合っていたが、その印象は180°違うものだった。彼女が軍隊を彷彿とさせる力強い美しさなら、彼女は森林に住まうエルフの様な知的な美しさだ。同じ制服でこうも印象が違うのは珍しい。

 

「何を呆けておる!これで破廉恥なお主の欲望はシャットカット(←?)出来たかと聞いておる!」


 僕は素直に「綺麗です」と答えた。


「うおぉぉぉ!」と奇声を上げて、森の奥に帰っていく銀髪のエルフ。

 いや、間違えた。緑のカーテンの奥に引っ込む日嗣姉さん。


 そして、しばらく間が空いて、僕をベッドに呼び込む声がする。


 「尊お姉ちゃんの最後の占い講座の始まりじゃ!」


 僕は下からカーテンをめくり上げて、恥ずかしそうに俯く日嗣姉さんの座るベッドの上に乗り上げる。


 「LastLesson~実践♪」


 「はい!宜しくお願いします!」


 日嗣姉さんは、先程シャッフルした山のカードを丁寧に持ちあげてカードを捲りやすいポジションに持っていく。


 「Lesson3では、占う為の前準備までを説明したの?」


 「はい。されました」


 「次は、実際に占っていこうと思います」


 「はい、お願いします」


 日嗣姉さんの朱色に染まった頬の色が段々と薄くなっていく。


 「私は、お星様が好きで、いつかは星になりたいと望んでおる。故に、このヘキサグラム法で占うのです」


 「確か、星の……ヘキサグラムの形にカードを置いて行くんですよね」


 「うむ、星の形に置いて、最後に、その真ん中に一枚置くのじゃ。解り易い形でいうと、六角形の形じゃ」


 

 日嗣姉さんは、ヘキサグラム法という占い方を好む。それが星の形だからだ。


「ヘキサグラム法の占う手順は、大・小アルカナ全78枚のカードを使い、シャッフルしカットした山から、計〝7枚”引いて表を向けるのじゃ」


「置いていく順番にも意味はあるんですか?」


「うむ。もちろんじゃ。今から実践を交えて説明するぞい?」


「【タロット占い】~ヘキサグラム法の手順~」(CV:日嗣 尊)


 頭に、星(✡)の形をイメージしてみて下さい。

 〝正三角形を二つ重ねる”イメージで置いていきます。


 正三角形の形を作ってから、今度は逆三角形の形に置いていき、最終的に星の形になる様にします。山札からカードをめくり、一枚ずつ指定の位置に表向きで置いていきます。この時、カードの向きを変えない様に注意して下さい。では、実際に置いていきます。


 ①一番上、正三角形の頂点にあたる位置にカードを置きます。この位置は占う相手の過去の原因を現します。


(この位置を(A)とします)

(※以下略)


 ②次に正三角形の右下の頂点に位置する部分にカードを置きます。この位置は現在の状況を現します。(B)


 ③次に、正三角形の左下の頂点にあたる位置にカードを置きます。この位置は近い将来の見通しを示しています。(C)


 ④次にこの形造られた〝正三角形”と重なる様に、〝逆三角形”の形を造っていきます。


 ⑤逆三角形の一番下の頂点に一枚置きます。この位置は問題に対する対応策を示してくれています。(D)


 ⑥次に逆三角形の左の頂点にカードを置きます。この位置は主に対人関係を示しています。(E)


 ⑦残りの逆三角形の右の頂点にカードを置きます。この位置は本人の気付かない願望を示しています。(F)


 ⑧この逆三角形が形造られた段階で、六角形を描く様なカード配置になっていると思います。


 ⑨そして、最後にその六角形の中心に7枚目のカードを置きます。この中心に置かれたカードこそがこの占いの結果に繋がります。 (G)


↓こんな配置になると思います。


  

   (A)


(E)   (F)


   (G)


(C)   (B)


   (D)



「ここまで良いか?緑青君?」


「はい!記号で見ると、A、B、C、D、E、F、Gの順番でカードを表向けていくんですね?」


「うむ。上出来じゃ」


 場に出そろったカードを眺めて、しばらく考えた後、紙とペンを取り出してカードの配置を記録する。



 <石竹緑青の占いの結果>


  各A~Gの位置に置かれたカードを見ると


  A=「死」の正位置


  B=「剣の2」の正位置


  C=「聖杯の2」の正位置


  D=「愚者」の正位置


  E=「棍棒の8」の逆位置


  F=「皇帝」の正位置


  G=「剣の8」の逆位置


 僕は占いの結果が気になって日嗣姉さんに声をかけるが、唸るだけでいつまで経っても回答を得られない。


 「解らないんですか?」


 「うん、やっぱりわかんない」


 正直にカミングアウトしすぎる姉さんには逆に爽快感を覚える。


 「お主、次にここへ来るのはいつじゃ?」


 確か二日後に杉村の水泳の補修が控えていた。


 「明後日ですね」


 「おぉ、奇遇じゃの!わらわもその日にここへ来る用事があるのじゃ」


 「……補習ですか?」


 「お主エスパーか!!」


 「水泳ですよね?」


 「お主予言者か!!!!」


 僕は呆れた様に溜息を吐く。


 「よし、では明後日の16時にまたここへ来るが良いぞ!その時に占いの結果を教えてやろう!」


 「明後日なら解るんですか?」


 「うむ。解る。小アルカナの意味が解る信者を連れてくるからの」


 「信者?」


 「うむ。わらわは〝星の教会”の女神様として崇められておるからの。信者の1人や2人当たり前じゃ」


 「え?!オカルト的な怪しい教団への勧誘ですか?」


 日嗣姉さんが慌てた様子でそれを否定する。


 「違うのじゃ!そういう怪しいのじゃなくて、2年位前からかな?いつの間にか私を教祖とした〝星の教会”というのが造られておってな。いわば私の為だけに動く信者を抱える教団で……」


 説明されればされるほどんどん僕は怖くなっていった。


 「ひーん、違うの。うまく説明出来ないの、というか、私もよく解っていないのだ。決してそんな、統合失調症とか分裂症とかそんな感じでは私は無くて……ぐすん」


 と仕舞には泣きべそをかきだす星の教会の教祖様。


 「と、とにかく、明後日、またカウンセリング室に来ればいいんですね!」


 とフォローを入れる僕に嬉しそうに抱きつく日嗣姉さん。


 「うむー。そうじゃ!」


 すんすんと鼻をすする日嗣姉さんが、落ち着いたのか僕に耳打ちをする。


 「私の講義はこれで終わりじゃが……お主をこのまま帰す訳にはいかん」

 「え?」声の調子が急に変わって驚く僕。


 「ここからが、尊お姉ちゃんの本領発揮よ❤」


 「えぇー!!」

      

 カーテンで締め切られた空間、同じベッドの上で僕達は……。


 「緑青君って……」


 「なんですか?尊姉さん?」


 「意外と……」


 それから1時間位経っていたのだろうか、記憶は曖昧だが、すごい勢いで急にカーテンが開かれたのだ。僕達はそれに驚いて身動きひとつ取れずに硬直する。そこには、夏休みで居ないはずの、荒川静夢あらかわ しずむ先生が目を点にして僕等を見下ろしていた。


 そして、拳を握り、怒りの声をあげる。


 「部室で〝ババ抜き”なんかするんじゃねー!!」


 どうやらランカスター先生が不在の今、荒川先生が変わりに心理部の顧問を一時的に受け持つ事になったのだそうだ。時折、様子を見に来るらしい。


 それが〝嫌”で日嗣姉さんは部室の鍵を締め切ってベッドの上で漫画を読んでいたそうな。今回はババ抜きに熱中する僕等の騒ぎを聞き付けた荒川先生がここまで足を運んでしまった。


 この後、僕等は滅茶苦茶怒られた。


 夕暮れ時、僕と日嗣姉さんは、その日校内最高記録を叩きだした杉村蜂蜜に慰められながら帰路についた。


占いの結果が気になります。(石竹緑青)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ