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幼馴染と隠しナイフ:原罪  作者: 氷ロ雪
星の女神と接合藻類
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ベッドの上のLesson:3

シャッフルの尊さん、あまり緑青君を翻弄しないでほしいな。

「<Lesson:3 占いの手順~>」

(日嗣姉さんが英語の授業みたいに宣言する)


 僕等は再びカウンセリング室の神聖なベッドの上へとその身を移す。占いに丁度よさそうな机が部屋の真ん中にあるのだけども。


 日嗣姉さんが再びベッドの上に座る。

 今度はあぐらでは無く、正座をしていて姿勢もいい。


 目つきもどことなく変わっている様だ。

 黒目がちな瞳は、どこか遠くを見つめる様に儚げだ。


 「ここから私は占いに集中しようと思います。

  占いで一番大事な事はなんだと思いますか?」


 日嗣姉さんが脇にどけてあった78枚のタロットカードの山を自分の前に丁寧に置く。


 「引きの強さ?」


 静かに首を振る日嗣姉さん。


 「引きが強いというのはカードゲームにおけるルール上、強い札を引く強さじゃ。占いに於いては〝いい結果”を引き当てる為の強さなどいらぬ。タロット占いに必要なのは善いも悪いも含めた〝正確”さじゃ」


 確かに、人は自然と良い結果を望む。しかし、それが偽りの結果だとしたら何の意味も無い。悪い結果であれ、正確であればあるほどそれに対する対策が打てるというもの。本来、占いの結果が悪くてもそれを悲観する必要など無いのだ。  


「その正確さとはどこからくる?」


 僕は間を置き、考えてから答える。


「占われる人の運ですかね?」 


 首を横に振る日嗣姉さん。


「占いを行なう者の持つ、念の集中度にかかっておる。

 それが発揮されるのは、山場を造る前のステップ、

 カードを混ぜる〝シャッフル”に全てがかかっておるといえよう」


 言われてみれば確かにそうだ。めくられていくカード自体は、山が造られた段階ですでに結果は決まっている。その結果を左右するのは占い師のカードを混ぜるステップだ。 


「占いの正確さは、占いを行なう者の集中力にかかっておるので、

 私は集中モードに入っておる。これでも、なかなかの的中力を誇ると崇められておってな……〝シャッフルの尊お姉ちゃん”と呼ばれてたりもする位じゃ」


 この人、混ぜる専門?


 確かに小アルカナの意味も全部知っている訳ではなさそうだったからなぁ。シャッフルの~ってなかなか強そうな通り名だ。素手でロボットも破壊出来そうな雰囲気が漂う。


「集中力を持続させる為に、占いの手順はこれを読むのじゃ」


 と小さなメモ用紙を渡される。そこにはこう書いてあった。



 <占いの手順>


 ①カードを全部裏返し、一つの山にまとめる。


 ②次に占いたいテーマと占い方を決めて、

  それを心の中で念じながらカードの山を崩し、

  右回りにかきまぜる。シャッフルシャッフル。


 ③シャッフルを終えたら、カードを一つの山にまとめて、

  自分の体に対して横向きにする。


 ④そしてその山を、左手で二つに分け、

  上の束と下の束を入れ替えて元の山にする。


 ⑤カードの向きを決める。


  →相手を占ってる時はカードの左側を手前に持ってくる。

  →自分の時は右側を手前に持ってくる。


 ⑥カードには天と地があるので気をつける。


  山からカードをめくった際、

  カードの天が上になった場合は「正位置」、

  カードの地が上になった場合を「逆位置」、

  と呼びそれぞれ別の意味合いを持つ。



 「読み終わったかの?理解出来たかのぉ?」

 と日嗣姉さんが目を瞑りながら僕に質問する。


 「今から尊お姉ちゃんは、シャッフルする訳ですね」


 「うむ」と深く頷き、手探りで目の前にあるタロットカードの山を崩してベッドに広げる。日嗣姉さんの左手が何かを探す様に空を彷徨う。


 「お主の額に手をかざす。こっちに頭を寄せるのじゃ」


 僕は素直に日嗣姉さんのピンと伸ばす左手に額を近付ける。


 「よし、そのままの姿勢で居るのじゃぞ?」


 目を瞑ったままの日嗣姉さんは、反対の手をベッドに広がったカードに近付け、ゆっくりと掻き混ぜていく。カードが裏返らない様にそっと優しく、それでいてカードがまんべんなく混ざる様に右手が大きな円を描く。


 ……見ない様にはしているが、僕の近くで態勢を低くしている為、ノースリーブの姉さんの白い胸元が気になって仕方無い。普段は恐らく、黒衣……喪服で占っているんだろうなぁ、と思いつつ混ぜられていくカードの方に視線を移す。   


 バタッ、バタタッとベッドの上から結構な枚数のカードが落ちた。おいおい。いつの間にか姉さんのシャッフルはその激しさをましていた。

 僕はそっと、ベッドの下に落ちたタロットカードを拾おうとして体を逸らす。その気配に気づいた日嗣姉さんの口から「動くで無い!」と厳しい声があがる。


 僕は体を硬直させる。


 「これが私の占い方じゃ。場から弾かれたものは、お主の運命にとって関係の無いカードじゃ。今はこの場に残る〝関係在るカード”のみに集中するのじゃ」


 僕は再び、掲げられている日嗣姉さんの左手の傍に額を近付ける。


 「うむ、いい子じゃ」


 目を瞑ったまま今度は僕の頭を撫でる姉さん。

 そしてしばらく、彷徨う様に手を場に走らせ、カードを混ぜて行く。


 念じるのに体力を使う為か、その息遣いも荒々しくなってきている。


 「うむむ……うぐぅぅ……そりゃ~……」


 よく解らない掛け声がカウンセリング室に響く。


 ボタボタとベッドの端に追いやられたカードがコインゲームの様に次々と落ちて行く。多分、半分位落ちているな、あれは。


 そして、息を止め、何かをこらえ出した日嗣姉さんは姿勢を更に低くする。そして「見えた―ーーーっ!!!!」


 という掛け声と供に手を高らかに掲げて、目を見開く。

 その視線の先にあるのは天井……いや、天空遥か彼方、星空なのかも知れない。


 「見えたぞ!緑青君!」


 うん。日嗣姉さんも色々見えていたが、報告しないでおいた。


 「さぁ。かき集めるのはお主の仕事じゃ」


 そう言うと、僕に散らばったカードを山にする指示を出す。

 多分、面倒なだけだ。


 「すまぬな、このシャッフルには全神経を注いでおる故、しばらくは動けんのじゃ」


 あれだけ激しくカードを混ぜていたのに、裏返ったカードは一つも無かった。半分近くベッドの下に落としていたのだけど。目を開ければよかったのに。


 僕は集めたカードを日嗣姉さんの前に差し出した。


 そのカードの山を横向きにして、左手で上下に分割するとそれを入れ替えた。手順通りである。そして僕を占うので左側を姉さんの側に近付ける様に縦向きにする。


「準備完了じゃ✡

 さて、これでLesson:3は終わりじゃ。ここまでは全ての占い方に共通する手順だから、覚えておくのじゃぞ?!」


 と嬉しそうに僕に教授してくれる日嗣姉さん。そして、ベッドから飛び降りると再び紅茶とお菓子を食べに机に向かった。一時中断らしい。


 僕はそのマイペースさに溜息を吐く。


 薄緑色のカーテンを開けて僕も残していた冷めた紅茶を飲みに行こうとする。のだが、カーテンを開けてすぐの所に日嗣姉さんは立って居た。


 「緑青君、すまぬが……」


 と床を指差す。


 そこには先程のシャッフルで僕の運命から弾かれた憐れなカード達が四散していた。


 「拾っておきます」


 日嗣姉さんは笑顔で礼を言うと、屈む僕に軽くハグをしてくれた。

 姉さんのお腹が僕の頭に当って暖かい。ミステリアスな外見とは違い、その内面は暖かく優しい人なんだと思う。


 それにしても、結構な量のカードが辺りに飛び散って……部屋の隅とかに散った分が回収しづらい。


「さすが、シャッフルの尊と呼ばれるだけはある」と僕は小さく呟いた。もしかしたら、これが原因でそう呼ばれているのかも知れない。


「緑青君、紅茶が冷めておる。わらわは暖かいのを所望しておるぞ✡」


 再び僕にお茶入れを要求する日嗣姉さん。

 僕は素早くカードを回収すると、再び流し台へと向かった。


 この人は本当に人を振りまわす。

 けど……やっぱりどこか憎めないのは認めざるざるをえない。


 杉村は補習大丈夫かな……? 

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